4話
「・・・で、どうしようかな。」
「クゥン。」
顔を擦り付けられてふわふわとした体毛がくすぐったい。
「・・・これ、もしかしてなつかれた?」
「ウォフッ!クゥーン、クゥン。」
小学校の屋上で大きな犬?がぶんぶん尻尾をふりながらすりよってくる。
お座りした状態でも頭が私の背よりも上にあって、でかい。
現在の状況。何かでっかい犬?になつかれました。
ことの発端はゆみちゃんの一言に皆で同意したことだった。
曰く、今なら写真撮影以外で利用したことの無い屋上に入っても誰も叱らないのでないか、と。
漫画や小説なんかでは屋上で昼御飯を囲むのは定番だが、現実では違う。
生徒の落下を恐れる学校はせっかくの屋上を封鎖しているところが大半だろう。
加えて、そもそもこの小学校は給食制なので昼食時は教室から出ない。
私達が低学年の頃は、学童保育で春、夏、冬休みでも学校に来ていた生徒たちが遊具の上でお弁当を食べたり出来たけれど、それも高学年に上がるころには禁止されてしまった。
桜の時期にアスレチックの上でお弁当を食べられなくなった時は少しさみしかったし、自分よりも下の子達がかわいそうだったなぁと思う。
理由はごみを片付けない子がいるから。
・・・その原理でいくと日本中の花見の名所は漏れ無く花見禁止になりそうだ。
話を戻すが、今、この学校の校舎は無人である。
体育館に避難民がいくらかいるくらいで校舎棟には誰もいないのは、狩りをしてまわりながら窓から確認済み。
・・・見つからないならこっちのものだ。
「鍵どこだっけ?」
「職員室の入口んとこやろ。」
「屋上2つあるけどどっち行く?」
「今居る方のが階数多くなかったっけ?」
「懐かしいねー。」
「校舎に入るの卒業式以来やもんね。」
「開きそう?」
「錆び付いてるけど・・・開いた!」
何の障害もなく屋上にたどり着いた。
久しぶりな校舎に少しはしゃいでしまうのはご愛嬌である。
そして、それはいた。
「「「「え。」」」」
「・・・ウォゥ?」
扉を開いた目と鼻の先。
驚く私達をじっと見つめる目。
私達の声に同調して小首傾げ、
「・・・もふもふ?」
「ウォフッ!」
嬉しそうに涎を垂らして、
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅう
盛大に腹を鳴らして飛びかかる体制に。
「ぇ?」
「・・・あ、これエサ認識されとるね。可愛いけど。」
どこか冷静に私が呟くのを合図にして、双方の行動は素早かった。
「ウォゥ!ウォン!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
先攻
嬉しそうに飛びかかってくる。
犬語を日本語に訳するなら「いっただっきまーすっ!」ってなってただろう。
後攻
私がもふもふを撫でるべく手をのばしてゆみちゃんにひっぱ叩かれしゅうやくんが叫びながら自分よりも前にいた私達を引っ張って階段まで避難しなおくんが直ぐ様扉を閉める。
この間、3秒弱。
コンマの差で後攻の方が早かったため、私の手はそれに触れることなく空を切った。
「あーもうちょっとで触れたのに・・・」
ゆみちゃんにまた叩かれた。痛い。
それにしても、
「うわぁこれは入れんな。」
「せっかくやったのにね。」
あのもふもふはここのボス?
うちの学校は体育館にいたけどここは屋上?
ってかなんでもふもふ・・・あぁ可愛かったなぁ。
お腹すいとったんよね?
食べとる間ならもふれるかいな?
「・・・さっきから深七ちゃんが扉の方をみて何かブツブツいっとる。」
「よし、最悪死に戻ろう。」
「あ、何か決まったっぽい。深七ちゃん、うちらは帰るけど深七ちゃんどうする?」
「あ、そう?私は死に戻り覚悟でちょっと逝ってくる。」
「・・・うん、言うと思った。うちらの話も全然聞いとらんかったもんね。」
「え。」
き、気付かなかった。
よくみたらなおくんとしゅうやくんがいない。
先に帰ったらしい。
いつの間に・・・?
「あぁっと、うん、何かごめんよ?」
「よかよ。じゃぁ、あんま無理せんこつね?またねー。」
「うん、またねー。」
さて、それじゃあこの子どうしようか?
取り敢えず試しに。
がちゃり
「ウォンッ!」
尻尾ふっとる。
目がキラキラしとる。
毛がふわふわしとる。
結論。
めっちゃかわいい!
