召喚特典と世界間差異③
霧が出てきた。
城を出てからかなりの時間が過ぎている。
もう既に、バルコニーから見えた雲に突入しているくらいの高さまで来ているのかもしれない。
周囲の光景も徐々に木々の量が減り、反比例するように岩塊や砂礫の姿が目に付くようになってきている。足元はまだ草が生えているけど、更に高いところに向かうにつれてこれも少なくなっていくだろう。
ここに来るまでの間も、麓で多く出くわした蝙蝠とか、足が六本ある狼とか、真っ赤な体に黄色い目をした蜘蛛とかに遭遇していたが、槍という長いリーチの獲物を上手いこと振り回すことで何とかしのいできたが……。
「そろそろ限界かなぁ」
借り受けた槍に目を落とす。穂先は血糊で黒ずみ、柄の部分はささくれ立ってボロボロになってきていた。穂先と柄を接合してる部分も、心なしかグラグラと頼りないように思える。
やはり、武器についてずぶの素人が適当に扱う程度では長くは保たなかったか。一応借り物なのにな、コレ。
借り物と言えば、兵士さんからこの槍を借りる前に、あのペテン師……魔術師サンファが、なにやら武器をくれてやるとかなんとか言っていたな。この世界を旅するうえでの力とかどうとか。
そんな大そうなものを借りたとなっちゃ、逆に身の安全を脅かされるように思えて、ついつい断ってしまったが。やっぱり借りておけばよかっただろうか。
そんなものを持ってると管理面でのリスクの方が気になっちゃうんだよなあ。
レア装備狙いの盗賊とか、ガラの悪い冒険者に因縁付けられるとか、実はあのペテン師が監視の魔法を付けてた、とか。
特に盗賊なんて、向こうの世界の創作物にはいない作品が無いんじゃないかってくらいポピュラーな存在だし……まあ、一番嫌なのは三つ目なんだけど。
なんてことを考えつつ、視線を槍に落としながら歩を進めていると、足元の緑色が不意に茶色に変わった。
「ん?」
立ち止まり、視線を改めて地面に向ける。
けもの道だろうか? 草が生い茂る中、轍のような線がまっすぐ伸びている。大勢の生物が通ることで草が擦り切れ、地肌が露出してできたように見える。
轍は枝分かれすることなく、一本のまま頂上方向に向かっていた。
俺はまっすぐ頂上に向かってきているつもりだったが、轍が伸びているのは俺の向かっていた方向からややずれていた。ひょっとして、こっちの方が正しいのか?
魔晶があるのは火口湖って言ってたしな。そこを水場にしている魔物たちが作った道かも知れない。
よし、この道を通って行ってみるか。




