聖人度合いの偏りがすごい②
「ユーハ殿。楽しんでおいでですかな?」
「あ、王様……おかげさまで、まぁ、それなりに」
広間の壁に一人背を預けたままの俺が目に付いたのだろう、ベロニカ王がにこやかに声をかけてきた。右手のワイングラスを差し出されたので、慌てて俺も持っていたグラスを合わせる。
お互いに一口分煽り、どちらからともなく笑みを溢した。
「うむ! 一仕事終えた後の一杯がこれまた格別! いや、ユーハ殿はまだ成人前でしたか」
「地球ではそうですね。これもただのドリンクですし」
「エーテルリンクでは立派に成人の年頃なのですがなあ。ほら、アレを御覧なさい」
ベロニカ王が指し示したのは、広間の中央に据えられた、一際大きな丸テーブルだ。肉、魚介、デザートのほか、度数や味付けごとに区分けされた酒類まで、あらゆるジャンルの料理と飲料が並んでいる。
そしてそこで高笑いする一人の少女の姿。
「なぁーはっはっは!! アタシにかかれば、魔晶回収くらいちょろいもんですよぉ~! ね、ディ・ア・ナ!!」
「は、はぁ。そうですね。そうとも言えますね」
顔を真っ赤にして笑い上戸になっているアイリスと、その隣で肩を抱かれ、絡まれているかわいそうなディアナの姿は、広間の騒ぎの中心になっていた。
「でしょでしょ!? やっぱアタシって多才なのよね~……多彩魔術師だけに! アハハハハハ!!」
「……ソウデスネ」
「いいぞーアイリス!」「上手い上手い!」「よっ、ベロニカイチの魔術師さまー!」
周りの兵士やお偉方も煽るもんなあ! 物理的にはそんなことは無いのだが、アイリスの鼻が上限なく伸びているように見える。歓声の次に天を衝くのあいつの鼻頭になっちゃうぞ。いやマジで。
アレは酷い……今なお絡まれっぱなしのディアナに胸中で合掌しつつ、乾いた笑いを漏らす俺。
一方で、ベロニカ王はそんな二人の様子を実に優しい表情で眺めていた。怒るところじゃないのかな。ああいうのは。
「……ユーハ殿。本当に、ありがとうございます。礼を言わせてほしい」
ブッハ!? え、え、何で急に畏まって頭下げたんです? 吹いちゃったじゃないですか!
気管に入った水分をゲホゲホと追い出しつつ、何とか返答の言葉を絞り出す。
「ま、魔晶回収の、ことですか?」
「ええ、勿論、それもあるのですが……あの娘の、アイリスのことですよ」




