召喚特典と世界間差異⑤
結論から言うと、めぼしい収穫はほとんどなかった。
まずは一階から調べた。出入り口から入ってすぐのエントランスのようなスペースにはこれと言って役立ちそうなものはなかったので、奥にあった扉を開けていく。
扉は全部で三つあったが、すべて中は同じで、診察室のようなスペースだった。
壁にはカルテか何かだろうか、書類の束が詰まった棚があった。書類を手に取り、英語の筆記体のような字が連綿と並んでいるのを見て、読むのを一瞬で諦めた。
俺、この世界の字読めないじゃん。
言葉はわかるのに……その辺りは召喚時に何とかならんかったのか。
気を取り直して、エントランス脇の階段から二階へ。
二階はすべて個室らしく、一定間隔で扉が並んでいた。
デスクと椅子だけの空間に書類が散乱した研究室や、やや広めのスペースに本や書類の納まった棚が並ぶ資料室と思しき部屋などがあったが、武器になるようなものは見当たらない。
読めないまでも何かの情報源になるかと思い、いくつか本をぺらぺらとめくってみたが、ろくに挿絵もないものばかりだった。たまに絵もあるのだが、やはりそれだけでは何の資料なのか検討もつかなかった。人体の挿絵が多かった印象くらいか。
ビルである以上、俺と同じように強制召喚を受けた地球人が、あの無茶な要求にこたえるべく用意した施設なのではと思ったが……
無駄足だったかもしれない。そう思いながら三階へ向かった途端、俺は窓の外の景色を凝視した。
わずかに、霧の向こうに湖面のようなものが見えたのだ。
あれが例の火口湖だ! 間違いない!
すぐに外に飛び出したい気持ちもあったが、せっかく二階まで調べたので、最後の階も調べてから向かうことにする。
三階は、巨大な一部屋しかないようだ。
学校の教室のように、一つの箱に二つの扉が付いているように見える。
入ろうとしたが、ここの扉だけ、開かなかった。二つともだ。
「ぐ、ぐ、ぐぐ……ダメかあ」
鍵ではないらしい。地球の鍵なら多少がたついて動いてもいいものだが、戸先と壁がぴったりと接着したかのようにビクともしない。魔法の仕業だろう。
槍の代わりは諦めて火口湖に向かうとするか。そう思い、その場を去ろうとした瞬間、扉の向こうから何やら音が聞こえた気がした。
しかも、随分聞き慣れた感じのする音だ。
ヘビロテしていたルナちゃんナンバーを一時停止。イヤフォンを外して扉に耳を押し当てる。
やっぱり、聞こえる。電子音のような音だ。




