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透明CI  作者: 彩ぺん
12/20

Q文化祭 Aサボる

受験シーズン目前。文化祭と体育祭が終わればあとはひたすら勉強するだけ。夏休みが明け、クラスの雰囲気もピリッとしている。





成績は学年1位。どんな学校も選べるが、自分の将来が描けない。





黒板に並べられた、文化祭のスケジュール一覧をぼんやり眺めながらシャーペンを指で回す。





クラスメートの大半はやる気がないし、問題集を開いている。体育祭も昨年と違いぶっつけ本番の予定だ。行事が苦手な俺にはとても助かる。





夏休み前に決まった文化祭の出し物。昨年と同じでコウの知り合いのパン屋から買い付けて売る、という案に票が集まった。保存されている飾りな衣装などを使えば1時間もなく準備可能。





  2年生の時は何度も打ち合わせし、放課後残って準備し、わいわいしていたのにわずか1年でやる気が違う。昨年と同じ役割ということでかき氷製造をまたさせられる事は決定している。しぶしぶ仏頂面で接客したのを影で非難されたのを思い返し、今からどうサボるか思案する。





  例年、2年3年生は同じ内容になるというのは伝統みたいなものらしい。





 図書館で勉学に勤しむものもいるが、最後の文化祭である、なんやかんや楽しむ生徒が多いらしい。まあ、たった1日で落ちるような志望校なら目指さない方がましだとは思う。しかし俺が文化祭にきちんと参加するかと、それは無関係。





 そんな台詞を口にしたら、余裕があるからそんな暴言を吐くのだ、とか協調性を重んじろなどどコウが喚くに違いないだろう。短く済んだHRが済むと教室から人が次々に消えていく。去り際に、衣装まだあるかなとか、お前サボるなよなどと少し浮足だった会話が飛び交う。





 妖怪パン屋というなぞの趣向で執り行われた昨年の出し物。





 目立ちたがり屋のコウが鬼太郎、クラス一可愛いらしい佐々望が猫娘のコスプレをして評判だった煩わしい1日。俺はと言うとコウに着せられた浅黄色の浴衣に、亮が仕入れてきた揃いの狐のお面を頭に乗せられた。





 私達、ちゃんと雪女に見えるかね。





 死化粧に似せた青白い化粧に白地に藍色の朝顔があしらわれた浴衣を身に纏った彼女が脳裏に過る。頭にヴェールのように乗せた白いレースをひらひらさせて、同じ格好の友人に囲まれてくるりと一回りするのを窓際からぼんやりと眺めていた。





 見とれていたとも言えるかもしれない。夏休みに偶然会って、私服だったのがほんの少し残念だったのでつい魔が差した。





 ニコニコと微笑む彼女と目が合ってしまって、ぎくりとして滑稽なくらいわざと視線をずらした。なのにあろうことか、亮が中原雪菜と写真を撮ると俺の腕をひっぱって彼女たちの方へ連れて行った。あの時の気まずさと緊張感は未だ心を燻らせている。





「賢輔君、浴衣似合うね。」





 いつの間にか隣にいた彼女が、少し控えめに、目線をこちらに向けずに零した。思い出すと鮮明に蘇る声色。別に、と俺は短く言い返してつま先を見つめていた。





 亮とコウが無理やり一緒に写真を撮った。





 そのうちの一枚、彼女たちと写ったそれにはそっぽを向いて撫すぶすくれている俺の隣に彼女が満面の笑顔で立っている。





 コウや亮との写真は母親に放り投げたので、アルバムに収められたけれどたった1枚、その写真だけは勉強机の引き出し奥に突っ込んだままずっと出していない。





 捨てる事が出来なくて、でも存在を無視している。





 同じ時間帯に担当だったので、俺が仏頂面でひたすらかき氷製造機をぐるぐる回している間、隣で友人達とはしゃいでいた彼女。





 態度が悪いと、途中からコウにかぶらされたお面の下の表情を、誰かに知られたらと気が気でなかった。





 今年もあの衣装で愛想良くパンを売るのだろうか。





 ぼんやりとして座っていると亮が肩を叩いてじゃあなと告げて、中原雪菜と合流し教室を出て行った。





「うわあ、今日もお熱い事で。受験生のくせに。」


「お前と違って判定Aだしな。しかも塾に一緒に行くだけだろ。」





 夏祭り、ちゃっかり告白していたらしい亮をくだらないと笑えない。彼らはお互いやるべきことはしている。近い距離で生活することを目標にし、励めるのならば良い事ではないか。


