2話
夕食と入浴を済ませて、私と結さんは私の部屋にいた。
結さんはここで暮らすようになってからは私のベットの横に布団を敷いて寝ている。
うちに来た初日に、落ちてこないでね?といたずらっぽく笑いながら言われた。
結さん、私ダブルベットから落ちるほど寝相悪くないんだけど。
「それで?店長さん達には話したの?」
「まだ、かな。取り敢えず準備終わらせてからじゃないと真面目に取り合ってくれるかどうかも微妙なことだし。」
「確かに、ね。じゃ、準備を始めましょうか。」
「うん。」
ここのところ私達はずっと、ある準備を進めている。
今日の採集もそのためだった。
必要な物資やそれにかかる時間を考えると完成は等分先になりそうだけれど。
ある程度の時間で切り上げて私達は眠りについた。
「今日は二人ともどうするん?」
「私は今やってる作業を進めようと思うけど、みーは?」
「市役所の食料調達に参加しようと思ってるよ。私らは食料足りてるけど他がどうなのかは分からんし。」
「野菜とかもとってこれそう?」
「ドロップするモンスターがおったらとってくるね。」
朝食をとりながら今日の予定を確認し合う。
野菜かぁ。この辺りに落とすやつ居るかな。
市役所いったら聞いてみよう。
「お母さんたちはどうすんの?」
「うーん。大きいおばあちゃんのところに行ってこようかな。母さんは、一緒に行く?」
「そうやね。やったら食べ物少し持っていこうか。」
大きいおばあちゃんとは私の母方の曾祖母のことだ。
核家族化の進む今どき珍しい、長男夫婦とその息子夫婦と一緒に暮らしている。
「ん、ご馳走さま。それじゃあ行ってくるね。」
「「行ってらっしゃい」」「行ってらー」
「はーい、行ってきまーす。」
「はい、次の方ー。本日はどのような御用件でしょうか?」
「食料調達についてなんですが。」
「すみませんが、配給は皆に平等にいくよう心掛けておりますので個人で増量を希望されることは・・・」
受付の女の人は困ったような顔をしながら対応をしている。
「またか。」と言う顔を隠しきれていれないあたり、余程そういった要件で来る人が多いのだろうか。
心の中でお疲れさまですと合掌した。
でも私、別に配給を催促しに来たわけでは無いんだけど。
「とってきてくれている方達にもあまり無理強いはできませんし・・・」
「すみません。私の言葉足らずでした。」
「?」
「市役所で食料調達の依頼を受ければ、とってきたものを配給で余るものと交換してもらえるとネット掲示板にあったので来ました。どこで依頼を受けられるのかを知りたいのですが・・・」
「えっ!?あっ、係りの者がご案内致します。」
今絶対、こんな子供が?って顔したよね。
気持ちは分からんでも無いけど、高校生だし言われるほど子供でも無いと思うんだ。
すみません。ちょっと・・・
受付の女の人が近くにいた男の人に声をかけると直ぐにこちらへやって来た。
「私がご案内致します。ですがその前に1つご確認をさせていただいてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
おいくつですか?とか?
だったら、最近選挙権が与えられるようになった歳です
って答えよう。
受験生に選挙行かせるって政治家さんたちも鬼だと思うんだ。
正直政党とかの番組を見る暇も興味もないからさっぱりだし、ポスターとか見たって結局何がしたいのかも分かんないし。
あと、選挙カーとか止めて欲しいんだよなぁ。
授業中に気が散るし。うるさいし。ウルサイし。五月蝿いし。自重してほしい。
「貴女はいしょく者ですか?」
あ、すみません。考え事してました。
いしょく?衣食、移植、異色、委嘱、移職、えーっと。
い、意、移、異、居、以(以下略
しょく、食、色、植、職、飾(以下ry
え、漢字どれ?
なんのこっちゃ?
