召喚特典と世界間差異④
「なんじゃこりゃ……」
呆然と立ち尽くす俺。
俺の前に、霊峰の頂上付近にはとてもふさわしくないものがあったからだ。
轍の先にあったのは建物だった。まあ、そこまではいい。人里近くの山中だ。山小屋があっても別におかしかない。
ふさわしくないのはその『造り』だ。
そこにあったのは、三階建ての鉄筋コンクリート造と思われるビルだった。
見慣れた真四角のフォルム。等間隔で納まっている窓。入り口はガラス製の両開きドアときた。
そのどれもが、先に通過したトレイユ国の街並みには見られなかったものだ。
なんでこんなものがここにあるんだ? さっぱりわからん。
ビルの窓を見るに、どの窓も真っ暗だ。雲なのか霧なのか、周囲が見辛いためなのかもしれないが、少なくとも明かりのようなものは見えない。
じゃあ多分、今この中に人はいないんだろうな。
この轍は、火口湖を水場にしてる魔物や原生生物のものじゃなくて、このビルを利用する人間たちの作ったものだったらしい。
慎重な足取りでビルに近づき、そっとガラスドアから中の様子を窺う。
ドアの向こうは、病院の待合室のような空間だった。
右手に受付のようなカウンター、左やや奥には木製の長椅子がいくつか設置してある。正面奥の壁際にはいくつか扉が並んでいた。
人の気配は……無いように感じる。
ドアに手をかけてみる。開く。鍵はかかっていないようだ。
不信感はあるが、少しだけ中を調べてみようか。
おそらくトレイユ国の建物なのだろうし、できれば槍の代わりになる武器を調達したい。
もし誰かいても、事情を話せば協力してもらえるはず。そう考え、思い切って中に足を踏み入れる。
「……わ、ズルズルじゃねーか」
室内に踏み出すと、床面からぶわっと埃が舞い上がった。
よく見てみると、さっきのガラスドアも長らく風雨にさらされたような汚れが付いているし、カウンターや長椅子もだいぶ古くなっているように見える。
ここはもしかしたら、ずいぶん前に放棄された建物なのだろうか。
まあ、誰もいないなら心置きなく調べることができるか。