 


 もう4年も逃げ続けている俺と亮とでは雲泥の差がある。相も変わらず、学年1位に拘り対抗意識を燃やしている亮には悪いが俺はそんなことはくだらないと思う。





 誰かと向かい合って、理解し合う勇気がどうすれば湧くのか。殻から出てこれずにいる弱さに心底呆れながら、時間だけが過ぎていく。





 入学早々、どうしてだか知らないが俺に絡んできて面倒臭い奴だった亮と親しくなったことは自信になる反面、俺の力ではないことも理解している。





「亮も変わったよな。」





 ぽつりとコウが呟いた。珍しく真面目な表情だった。





「俺たちにやたら嫌がらせしてたのにさ。すっかり丸くなっちゃって。チアとかの女子とチャラついてたのに、あの大人しい中原を好きになるとか。」


「そうだな。」


「お前も変わったよ。まあ少しだけどな。」





 ニッと歯を見せて笑うとコウが俺の背中を叩いた。結構力がこもっていたので痛かった。





「なんだよ。」


「別に。」


「でた、その口癖。」


「お前が落ちたいなら帰るけど。」





 夏休み前に志望校合格判定Dであるコウに泣きつかれて毎日のように通うはめになった図書館。


 製菓関連に進むか県内の国公立大学なら学費を出す。他なら自分でどうにかしろ。さもなければ家業を継げという中山家。県内に該当する大学は2校だけ。





 キャンパスライフを満喫したいというだけで、かなり厳しい合格に燃えるコウ。幼い頃から祖父に付きまとって家を手伝い、家業を継ぐつもりなのを俺は知っている。





 中高共に部活に入らず、帰宅すれば祖父にくっついて熱心に修行している。


それなのに和菓子屋継いだら出会いとかないじゃん、大真面目なコウの大学進学希望。それも高校三年生の春に急に言い出した。テレビドラマで見た臨床工学士を目指すと良く分からないことを言い出した。





 ずっとじいちゃんの跡継ぎだから勉強なんて二の次と赤点を連発し、補習を繰り返してきたというのにだ。彼の家族も俺も亮も呆れているが執念とは恐ろしいものでもうすぐ模試の合格判定はCになりそうだった。





 そもそも高校受験の時もそうだった。惚れていたクラスメートと同じ高校に行きたいと言い出して志望校を変更して親も高校進学自体を諦めていたのに進学校へ合格した。しかも補欠で繰り上げという奇跡だ。





 私立高校へ行かせる余裕はないから、受験に失敗したら家業を継げとまでいわれたのに志望校を変えなかった幼馴染。実際中山家に余裕がないわけではない。頼めば私立高校を受験できただろうにコウは何故だか1校にしか志願しなかった。





 背水の陣で俺は絶対合格する。





 机の上の壁に貼られた達筆な毛筆の文字。


 


 残念ながら目当ての女子は不合格になり別の学校へ行った上に告白する前に玉砕したという不運な男。





 口には出来ないが、受験勉強に勤しむ前は両想いだったらしいと風の噂で耳にした。勉強に一直線になり、疎遠になったという本末転倒な話。





「大学も俺と一緒がいいだろ。さあ勉強するぞ。」


「いや、志望校違うから。」


「どこでも受かるんだから、俺と一緒のところ行こうぜ。」





 この気まぐれで楽天家、おまけに猪突猛進な幼馴染が、自分を心配してそばに居ることは薄々感じている。好きな子が出来たから、が最大の理由で俺はその次。どちらもなければ彼はこの高校にはいなかっただろう。





 幸か不幸か3年間クラスが変わることはなかった。けれどもそろそろ自立しないといけないと切実に感じている。





「そもそも志望校決めたのかよ。どこだよ。」


「いいだろ、別に。」





 口が裂けても言いたくない。というか言えない。絶対に絡まれる。図書室へ向かいながらコウがぶつぶつ呟く。





「趣味、勉強だもんなお前。化物みたいな記憶力だし。どんだけ問題集解くんだよ。なんだよドイツ語とか中国語とかって。だいたい英語とかも日本にいるのに必要なのかよ。亮も意味わかんないよな、あーあ、俺も彼女が欲しいなあ。」


