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透明CI  作者: 彩ぺん
16/20

NA  何気ない一言と満面の笑顔

黒板に張り出された座席表に思わず目を丸くした。





佐藤が5人も並んでいる。





日本で1番多い名字とはいえ、ここまで集めたのは悪ふざけなのか、たまたまなのか。





すぐに席替えをするだろうけれど、試験期間はこの並びかと珍しく他人の名前に興味が湧いた。





佐藤加奈


佐藤優子


佐藤賢輔


佐藤亮平


佐藤若菜





教室の中央、最前列から並べられた5人のうち知り合いはいなかった。





すでに談笑している前席の女子グループの邪魔をしないように少し迂回して自席に腰を下ろす。





偶然にも、いやおそらく友人が碌にいないので教師の計らいだろう、クラスメート16年目のコウが俺を見つけて寄ってきた。


顔に覚えのあるサッカー部の2人が後ろについてきて、俺は咄嗟に顔を背けて頬杖ついた。





新学期の儀式、コウが部活仲間を連れて俺を輪へ入れようとする。


けれどもそういうグループと俺には壁がある。騒がしくて、落ち着きがなくて、よく言えばエネルギーに溢れていてついていけない。





向こうも多分、気に食わないだろう。





「お前さ、俺らの事知ってるだろ。」





バンと机に右掌をついて俺を見下ろしたのは、確か。





「後ろの席、よろしくな。あと明日負けねぇから。」





浅黒く日焼けした肌によく映える、八重歯の少し目立つ白い歯を見せて、佐藤亮平が笑った。予想外の屈託のない表情に驚いた。


隣で色白でスラッとした方が宮川と呟いて、俺と同時に小さく頭を下げた。


それを無視して佐藤亮平がずいっと前へ出る。





「明日?」


「実力試験だろ。」


「それが?」


「だから負けないって。」


「くだらない。」


「はあ?」





思わず口癖が出て、唇を閉じた。


そんなことよりも人間関係を円滑に出来てるだとか、運動が得意とか、友人が多いとか、そういう事の方が大事だろう。


そもそも、佐藤亮平の名前はいつも成績順位表で隣にある。


成績優秀なサッカー部の新キャプテン、総合的には俺は初めから完敗だ。


そう続けたいのに、凍りついた場の雰囲気に圧倒されて俺は何も話せない。


試験の解答は誤らなくても、会話の選択はいつも最悪。


そして思わず溜め息を吐いて、THE END。





その瞬間、予鈴が鳴った。一時的に助かったと胸をなでおろす。コウが上手くフォローして、それをまた台無しにするかもしれないと自分が情けなかった。





「なあ佐藤。」





佐藤亮平が席に着くなり俺を呼んだ。振り向くべきなのか思案していると、ぱちりと視線がぶつかった。


振り返った前席の女子。


アーモンド型の少し垂れた目を不思議そうに丸めている。


雪が染み込んだように白い肌に艶めく黒髪が印象的だった。


まじまじと自分を見つめる女子、いつかの事が思い出されて恐ろしく動悸がした。女子とは関わらない方が身のためだ。





「おい佐藤!」





もう一度呼ばれて俺は後ろの席を振り返った。まだその方がマシだとの判断だった。





「わり。おいケン、さっきの続きだけどよ。」


「紛らわしいね、自分かと思っちゃった。」





前方から聞こえた台詞は自分へではないと無視を決め込む。視界の端に心底楽しそうな笑みが見えて、少し驚いた。





「まあ、名前で呼べば済むよな。」


「それがさっきも勘違いで返事しちゃったの。」


「名前同じ奴いんの?」


「そう、困っちゃった。」





間に挟まれた俺を除いて、2人で会話を始めたので、これ幸いだとそっと前へ顔を戻して視線を落とした。





「私もカナコってよくいる名前だから被るんだよね。だからサカナって呼ばれてるの。だからサトユウとか?んー、もうちょい可愛い略し方ないかな。」


「サユでいーんじゃね。ってかサカナまた同じクラスかよ。」


「それいいかも。やるじゃん。リョウが私のストーカーなんでしょ。」


「バーカ。俺は大和撫子みたいな女子にしか興味ねえよ。」


「え…それは無理でしょ。」


「確かに、正反対かな?」





いつの間にかこちら側に顔を向けていた最前列の女子がくすくすの肩を揺らして会話に混ざっている。佐藤亮平は女子と絡んで機嫌良さそうで、俺の事などすっかり忘れたようなので安心した。このまま担任が来てさっさと席替えになってしまえばいい。





「で、リョウは何でサトケンの事呼んでたの。うるさい声で。」





突然ではあったが、繰り広げられていた話の内容から推測するにサトケンは自分を示している。関わらないようにしているのだから、無視してくれて構わないのにと苛立ちが込み上げた。





「明日こそ俺が学年1位になるっていう宣戦布告っていうか。」


「うわ、ガキ。」


「お前に関係ないだろ。」


「いや、感想だから。」





痴話喧嘩の間に挟まれて同じように困っているのかと思っていたら、佐藤優子はとても楽しそうにニコニコしている。





「クラス替え不安だったけど、良かった。」


「そう、良かったな。」





あまりに無邪気な笑顔だったからか、素直な台詞のせいなのか、口が勝手に動いていた。





「賢輔君が思ってたよりずっと親しみやすそうで良かった。」






今でも後悔している。


あの時つい口が動いたことを。


真正面で直視した彼女の満面の笑みは、その言葉と共にいつまでも燻って消えなかった。





突風のようにすり抜けて、あらゆるものを吹き飛ばしてしまったあの瞬間。





それを宝物のようにしまって、言い訳にして今日も殻に閉じこもる。





寒空の下へ墜落していった時でさえ、彼女は笑っていたかもしれない。


飛べると信じて足を踏み出したのではないかと、有り得ない幻想に縋りつく。





思っていたより。





その言葉の裏にどんな意味が含まれていたのかを尋ねることは、もう叶わない。





「なんで自殺なんて…。」





布団の中で呟いた台詞に当然返事はない。暗闇に響く時計の秒針の音が妙に気に障って眠れやしない。





頬に冷たい感触が横切っていった。





瞳の奥で彼女がまた笑った。


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