聖人度合いの偏りがすごい⑥
「ちょっとディアナ~! 量が足りてないんじゃにゃいのぉ!? ほらぁ、もっと飲みなさいったらぁ!」
「あ、アイリス様、私はまだお酒はちょっと……!」
「気にしない、気にしな~い! 水みたいなもんだから大丈夫よぉ」
「あああああ……」
あ、アレは止めないとマズい奴だ。絡みが青天井のアイリスに、ディアナが強引に酒を注がれている。アイリスのアイドルキャラもどっかいってるし、ベロンベロンだなあいつ。
相棒の必死に助けを求める視線が突き刺さってくる。流石に止めに行くか。
壁から背を離し、グラスを一気に煽って空にする。
「すいません、王様。ちょっとあのバカを止めてきますね」
「ええ、そのほうが良いでしょう……ユーハ殿」
喧噪の中心に向かおうとする俺を、ベロニカ王が呼び止める。
アイリスを孫のように眺めていた時や、前任の召喚者について語っていた時とは違う、厳かな声音だ。
立ち止まって振り返ると、一見気の良さそうな王の面持ちの中に、穏やかながら確固たる存在感の、秘めたる意志のようなものを感じた。
「アイリスのことを、宜しく頼みますぞ」
その一言だけで、目には見えないプレッシャーのようなものが伝わってくる。
俺は後頭部をポリポリと掻いたあと、「アイリスがどう思ってるかはわからないけど」と胸中で前置き、こくりと頷く。
「友達ですから」
「……ほっほ、そうですな」
そう言い、にっこりと満面の笑みを浮かべたベロニカ王の表情には、既に先ほどの威圧感とも取れる迫力は見当たらなかった。
流石は国王様。いざというときは迫力あるなぁ。まるで娘が連れてきた恋人を見定めるような……
違うよね。
今のやり取りってそういう意味じゃないよね。
自分で思い当たっておいて急に焦り出す俺。
違いますよね王様。ほっほっほ、じゃなくてさ、そういう言外の、暗喩の問いかけとかじゃないですよねぇ!?
俺にはルナちゃんという既に人生を捧げるべき存在がですね!
「そーれ、グイっといっちゃいなさい! グイーっと!」
「ま、マスター! お助け下さい! マスタぁー!!」
人知れずテンパっている俺の耳を、聞き慣れた二人の声が劈く。
あーもう! さっきのはただの普通のやり取り! 娘の友人に対しての言葉だということにしよう! ハイ決定!!
俺は大きくかぶりを振って、最早タコの如くしなだれかかっている自称アイドルの腕から、半泣きの相棒を引きはがしにかかるのだった。