「煩い。黙れ。」


「そんな事言うと、じいちゃんの新作持ってきたけど食わしてやんないからな。」


「……食う。」


「俺が合格したら。」


「死ぬまで店の商品は無料ね。それ、高校受験の時にも聞いた。」





 近所で評判の和菓子は俺の大好物。隣接するコウの父親が営む洋菓子店もそうだ。何かにつけて食べ物で釣られている自分。





「今日はさ、図書室にしねー?」


「別にどこでもいいけど。ここまで来て言うか?」





 昇降口まできて何故そんな事を言い出す。





「榎本がさ、今日は図書室に居るかもしれない。塾が無い日は図書室を使ってるって言ってたんだ。教室出たのに靴がある。」





 はあっと大きなため息が零れた。





「なら二人仲良く勉強するんだな。俺は面倒だから帰る。」





 ぐいっと鞄を掴まれてのけぞりそうになった。





「先生がいないと駄目だろ。新作は栗抹茶大福。食べたいだろ。」





 更に大きい溜め息を吐いた。大好物の栗。目の前に人参をぶら下げられて走る馬のようだと己の単純で滑稽なところに舌打ちしてコウより先に歩き出した。背後で肩を震わせて笑うコウの姿が容易に想像できるので、早足で彼の前になるように歩いた。







 図書室の個別学習スペースに彼女が居た。あっという間に見つけて、すぐさま視線をはずす。視界に入らないような場所に腰を下ろした。榎本いないじゃんと落胆するコウを無視して、彼の鞄から参考書やノートを取り出す。





 自分の鞄からも参考書とノートを取りだしてからコウのノートを開いた。


通称お手上げノート。解説を読んでも理解できなかった問題が記入されている。それにコウの性格を踏まえてヒントや説明を記入する。大抵このノートには数学の問題が並ぶ。





 その間にコウは俺が用意した小テストを解き、参考書へと移る。飽きっぽいコウは毎日別の参考書を持ってくる。今日は英語の構文把握用の参考書に目を通している。明日は英単語の小テストだなと、今日の問題に正誤をつけていった。誤っているものには解けるようなヒントや公式を付けくわえる。





「国語は本当に間違えないんだよな。数学は本当に駄目だな。」


「なんか見覚えがあるんだけど分からなくて。」


「まずこの問題、この公式とこの公式だろ。昨日やってた範囲だろ。」


「ああ、そういう事か。ちょっと待って解けるかも。」


「家でやれ。昨日の見せろよ。」





 もう一冊の小テスト用ノートを回収して中身を確認する。自宅で解き直せなかった問題をどうして間違えるのか、解けないのかの考察する。それを俺が持って帰宅し、新しく問題を付け加える。


 


片方の小テスト用ノートは今日の問題の解き直しをするのにコウが持って帰る。


お手上げノートも返却し、先に帰る。いつも1時間程度のやり取りだ。





 学年でもかなり成績が悪いコウだが、腐っても進学校の生徒。高校受験の時も散々勉強しているので基礎学力はある。自分に合った勉強方法も知っている。





 だから最近は授業もまともに受けているしメキメキと成績を上げている。何となく心配で、息抜きがてらと称して平日はほぼ毎日付き合っている自分はとことんコウに甘いと思う。


