表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/673

一体見かけたら三十体はいると思え⑪

……ヒュージトレントから魔晶をかっさらい、うじゃうじゃいた小型トレントたちの包囲を脱して、一時間弱。


足場の悪い森の中を可能な限り早足で進み、追手も無いようだと判断。ようやっと一息つけるかと速度を緩めた矢先だった。


件の魔晶個体が木々を薙ぎ倒して現れたのは。


「う、うっそだろぉ!?」


俺が驚きに目を丸くしたのもつかの間、ヒュージトレントの巨躯が、先ほどとは見違えた速さで俺たちに迫ってきた。伸ばした蔦と、その蔦の根元である、掌のようにも見える枝葉の部分が、掴みかかるようにして接近してくる。


迫りくる巨体に背を向け、俺とアイリスは全力疾走を始めた。


「叫んでるヒマあんなら足動かしなさい! 足!」


「動かしてんだろ――ああっぶねぇ!」


トレントの伸ばした蔦が、危うく俺の右腕をかすめた。形振(なりふ)り構わない様子の割に、夜剣状態のディアナにしっかりと狙いを定めている。


もう何なのあいつ! ずっと思ってたけど、部下で取り囲むとか煙幕で目潰しとか、そのくせ自分は遠くで見物するとか、やり方がねちっこくていやらしいんだよこいつさぁ! 


正直、スタミナ配分なんて言ってられない。あの野郎、なんか足速くなってやがる! 


少しでも速度を緩めると、捕まるどころか踏みつぶされそうになるほどのスピードだ。もう、エネルギー源である魔晶は回収したっていうのに!


ちらり、と隙間を縫って確認した魔晶個体の姿に、再度俺は大きく目を見開いてしまった。


俺の胴体ほどもある、二本の足のようなヒュージトレントの幹。そこに、今まさに飲み込まれつつある、いや、飲まれている最中の、夥しい数の小型トレントの姿があったからだ。


こいつ、吸収しやがったんだ……部下だったトレントたちを栄養分として!


(おぞ)ましい執念とも取れるヒュージトレントの行動に、一瞬首の後ろが総毛立つ。

ヒュージトレントの顔のような虚も、今はおどろおどろしい形相のように見える。


……コイツのしたことは、俺に置き換えると、ディアナを、アイリスを、犠牲にするってことだ。


――昨日のことを思い出す。無鉄砲な俺を諫めてくれた、相棒とのやり取りを。


周囲の喧騒が、蔦を切り払うアイリスの指の音が、自身の息切れの声さえも遠のく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