音痴の直し方を俺に教えてくれ①
相対音感、という能力をご存じだろうか。
細かい詳細は俺も知らないが、基準となる一つの音の高さと他の音の高さとを判別・識別する能力、程度の認識は持っている。要は、多様な音の高低差。音と音の違いを聴き分ける能力のことだ。
幼少期に高度な訓練を行わなければ習得が難しいとされる絶対音感とは異なり、相対音感は年齢を問わず、訓練によって鍛え上げることが可能だと聞く。
また、好きな曲調に好みがあったり、音楽自体に美しさを感じたりするのも、この相対音感があるからだとされる。
したがって、相対音感とは、ごく一般的な人間なら誰しもが持つ能力、であるはずなのだが……
「――どうっ!?」
「アイリス様……その、申し上げにくいのですが……」
「全っ然ダメだよ! 何にも変わってねーじゃねーか!!」
第二の特異点管理国、ベロニカを発ってから三日目の朝。
ガランゾという名の第三の国を目指す道中。山間の緑に囲まれた川のほとりで、俺は両耳を押さえて憤慨を露わにする。自称この世界至高のアイドル、アイリスのボーカルレッスンが全く何の成果も出ていないからだ。
まあレッスンとは言ってみたものの、内容はそう本格的なものではない。アイリスの作った歌をディアナと合わせて歌い上げてもらい、アイリスの音程が本筋からズレていたら俺が指摘する、といったものだ。
これが、入りのワンフレーズ目から全く合わない。
何度繰り返しても合わない。高低を指摘しても変わらない。
コイツ相対音感ないぞ! アイドル目指してるくせに! 自分で作詞作曲までできるくせに!!
なんで楽譜の方は完璧なんだよ! それがいざ歌うとなると全部ボエ声になるってどういうメカニズムだよ!?
……俺たちの目の前には、小鳥たちの鳴き声が聞こえてくる森と、陽光を反射して穏やかに流れる川があり、心が洗われるような長閑な光景が広がっている。いや、広がっていた。
が、それら全てをちゃぶ台返しでもするかの如く台無しにする歌声――いやさ、騒音――が、つい数秒前まで辺りに遠慮なく響き渡り、少し前まで聞こえていた小鳥のさざめきが全く聞こえなくなってしまった。
これは流石に気のせいだと思いたいが、川の流れも、まるでどよめいたように一瞬滞留したように見えた。
当の本人は、いったい何がいけなかったのか全く分からない様子で、眉をへの字に曲げて首を傾げている。人を耳鳴りに追い込むほどの声量を発してるのに、毛ほども喉を痛めていない様子で。