栗抹茶大福を受け取って、鞄にしまうと俺は席を立った。





「賢輔君、ちょっと聞いてもいいかな。」





 図書室を出る直前に急に声を掛けられて俺は固まった。彼女が眉をハの字にして困り笑を浮かべていた。





「別に。」





 周囲をうかがうが、誰もこちらに注目していなかった。胸を撫で下ろす。





「勉強のコツというか、そのちょっと教えて欲しいなって。漠然としててあれなんだけど。最近ね……。」


「コウが知ってる。」





 遮って短く言葉を発すると俺は彼女に背を向けた。ありがとうという言葉が背中に届いたが俺は無視して足を進めた。彼女がその後コウに話を聞いたのか確かめはしなかった。





おにぎりを頬張りながら、英単語帳を眺めているコウから昨日の行方を聞かされた。


「俺、サユに好かれてるかもしれない。こないだ図書室で急に頼られてさ。」


「はあ?」


「勉強方法教えてって。」


「そんなん誰にでも聞くだろ。俺も聞かれたわ。まあ俺とかケンみたいな優秀な奴に尋ねないでコウを選ぶってのは不思議だけど。」


ああ、素直にコウに聞いたのかと複雑な気持ちになった。


「ケンも聞かれたことあるんじゃねーの?」


亮の質問に答えずに、彼女の方を顎で示した。友人達と勉強方法について語りあっている。


「まあこれから追い込みだし、いろいろ参考にするだろうな。残念だったな、コウ。」


「俺の本命は違うからいいんだよ。」


「じゃあサユに好かれてたらいくのかよ。」


「告白してくれる女子がいたら付き合うね、俺は。デブやブスじゃなきゃ。」


「うわ、色々最低だな。」


「煩い、彼女持ち。」


自分だけでは無かったという安堵と落胆が交じってもやもやする。それは文化祭まで3週間続いた。


その理由の一つはちょいちょい彼女とコウが会話するようになったからだ。元々クラスメートと分け隔てなく喋るが、自分から積極的に男子に話しかけるのを見たことないので、コウの元へと話に行くのが珍しかった。


そんなにしょっちゅうではない。恐らく他の誰も気にしてなんていないだろう。


どうしてもコウの近くにいることが多いので、彼女の姿がいつも以上に視界に入る。


別の理由は偶然聞いた彼女に告白するという山田の決心のせいだ。


「いや、無理じゃね。脈ないだろう。」


「そんな事無いはずだ。多分。良く話すし。」


「挨拶とかだろ。サユって人当りいいじゃん。誰と話してても同じ感じだしさ。むしろ、メールとかほとんど返事無いんじゃないっけ。」


「苦手だって言ってたし…。」


ゴミ捨てが終わって教室に戻ると、そんな会話がたまたま耳に入った。コウが山田って勘違い野郎だな、と自分を棚に上げて隣でくすくす笑っていた。その台詞がナイフのように自分に突き刺さったように胸が痛んだ。





最後の文化祭!楽しもうね!





ディスプレイとぼんやりと眺めて、俺はそっと閉じた。勘違いならみっともないし浅はかで馬鹿な男と同じだけだ。


でも、もしも万が一という事があるなら彼女と俺はどうなるのだろうか。黒い歴史が俺に影を落として警告する。


あの頃とは、あの子とは違う。


それでも俺は振り返るし、怯えてしまう。踏み出すよりも、信じるよりも壁を作る方がずっと楽で傷つかない。耳をふさいで、目を閉じて俺は拒絶を選択し続けた。


文化祭前日、熱があると学校を休んだ。


当日もそのつもりだったがコウに連行された。登校ギリギリに到着し担当業務時間が1番最初だったので、制服に狐のお面をかぶらされた。


亮もコウも俺の仮病を見抜いていたが深くは聞いてこなかった。多分コウが亮に何か言ったんだろう。


いつにもまして不機嫌な俺の周りには誰も寄ってこなかった。去年と異なり気温が低くて需要がない上に、まだ午前中の早い時間というのもあってかき氷を購入する生徒は全くいなかった。


お面を被って、じっと座る俺を気味悪がるクラスメート。亮が時折話掛けてきたが反応の薄い不機嫌な俺をそっとしておいてくれた。ケンの奴まだ具合悪いみたいだからなどとフォローまでしてくれた。


代わる代わるクラスメートが心配を口にした。彼女も具合大丈夫?と質問してきたが、誰に対しても口癖を発した後はだんまりを決め込んだ。


担当業務が終わるや否や俺は最後の文化祭に背中を向けて保健室へ引きこもった。


顰蹙を買ったってかまわない。失望されても。


感傷深まる秋の始まりが、俺は大嫌いで仕方なかった。


案の定山田は彼女に告白したそうだった。そして玉砕した。


コウがそれをネタに、俺の事好きだったりするんだろうとふざけて困ったようにごめんねと返したのも聞かされた。


全部興味ない振りをした。


自分自身にそう言い聞かせていた。






素直になって、心をほんの少しでも強くしていたら、そう努力していたらこの出来事は回避できたのだろうか。


女子高生、受験ノイローゼか?


新聞をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。


葬られた正解が解けたところでもう時間は戻らない。


何がきっかけだったのか。


俺に何か出来たのだろうか。


最後の最後のその瞬間に彼女が俺に差しのべた手の理由は寒空へと消えていった。


無数の選択肢はどれもこれも間違えているようにしか思えなかった。


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