「ちょっとだけ・・・ぃった!」
手を出したら噛まれた。
ちょっとくらい撫でさせてくれても良いじゃん・・・。
痛かった分くらいはし返しさせて貰おうか。
「じゃーん、牛肉(の塊)~」
「ウォンッ!ウォフ、ウォゥ!」
「を、弱火でじっくり炙ります。」
お座りしてじっとこちらを見つめる様はさながら忠犬のようだ。
「・・・キューン。クゥーン。」
「やっぱり、フィールドの屋上からは出られないんやね。」
今私は屋上に入る一歩手前のところにいるため犬?ーーーもう犬でいいやーーーは肉を私から奪うことは出来ない。
そうこうしているうちに肉が焼けていく。
もちろん魔法使ってます。
じゃなきゃ校舎燃えちゃうし。
「キューン!キューン!」
程よく火が通り始め、食欲をそそる匂いが立ちはじめる。
ここで魔法を切り替えて中までしっかり熱を通す。
イメージは電子レンジだ。
匂いに耐えきれずに急かしはじめる犬。
そしてここで一言。
「だがしかし!!お前にやるとは言ってないっ!!!」
「ワフッ!?」
えっ、くれないの?とばかりに驚き飛び上がる犬。
てか言葉わかっとるんやね。
「人の手を噛むような悪い子にタダであげるわけ無いでしょーが?」
「キュゥ・・・」
ペタンと耳と尻尾が垂れた。
ちょっぴり涙目なのがいじらしいがここは我慢だ。
「襲ってこないって約束出来るんならあげても良いけど。」
「ウォンッ!」
ビシッとお座りし直す犬。
根は素直らしい。
そのまま見つめあうことあうこと数秒。
「じゃあ、はい。」
「ウォゥ!」
「代わりにちょっと撫でさせてね?」
肉を頬張りながら頷く犬。
・・・そんなに美味しそうにされるとお腹空くんだけど。
まぁ、ちゃっちゃと納品しに行って帰ればいっか。
それじゃあ許可もいただいたことだし、ね。
おぉ、もふもふなだけでなく毛並みもさらさらしとる。
毛色綺麗やなぁ。
白くて先の方だけ黄色・・・?どっちかと言うと金っぽい?
毛は長めやね。ふかふかやん。ブラッシングしたくなる。
でも毛が生えかわる時期は大変そう。でかいし。
犬種としてはゴールデンレトリバーっぽい。
顔だけみれば目がちょっと垂れ目だから優しげに見えるけど大きさがその印象を打ち消してる感じだ。
もうちょいもふりたいな。
「あー、ちょっと抱きついても良い?」
「ウォフ?」
頼んだら自分からすりよってくれた。
ちょっと重いけど可愛いからゆるす!
「もー可愛いなー!」
抱きついてなでまわしたら喜ばれた。
そして冒頭に戻る。
「肉、それで足りる?」
「・・・クゥン。」
「ま、図体でかいもんね。何個要る?」
2個目の肉を取り出して焼く。
3回吠えたので3つ?とたずねたら頷いた。
本当に賢いな。
多分この子はこの小学校のボスモンスターに当たるのではないだろうか。
肉を出すときにメニューを確認したら戦闘中ってなってたし。
さっき抱きついて気づいたけどこの犬はかなりガリガリだ。
毛が多くて一見分かりにくいけど近付くと顔が痩けているのが分かる。
毛並みも綺麗なのにどこかくすんでいて勿体ない。
食事をとれないんだろうか?
・・・そう言えばこの子はここから出られないんだった。
でもこんなガリガリになるまで飲まず食わず・・・あ、水やってない。
肉だけじゃのど渇くよね。
「何か器とかがあれば良かったんだけど・・・。」
「?」
「ごめん、水あげようと思ったんだけど飲みやすくなりそうな入れ物無いから欲しいなら手から飲んでもらわなきゃいけないんだけど・・・。」
「ウォフ!」
頂戴!とばかりに近付いてくる。
やっぱり、本当に飲まず食わずだったの?
「よくこれまで生きてこれたねぇ。」
「・・・クゥン。」
飲むのを一旦止め、小さく鳴いて首を降る。
「?何?なんか違った?」
頷かれた。
あれ、さっき私は何て言った?
よくこれまで生きてこれたねぇ?
え、どこが違うの?
「よく?」
じっと見つめられる。
「これまで?」
どこか悲しそうな目で。
「生きてこれた?」
今度は首を降られた。
「生きて・・・こられなかった?」
頷く。
え、いやまって?生きてるじゃん。
目の前にいるし触れたし。食べてたし。
「そもそもボスモンスターなら死んでもまた、」
そこで気づいた。
復活する。そうだ、復活するのだ。
今、この世界にはモブやモンスターが存在する。
魔法やスキルが存在する。
プレイヤーは復活することができる。
そして、モンスターもしかり。
一定時間経てばモブたちはリポップする。
撃破することによる変化ーーー例えばセーフティエリアの解放などーーーがなければボスモンスターだって復活する。
例え、死因が餓死であっても。
「もしかして、何も、食べられなくて、餓死と復活、を繰り返してる、の?」
悲しそうに頷かれる。
どう、しよう。ここで同情するのは、違う。
それはきっと、いや、絶対、何か違うんだよ、ね。
結局辛いのはこの子自身であって、私がその辛さを知ることはないし、出来ない、し。
じゃあ、今私が考えられることは?
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書き方が、纏まってない・・・?
今回改行多目です。
はい、ちょっと嫌な感じが入りました。
一人ぼっちでお腹を空かせ、飢えて死んでも復活して、また生き地獄になる。
そんな彼?の心境はいかばかりか・・・