聖人度合いの偏りがすごい①
「――では皆の者、今日は大いに飲み、食い、楽しんでいくがよい!」
ベロニカ王の言葉が終わると同時に、天を衝くほどの歓声が沸き起こった。
その歓声に身を震わせる俺は、どこか居心地の悪さのようなものを感じつつ、広間の片隅で一人、手の中の飲み物をちびりと口に含む。今俺がいるのは、ベロニカ王城の一角にある大広間だ。
時刻は夕刻ほど。ノスタルジックな夕焼けが差し込む大広間は、普段は式典などの行事の際に使われる厳粛な場なのだそうだが、今は城に仕える大勢の人たちと、豪勢な食事が並ぶ机とで賑わっている。
……今から数時間前。昼過ぎほどの時間帯に、俺、ディアナ、アイリスは、王城内のアイリスの部屋へと帰還した。
ふぃーっと胸を撫で下ろし、今回もどうにか目的を果たせた事実に安堵したとき、背後から声がかけられた。
『お帰りなさいませ。ユーハ殿、ディアナ殿』
そこには、部屋の中にぎっしりと立ち並ぶ兵士たちと、腕組みをして見た目にも立腹した様子の国王の姿があった。
全くあなた方という人たちは!! との一言から入ったベロニカ王の叱責は、たっぷり三十分ほどにも及んだ。ちなみにその内の六割が、言いたいことだけ言ってその場を後にしたアイリスへの説教だった。
……残りの三割は、昨日指摘したにも関わらず荒天島へと向かった俺を諫める言葉だった。最後の一割は、そんな俺たちに付き合わされるディアナの気苦労をいたわる言葉だった。
王の怒涛のお説教がひと段落着いたと思われるところで、頭を下げ続けていたアイリスの目がきらりと光った。同じ姿勢を取っていた俺とディアナは、『またよからぬことを考えてる』とアイコンタクトで不安を共有する。
『陛下! 私たち、魔晶回収を無事完遂しましたよ!』
顔を上げたアイリスは、再びお説教モードに入る寸前のベロニカ王の言葉に割って入った。
俺が小脇に抱えていた魔晶をひったくり、例のアイドルスマイルで王の鼻先に突きつける。
一瞬ポカンとした表情で固まったベロニカ王だったが、アイリスの掲げる魔晶が正しく本物だと認めるや否や、
『宴じゃあーーーーーー!!!』
と叫び、どたどたとアイリスの部屋を出て行った。
取り残された俺とディアナが、ドヤ顔で手柄をアピールしてくるアイリスを適当に扱ってあしらっている――最早恒例となりつつある――と、先ほど詰めかけていた兵士の一人が、肩で息をしながら駆け込んできた。
その彼に誘われるがまま訪れた大広間。俺たち三人は、何が何だかわからないままベロニカ王に表彰され、周囲にずらりと並ぶお偉いさん方の喝采を受け……気付けば、すっかり準備の整った宴会の場に立ち尽くしていた、というわけだ。




