9話
結論から言うと男は一人では無かった。
「この5人以外は居なさそう?」
「うん、匂いも気配も他にはさなそうだよ。」
「クソッ、ただのガキじゃなかったのかよ!」
「縄ほどけクソガキがっ!」
男たちはギャーギャーうるさく騒ぎ立てる。
「うるさいなぁ。」
「「「「「ひっ!」」」」」
あぐらをかいて座る5人の足すれすれに[アイシクル・ランス]を撃ち込むと静かになった。
「で、貴方達は戦う力があるのに何でこんなことしとるん?食料とかなら市役所の配給とかもあるやん?」
「いや、俺達は、その、・・・この辺の住人じゃなくって・・・」
「戦えるんならモブを狩って食べればいいやん。」
「俺ら戦ったことがないから・・・」
「モブを倒せない人達がモブを倒せる僕らに勝てると思ったの?」
「それは、その、こんなに強いなんて思わなくってだな?」
「そもそもこれまでの奴らは皆武器をみたらビビって大人しくなってたし・・・」
「へーこれ初犯じゃないんだ?」
「今回は若い二人だったし簡単だと思ってたんだね?」
「ぁ、あぁ、それに片方は女だしあわよくば「おい!バカッ!」あ!今のナシ!」
「・・・へぇ?」
「あ、アンバー・・・?」
「ねぇ深七?こいつら全員引き千切っていい?」
「「「「「っ!」」」」」
アンバーの怒りの形相に怯える男たち。
いや、うん。確かに女としてかなり不快なことポロっとこぼしてくれちゃったけどさ?
そんなやつらにすら一瞬同情したくなるほど味方恐いって何なんだ。
「まぁ、直ぐには殺さずに、2度と悪事が出来ない程度のトラウマ刻み込んでから殺ってやれば良いんじゃない?どうせプレイヤーなら生き返るし。」
「なっ!?お前それは人としてどうなんだよ!?」
「恐喝と暴漢未遂の犯罪者にだけは言われたくないよ。」
「お、お前ら人殺しなんて出来るのか!?いくら生き返るからって、そんな度胸、お前らにはーーーーーっ!」
男の顔面すれすれで氷の切っ先を止め、自分のまわりにも氷塊を浮かべる。
「それができなきゃ、私はこっちに帰ってこられなかったんだよね。場所によっては私らプレイヤーの対場って最悪だから。」
今度こそ、完全に大人しくなった男たちを市役所に引き渡した。
ここらの交番なんて機能していないに等しい。
「何か、ちょっとづつだけど町の空気がよくない感じになってるね。」
「そうだね。そろそろ、かな。」
溜め息を吐きつつフレンドコールをかけた。
[みー?帰ってくんの?]
[うん、今から帰るよ。ねぇ結さん、ギルドの家の方はどうなってるの?]
[一応何軒か色んな種類を作ってみたよ。そろそろ店長さんたちと話す?]
[うん。なるべく直ぐにした方がいいかも。]
[何かあった?]
