苦渋の折衷案④
胸中で彼女の意図を察しつつ、指摘せずに無言で頷く。
うん。やっぱりこれしか無さそうだな。昨日のうちに思いついていた考えを口に出す。
「わかった。そっちの要求を飲むよ」
「ほ、ホント!? やった――」
「――ただし! 条件が一つある。これが了承できないなら、この話は無しだ」
「……な、なによ、条件って」
俺の一言目に飛び上がりかけたアイリスが、げんなりとして表情を曇らせる。
まあ聞け。別に変なことを要求したりしない。簡単ではないかもだけど。
「知っての通り、俺は特異点を可能な限り早く周り切りたい。そうすると、さっきの交渉内容にあった、継続的な情報提供、っていうのは難しい。一国に留まり続ければな」
「……え、それ、まさか」
「そうだ。条件っていうのは、『今後の俺たちの魔晶回収の旅に同行すること』。これなら、あんたの欲しがるアイドルの情報はその場で教えられるし、俺たちも予定通り特異点を周ることが出来る」
条件を聞いたアイリスが押し黙った。想像はしていたけど、やっぱり即答はできないか。
だが、俺とアイリス、双方の要望を叶えるならこれしかない。
彼女が求めるのは、アイドルとして成長するのに必要な知識だが、それは単純な情報のことを指すのと同時に、実技指導といった意味も含んでいると俺は感じている。
仮にそれが正しいとすると、それを了承した場合は、やはり身近で直接指導することが暗に必須の条件になるだろう。ただの情報だけでよければ、極端な話、紙に書き上げて押し付ければそれで終了するが、昨日の話ぶりではそれで納得するようには見られない。
しかし、俺自身もあの条件をそのままで良しとするつもりは到底無い。
目の前で掴めそうなチャンスを諦めるつもりは、昨日無くなった。
だから、これ以上は譲れない。
あとはアイリスの気持ち次第だ。
「……ちょっと待ってて」
金髪の少女は、口元に手を当てて逡巡している様子だったが、その一言をぼそりと告げて部屋を出て行ってしまった。考えをまとめに散歩でも行ったのだろう。昨日の俺もあんな感じだったんだろうな。
無理もない。一応彼女は宮廷魔術師。要は休職なり退職なりして俺について来い、って言ってるようなものだからな。我ながら無茶な提案をしている自覚はある。
でもまあ、向こうも向こうで俺の時間を拘束しようとしてるし、案外お互い様かもな。
「ただいま」
「あれ、早かったな」
思いの他早く帰ってきたアイリスに驚く。まだ部屋を出て三分も経ってないぞ。
俺の時にディアナが提案したように、やっぱりもう少し考える時間が欲しくなって、その相談かな。
「陛下に許可とってきたわ! これで交渉成立ね!」
そんな俺ののほほんとした予想を、眼前の少女の自信満々な笑みが一瞬で拭い去った。




