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第二章:帝都へ3

露店の連なる市場は、溢れんばかりの人と活気に溢れていた。


露店には、所狭しと様々な品物が、並んでおり、ずっと森の中を歩き通しだった私の目に鮮やかに映った。


帝都に来てから、一つ気が付いたのは、この世界が思いの外、近代的だったということだ。


帝都では、交通手段として徒歩、馬車以外にも路面鉄道が通っている。


もちろん、蒸気力も電気はないから、動力は、馬に頼っているけれど、帝都中を効率よく繋ぐネットワークになっている。


ルカの解説によると、路面鉄道の普及により、線路と歩道の区別が付けられて、馬車につきものの事故が格段に減ったそうだ。


料金も手ごろな上、乗り心地もかなり良いようで、そのせいか帝都では、ほとんど馬車を見ていない。


一見、露店が煩雑に並んでいるようで、意外としっかり区画整理された帝都を上空から見たら、面白いだろうなと思った。


道行く人の服装は、この世界に来てから今まで見た人々と違って、露出度も高く、軽装である。


お城の結婚式では、女の人は、皆地面に裾がつきそうなドレスを着ていたから、この世界では、それが一般的な格好だと思っていたので、意外である。


女性でもズボンを履いている人もいるし、足を出している人もいる。


近代と中世が混ざったような街並みを歩いているとふと奇妙な感覚に襲われる。


科学や文化の進む先が、元の世界へと向かっているような気がした。


ショートパンツにブーツを履いて軽快に歩く若い女性を見ていて、ふと浮かんだ胆略的な発想に思わず、首を千切れるほど振った。


「おい、ナツ。こっちだ。あんまりフラフラしていると、はぐれるぞ。」


立ち止まっていた私の手をルカが、引っ張った。


「いいじゃない。せっかく、市場に来たんだから。もうちょっと見ていこうよ。」


「勘弁してくれよ。あの人を待たせると、大変なんだ。」


いつも憎たらしくなるほど悠然としているルカにしては、珍しい。


いったい、ルカの雇い主って、どんなに人なんだろう?


熊より怖いって、よっぽどだ。


帝都に到着した私達は、まず、ルカの雇い主に会いに行くことになった。


その話を聞いた時、私は、よっぽど変な顔をしていたのだろう。


「何だ。何か言いたげだな?」


ルカに言われて、ぎくりとした。


「えっと、ルカって、泥棒じゃなかったの?」


「はあ?」


「だから、その、泥棒とかそういう仕事しているのかなって。」


慌てて言うと、ルカは、見るからにげんなりした顔をした。


「お前って、俺に対してそういう認識してたわけ?」


「だって、身なりボロボロだし、お金ないし。人を避けるようなところがあったから。」


「そんなの全部、すぐハリネズミになっちゃうから、当たり前だろう。ていうか、その言葉通りだったら、お前は、泥棒と一緒に旅をしていたことになるぞ。」


「ルカ、いい奴だし、命の危険がないなら、まあそれでもいいかなって・・・。」


「お前って・・・・。」


ルカは、心底呆れた顔で私を見つめた。


結局、その話は、そこで打ち切りになってしまったけれど、ルカが犯罪者じゃなくて良かったとほっとしたものだ。


当然、ルカは、少しの間、口を利いてくれなかったけれどね。


さて、雇い主さんへの訪問である。


ルカ曰く、不本意だけど、帝都では色々とお金がかかる為、会いに行かざるをえないらしい。


私もついて行っていいのかと尋ねたら、連れてこいと言われているとルカは、答えた。


いつの間に連絡を取ったんだろうとか、そのまま売り飛ばされちゃったらどうしようとか、色々頭に浮かんだけれど、結局大人しくついて行くことにしたのは、旅の間に生まれたルカへの信頼が勝ったからだろうと思う。


「それにしても、ルカ。もうあのお城みたいな建物以外にお家ないんだけど。」


市場を抜けた私達は、いつの間にか住宅街を抜けて、帝都の中心に見える巨大な建物へと近づいていた。


「あそこが、目的地だから、当たり前だろう。」


前を歩くルカの呆れた声が返ってきた。


「えっと、ちょっと待って。ルカの雇い主って、王様かなにか?」


「立場的には、近いけど違うな。それに今この国には、王も女王もいない。」


「じゃあ、お城には、誰が住んでいるの?」


「今は、宰相を筆頭とする大臣、官吏達が、国政を取り仕切っているけど。」


「それって、王制なのに王様がいないってこと?なんで?」


「この国は、女王制だ。それにもうすぐ次期女王も現れるはずだ。・・・そうじゃなきゃ俺も困る。」


ルカは、最後の一言を小声で言ったけれど、地獄耳の私の耳には、ばっちり届いた。


女王関係の仕事までしてるの?