[さっき、犯罪者のプレイヤーたちを市役所につきだして来たんだ。]
[!じゃあ急いだ方がいいね。]
[夕飯の後に話そう。もうあんなのは御免だよ。それじゃあ、今から帰るから。]
「あぁ、嫌だなぁ・・・」
重い足を引きずりながら家に帰り着いた。
「お帰り深七。どうやった?」
「え?どうやったって・・・?」
「糸とってきてくれたっちゃろ?」
「あぁ、糸っちゅうか綿と羊毛やね。そっから糸にせんと。」
[結さん、お母さんとお祖母ちゃんに糸の紡ぎ方教えてあげて。話はその後にしよう。]
[ん、了解。]
秘密の準備を進めるためにお母さんやお祖母ちゃんに気づかれないようフレンドチャットで話すのは最近ではよくあることだった。
ちゃんとするまで、と言うのは言い訳で本当は問題を先伸ばしにしていたかった
でもそれもできないところにきつつある。
食後、結さんに糸車の使い方をならいながら自分でも糸を紡いでいく。
糸車は結さんの自作でいくつかお試しに作っていたらしいのでそれを使っている。
慣れないうちは糸が太くなったり細くなったりしたがコツをつかめば中々上手くいきだした。
それでも気を抜けば失敗してしまいそうで黙々と糸を紡いだ。
ある程度やって皆の手が止まったので私は話を切り出した。
「あんね、今日ね、男の人達が食料寄越せって襲いかかってきたんよ。」
お母さんとお祖母ちゃんの目がこちらを向いたのを感じながら毛糸玉を弄ぶ。
結さんは糸車をいじりながら、アンバーは視線だけをこちらに向けて様子を伺い始める。
珍しく静かに話す私にお母さんは躊躇いつつも声をかけた。
「それで、どげんしたと?」
「市役所につきだして来た。今は警察機能しとらんから。」
「逃げんかったん?」
「プレイヤーやったから。後ろから魔法でも打たれたら厄介やし。それでね、私らもうすぐここらに居られんくなるかもしれんのんよ。」
「何でね?」
「皆プレイヤーが怖いんよ。力があるから。そのうち監視つきの強制労働になる可能性もある。」
「そげな極端なこつ無かろうもん?」
「あると。私と結さん、そう言う場所で一時捕まっとったけん。一ヶ所にまとめられて、ひたすら食料集めに駆り出されて。床に自分でとった毛皮敷いて寝るだけでも責められるんよ。」
「警察とか市役所は?なんばしよっとね?」
「他の人先導して私らを隔離、監視しよった。」
「深七とかまだ未成年やんね・・・」
「そんなの、関係ないんよ。私らは戦えるんやから。」
「なら、どげんするとね?」
「私の学校のある辺りにプレイヤーが多いらしいからそっちに行こうと思う。多い分、差別されにくいやろうし、味方は多い方がいい。」
そこまで言って言葉を切ったのは、この次の言葉を言いたくないから。
私は視線を落とし手を握り締めて、どうにかそれを口から押し出した。
「やから、お母さんとお祖母ちゃんには私らと一緒に来るかどうかを選んで欲しい。どっちを選んでも二人の生活とかは、ちゃんと保証できるよ。ずっと、準備してきたから。」
「直ぐ、決めないかん?大きいばあちゃんたちのこともあるし・・・」
「・・・状況次第やね。私らは不穏な空気になったら直ぐに出てかんと危ないし。取り敢えず明日は私らがして来た準備について先に説明しとこうか。どっちを選んでもいいように、ね。」
「いつから・・・?」
お母さんが静かに言う。
一瞬なんの事か分からずに呆けた声を出してしまう。
「え?」
こちらを見るお母さんの顔は険しく、そして責めるように一気にまくし立て始めた。
「いつから出ていこうと思っとったとね?お母さん何も相談されとらんよ。準備とか、何時しよったとよ?全然そんな話しよらんかったやんね!そんな急にっ!「店長さん、ストップ!まだ確定って訳じゃないから!」
「・・・どう言うことね?」
店長さんの剣幕にみーが固まってしまったのを見て直ぐ様止めに入る。
今まで横で黙っていたおばあちゃんの疑問の声に店長さんは一旦口を閉じた。
「もしもの時の為の備えだったから、みーも二人に言わなかったの。あたしたちの杞憂ってことも有り得るから。・・・さっきもみーが言ったようにこれからどうするかは状況次第。プレイヤーによる犯罪を知ったこの町の人達の反応次第なのよ。プレイヤーを受け入れ続けるのか、それとも、拒むのか。」
