聖人度合いの偏りがすごい⑦
荒天島を攻略し、盛大な宴を催してもらった、翌日の朝……いや昼。
俺とディアナ、そして青い顔をして頭を抱えるアイリスは、ベロニカの国壁出口にて、ベロニカ王や兵士さんたちの見送りを受けていた。
宴を終えてからたっぷり八時間ほどは経っているはずだが、未だに顔色が優れないアイリスを見た俺は、呆れて溜め息が出た。
「お前、そんなに酒弱いならなんであんなに飲んでたんだよ」
「う、うっさいわね……飲んでる間は平気なのよ! あああああったま痛い……」
昨夜の乱れっぷりを考慮して出立の時間を遅らせたのに……半日じゃ足りなかったか。
「アイリス様、お水です」
昨夜、俺の介入があったことですんでのところで飲酒を避けられたディアナが、アイリスに水の入った瓶を手渡した。
「ありがと……」と覇気の無い様子で受け取る金髪の少女。常のアイドルキャラを演じる余裕も無いようだ。
これから次の国に向かうってのに、先が思いやられるなあ……
絶賛体調不良の新入りを頼れる相棒に任せ、わざわざ見送りに出向いてくれた王へ向き直る。
「すいません、なんか締まらなくって」
「ほっほっほ、そうお気になさらずともよいですぞ、ユーハ殿。我々が見送りたかっただけ、ですからのう」
そう言い、お茶目に片目を閉じて見せる王様。
量こそ少なかったが、この人も相当強い酒を飲んでいたはずなのに、ベロニカ王の言動には酒に負けている様子は微塵もない。
成り行きではあるが、国の宮廷魔術師を連れて旅に出ることになったのだ。心配をかけないように凛とした振る舞いを取り繕って旅立とうとしたのだが、なんだかこの人には見透かされているような気がする。
「次の国となると、ガランゾですな。あそこの特異点は確か、国の中にあったはずですので、ベロニカのようにユーハ殿を落胆させることも無いと思いますぞ」
「えっホントですか」
おおおお、ありがたい情報! 到着次第すぐ行けるんじゃないかそれ!?
いーねいーね! 次の国へは徒歩なら一週間程度かかるって言う嫌な事実も気にならない気分だ! まあ、元からアイリスが回復したらすぐに月神舞踏で進むつもりではいたけど!
「王様、いろいろありがとうございました! よーっし、行こうぜ二人とも!」
「はい、マスター」「ちょ、ちょっと、もう少しゆっくり行きましょうよぉ……」
よろよろと覚束ない足取りのアイリス。
そんな、やや頼りなさげな自称アイドルの魔法少女を連れ、俺たちはベロニカに背を向け、歩き始めた。




