音痴の直し方を俺に教えてくれ③
「いやー、素晴らしい! ブラボー! これだよ、アイリス! これを目指すんだ!」
どこぞの評論家でもあるかのように、うんうんと頷きながらスタンディングオベーションを行う俺。
アイリスも感心した様子でディアナへ拍手を送っている……俺の話は聞いてないなコイツ。
「はー、ディアナ、ほんと上手よね……アタシとユニット組まない?」
「えっ! いやその、私は、マスターの響心魔装ですので……」
唐突なスカウトに、ディアナの頭上の狐耳がピンと立って反応する。
その生真面目な性格故、自身の役割を優先した返答をしてはいるものの、関心ある方向からのオファーを気にせずにはいられないのだろう。ベロニカへの道中、俺の見せたルナちゃんのMVに夢中だったしなあ。
正直、アイリスの壊滅的な歌唱力を目の当たりにした今、下手すればディアナの方がアイドルへの適正は高いんじゃないかとさえ思う。
歌以外のダンスやビジュアル面――ファンへの振舞い方というか、魅せ方――などの項目は、長年の積み重ねがあるアイリスの方が、当然ながら遥かに上だ。
しかし、MVを見ただけでルナちゃんのダンスステップを把握できる洞察力や、抜きん出て優れた歌唱力を含めた総合力で見ると、ディアナも決して負けていない。
思い付きの発言ではあるのだろうが、ディアナとアイリスのアイドルユニットか。俺もちょっと見てみたいかも。
何らかの幸運とかでアイリスの歌声が矯正され、ディアナと二人で輝かしいステージに立つ姿を夢想する。
俺が一人現実離れした夢に思いを馳せている最中も、ディアナへのユニット勧誘は続いていた様子だった。アイリスの声が聞こえてくる。
「今すぐじゃなくってもいいわよ。この旅が終わってから、ね? ちょっと考えてみてよ!」
「……前向きに、検討させて頂きます」
そのやり取りで俺は、急速に現実に引き戻された。未だ中空を彷徨っていた視線を無理やり相棒へ向ける。
そうだ。俺は近い未来、どんなに遅くても二十一日後には、この世界ではなく地球へと帰還する。それはこの旅における俺の絶対目的であり、覆ることは無い。
そのあと、ディアナはどうするのか?
召喚者の従者にして武器であると自ら告げる、響心魔装たちは、目的を達したのちどこへ行くのか?
……普通に考えれば、故郷であるトレイユに帰るのだろうが、なぜだか俺には、トレイユで人並みの暮らしを送るディアナの姿を想像できなかった。
俺が、召喚者の帰還という旅の終わりが、それすなわち彼女たちを一人取り残す未来なのではないか。
そう思えてならなかった。
ディアナは、どう思っているのだろうか? 将来の身の振り方を考えているのだろうか?
眼前で金髪の少女と話す相棒の横顔からは、俺はその答えを得ることはできなかった。