「出来ることなら・・・このままここに居たいよ。でも大衆心理って誰かを生け贄にすることがあるから・・・今度は、お母さんたちもひどい目に遭うかもしれない。」
「とにかく、もしも、を考えて置いて下さい。明日はあたしが生活上でのことを説明しますから、それからにでも。」
そして全員、黙りこんだ。
お風呂に入った後だと言うのに気持ちが落ち着かないせいか、あまりスッキリした感じがしない。
「深七?」
「むぅーーーうーーーあーーー」
「みー?」
「うにーぃー」
「日本語喋りなさい」
「いだっ」
アンバーの背中に頭をグリグリと押し付けながら唸って居たら結さんに叩かれた。
「うぅ。」
「深七ー?」
困ったように頭を撫でてくれるアンバーの手にすりよれば少しだけ落ち着いた。
頭の上にある温もりが心地いい。
ぐでっとした私を見かねた結さんはギルドの物を作ってくると言って出ていってしまった。
「ねぇ深七。」
「むぅ?」
「店長さん、そんなに怖かった?」
「・・・ん、いや、怖いとかじゃ、ない、んだよねぇ。」
ふらりと立ち上がって自分のベットの布団にぼすりと埋もれると、そばによってきたアンバーは私の髪をすきはじめる。
アンバーが頭をなで始めたころにはうつ伏せのせいで息が苦しくなってしまい、顔を横に、アンバーのいる方向へ向けた。
頭をなでる私よりも大きな手に向かってぽつりぽつりと話始める。
「あのね、私ね・・・大好きなんだよ」
「うん」
「お母さんも、お祖母ちゃんも、この家も、」
「うん」
「今の生活も割りと気に入ってるし」
「僕と結さんは?」
「もちろん好き」
「ならよし」
「結さんはお姉ちゃんみたいだし、アンバーは家族だし」
「うん」
「何一つ、無くしたくないんだよ」
「そうだね」
「でも、今は何がどうなるかわかんないんだもん。生まれ育った場所すら、安心していいとは限らない。私も結さんもアンバーも戦えるから生きては行けるけど、戦えるから利用したがる人も居るわけだし、戦える人が少なければなおさらそうなわけで。なら、同じ立場の人たちが集まってる場所に移った方が安全なんよね。」
「うん」
「・・・身内すら、信用できなくなってしまった人もいたし、さ」
「そんな人いるの?」
「いたの。・・・やけど、離れたくないんやもん。こんな状況でお母さんたちと別れるとか、」
「だったらそう言えば良かったんじゃ、」
「・・・私一人の考えの為に故郷を捨てるような事をさせるのはちょっと。」
「そう?そんなに難しい話じゃないと思うよ。」
「は・・・?」
驚いて上体を起こすとアンバーは不思議そうに少し首を傾げた。
「いや、何ってんの。簡単な話なわけないじゃん。私、家を捨てるって言ってんだよ!?」
「うん、わかってるよ。でもきっと二人は、ん?」
「え?」
アンバーの声に被さるようにフレンドチャットの音が鳴り、二人で目を丸くする。
「・・・えーっと、先に出ても良いよ。」
「お、おぅ。じゃあ、」
誰か知らんが空気読め。
相手には理不尽だがそう思ってしまうのは仕方ないよねと思いつつチャットを繋げた。
フレンドチャットを繋げると深七は直ぐにビックリしたような顔をしたけど、直ぐに表情を険しくした。
落ち着いて、話せるとこから説明して。今どこ?今は大丈夫なん?そいつらの人数は?
深七が質問を重ねるごとに空気が固くなって、僕は毛が逆立つのを感じた。
「・・・滅茶苦茶だよ。常識もなにもあったもんじゃない。」
チャットが切れたとたんに深七は頭を抱え込む。
こぼれた言葉は震えていて消えてしまいそうなほど弱々しかった。
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重くなりすぎんのは嫌なのにそっちに行きそうどうしよう。
空気よんで黙るアンバーは忠犬です。
山を越えたらほのぼのにいきたいですが何時になるやら・・・
すごいひさびさな更新です。相変わらず会話という物が分からない・・・
消さないよ!・・・多分、恐らく、きっと。かなりの無計画さで心折れそうだけれども。