解説キャラは何人いても助かる④
「魔晶個体の仕業なんじゃないのか? とんでもなく強い一匹がいて、他の魔物たちを全部餌にしちゃった……とか」
「それならそれで、そいつの生活音なりが聞こえてもいいじゃない」
「夜行性とか?」
「ん~……まあ可能性はゼロじゃないけど……なんかしっくりこないわね」
こめかみに指を当てて眉間に皴を寄せるアイリス。
確かに気になることではあるが、現状、進行を妨げられているわけでも無いし、どうしても突き止めなきゃいけない異変ではないんじゃないか? 俺がそう告げようとした時だった。
ガサガサガサッ! と、木々をかき分け、森の奥から何かが猛スピードで接近してきた。
あまりに咄嗟の出来事に、俺は音の聞こえた方向に目は向けられたものの、それ以上は反応できなかった。原生生物の消失について意識を向けていたアイリスも同様に、回避の姿勢は取れていなかった。
――会話中にさえ、周囲を警戒し続けていた、彼女だけが動いた。
「マスター!」
ディアナは俺に呼びかけるや否や、接近してきたものと俺との間に割って入った。
相棒の小さな背が俺の視界に広がった直後、バシン! と大きな音が鳴り渡り、ディアナの身体が宙を舞った。
「かはっ……」
先ほどまで俺が見据えていた木に背中から衝突し、その場に蹲る。
ディアナを攻撃したのは、木の枝のようなものだった。しかし、枝にしては異常なほどの柔軟性で、鞭の如くしなりが効いている。蔓や蔦といった方が近いかもしれない。
蔦は、次の獲物を探しているのだろうか、未だにディアナを打ち据えた空間で空を切っていた。手振りでアイリスへ後ろに下がるよう指示する。
「ディアナ!!」
傷ついた相棒の元へ駆け寄ろうとすると、蔦の持ち主が姿を現した。
人間の子供ほどの背丈の、樹木だった。
RPGで見かける、トレントと言うのが一番近い呼称に思える。
四肢に当たる部分に太い枝葉が通っており、まるで、それこそ人間のように、二足歩行で動いている。
人間の顔に当たる部分に、あたかも目鼻や口にも見える虚が空いていた。
当然その虚には眼球など無いはずなのに、トレントは蹲ったままのディアナを見据えた、ように見えた。
左手部分から一本だけ伸びた蔦が、再びゆらりと持ち上げられる。
「お前ぇ……ウチの相棒に何してんだ!!」
再度の攻撃姿勢を見た俺は、トレントに向かって駆け出した。
木の根や草に足を取られるが、いっそそれらを蹴散らすくらいの気概で加速。ここぞというタイミングで踏み切る。
そして、ディアナに狙いを定めたままの樹木のどてっ腹に、加速の勢いを全て乗せたドロップキックを食らわせた。