「・・・ねえ。ルカのオーナーって、まさか。」


暢気の前を歩く少年が、空恐ろしく見えてきた。


「うん。宰相のラウラ・ケルビーニ様。雇い主で、それから、一応、俺の育て親。」


きゃああああ。


心の中で絶叫しながら、最後にもう一度問いかけた。


「あの・・やっぱり、今から会いに行くのも・・。」


「ラウラ様に決まってんだろう。さあ、着いたぞ。おい、逃げるんじゃねえぞ。俺だって、あんまり会いたくないんだからな。」


王宮の荘厳な門を目の前に思わず、回れ右をした私の首根っこをルカが、がっちりと掴んだ。


やっぱり冗談を言ってるわけでもなく、門番には、あっさり顔パスで通された。


「反則だよ。ケチな盗人より、よっぽど性質が悪い。」


せめてもの反抗として、恨み言を言ってみたけれど、ルカが、動じるはずもなく、ずるずると引っ張られていく。


「何ブツブツ言ってるんだ。往生際の悪い奴め。女は度胸だって、いつもラウル様は言ってるぞ。」


「何それ。怖いよ、その人。」


いくら女王制といっても、女の人で宰相の地位まで上りつめるなんて、よっぽどの人物であろう。


きょわいよ。


「まあ、俺の母親だと思ってれば、大丈夫だよ。」


いつの間にかつながれた手が、じっとりと湿っている。


これって、ルカの汗でしょう?


めちゃくちゃ緊張してるじゃん。


「余計怖いよ。かわいい息子が、変な女連れてきたんだよ。」


「大丈夫だ。お前は、女に見えないから。」


「・・じゃあ、何に見えるのよ。」


「ブタだな。ピンクの丸い子ブタ。」


「ひっどい。あんただって、所詮は、ハリネズミでしょう。」


「ブーブー、うるせーな。本当にブタだな。」


「何よ、キーキー怒鳴らないでくれる?ハリネズミみたいで鬱陶しいんだけど。」


そう言った途端、前を歩いていたルカが、いきなり立ち止まった。


そんなに怒った?


「おい、ナツブタ。」


「ちょっと。やめてよ、その呼び方。」


「お前、風呂入れ。」


「はあ?」


「ラウラ様は、清潔好きなんだよ。こんな格好で挨拶に行ったら、それこそ機嫌を損ねる。」


そう言うと、ルカは、廊下を歩いていた侍女らしき女の子を呼び止めると、何やら話し込んだ後、私を残して走り去ってしまった。


裏切り者〜。


こんな所に私を一人置いていくのかい。


今頃、泥棒呼ばわりした報復をするつもり?


泣きそうになって立ち尽くしていた私のマントの袖を誰かが引っ張った。


「え?」


振り向くと、さっきの侍女さんが、にっこり笑っている。


「あ〜どうも。」


つられた私もだらしない笑みを返す。


「さあ、行きましょう。」


侍女さんは、笑顔を崩さずに言った。


「行くって、どこへ?」


「綺麗になる所です。」


そう言った後、侍女さんは、エプロンのポケットから、犬笛のようなものを取り出して口に当てた。


それからは、あっという間だった。


笛が鳴ると、同時に侍女さんと同じ服を着た人が、ぞろぞろやって来て、私を城の一室の連れ込んだと思ったら、お風呂に入れられて、体が赤くなるほど、ゴシゴシ擦られた。


お風呂から出されたら、パンツの代わりにかぼちゃパンツを渡されて、その上から紺と緑のチェック地のワンピースを着せられた。


服を着たと思ったら、今度は鏡の前に座らされて、髪の毛を丁寧にブラッシングされた後、二本の長い三つ編みにされた。


化粧までされそうになったので、さすがにそれはと拒むと、あからさまにがっかりした顔をされた。


最後にピカピカ光る真鍮の留め金のついた黒いショートブーツを履かされると、侍女さん達は、満足気に私の周りをぐるぐると回った。


鏡を覗き込んでみると、レトロなお嬢様風で、見ようによっては、可愛らしくないこともないような・・・という感じだった。


自分では、何もしていなのになぜかひどくくたびれてしまった私が、ソファーに沈み込んでいると、ノックの音が聞こえた。


「入るぞ。」


そう言って入ってきたルカを見て、私は、目を見張った。


顔の泥は、さっぱりと落とされていて、クシャクシャだった髪は、きれいにセットしている。


洋服も古びたマント脱いで、襟のある正装をしている。


マントに隠れずに見える長く伸びた手足とこのルックスだったら、なかなかカッコイイ男の子じゃないのかと初めて気がついた。


でも・・・。


私を一瞥したルカは、一言。


「豚に真珠だな。」


一度口を開けば、全て台無し。


せめて、馬子にも衣装って言ってほしい。


「ルカって、モテないでしょう。」


たとえルカが、どんなに眉目秀麗でも、この口が付いている限り、私が、ルカにドキドキすることは、ありえないように思う。


「ほっとけよ。ラウラ様を待たせてんだ。用意できたなら、行くぞ。」


色々引っかかる部分もあるけれど、とうとう噂の宰相様とご対面である。


私は、音が聞こえないように唾を飲み込んだ。

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