「別の聞き方をしますね。貴女はスキルやアーツ、魔法等を使える人ですか?」
「使えますけど、いしょく者ってプレイヤーのことなんですか?」
「そう、ゲーム何かでは剣士や魔法使いを職業と見なすでしょう?現実の普通とは異なる職業を持つ人達を政府が異職者と呼ぶことにしたんです。」
この後にこの人が言いそうなことを繋げるならば、だから悪意はありません、とでも続くのでは無いだろうか。
ならもう少しその侮蔑するような表情を取り繕って欲しい。
そんなに直ぐに顔に出るのにこの人は社会人として良くここまでこれたなぁとも思う。
ある程度猫の皮をかぶることも大人には必要でしょうに。
まぁわざと隠してないんでしょーけど。
こちらも思わず顔をしかめてしまった。
異職者か。何かやだな。
「こちらのボードにある依頼を選んで、その番号をこの窓口の人に伝えてください。詳細が記されたプリントをお渡し致します。なお、以来において命を落とされるようなことがあってもこちらは保証できません。」
それだけを言うと男性は去っていった。
依頼内容を確認すると植物系や動物系モンスターの情報と納品数が書かれている。
そういえばモンスターってMOBとも言うんだっけ。
"M"oving "OB"jectで、モブ。
短くて呼びやすいしこれからはそう呼ぼうかな。
「あ、すみません。依頼って掛け持ち出来ますか?」
「はい、上限は有りません。食料はいくらあっても困りませんし、近い狩り場の物は一度に取りに行った方が効率が良いですしね。」
「ありがとうございます。どれにしようかな・・・」
お、この人はちゃんとした態度だ。
「決まったら私に番号を教えて下さいね。」
「あ、はい。」
・・・むしろ歓迎?
ザッと目を通すと、どうやら小学校付近に集中しているようだ。
依頼番号は肉類、魚類、野菜類、果物類の順番に並んでいる。
その中から小学校付近をピックアップして窓口の女性に伝えると、それぞれの詳細のプリントを渡された。
「こちらには納品していただく食材を落とすモンスターの特徴や生息地域が書かれています。それではお気をつけて!いってらっしゃい!」
「い、いってきます?」
何でこの人テンション高いんだ?
首をかしげながらも小学校を目ざして市役所を後にした。
ここに来るのは何年ぶりだろうか。
卒業してからは一度も来ていないし、5年以上くらい?
小学校の頃は図書室に入り浸ってたし、暇さえあれば読んでいたからそう感慨深いものも少ないけれど。
下校中に読みながら帰ったこともあったなー。
だからほとんどクラスメートと話したことなかったし。
・・・ここ、私の話ベタの原点じゃん。
少し微妙な気分になりながら歩いていると先に狩りをしている人達を見つけた。
運動場に点々と分散しているその人達は1人だったり数人で組んでいたり。
ただ1つ気になるのは、
「ていっ、てやぁ!」「うりゃぁぁぁ」「ぅあ!詠唱が!」
グダグダすぎるわ!
攻撃は数回に1度しか当たってないし、魔道士は詠唱のタイミングを全然考えて無いし、弓使いは矢が見方に飛んでるし、その他もろもろひどすぎる。
モブが弱すぎるのか当たりさえすれば一撃で確実に倒せるようだが・・・当たればの話である。
しかもパーティーによっては揉めてるし!
チームワークのあったもんじゃない。
よし、パーティーめんどくさそうだしソロでいこう。
「ねぇ、深七ちゃんじゃない?」
「ん?」
声をかけられた方を向くと同い年くらいの女の子が。
誰?
「えーっと?」
「覚えとる?小6のとき同じクラスやったんやけど。」
「・・・ゆみちゃん?」
首をかしげ答えると頷かれた。まじか。懐かしいな。
みゆちゃんは私が会話できた数少ないクラスメートだ。
同じパーティーらしき男子も声をあげた。
「あ、深七って木色 深七?」
「そうだけど。誰?」
「はぁ?俺も同じクラスだっただろ。ついでに保育園も一緒。」
「・・・しゅうやくん?」
「友美と修也の知り合い?」
「お前も同じクラスだっただろ。」
「・・・?」
さらにもう一人の男子も混じってくる。
しゅうやくんか・・・ガキ大将の印象しかない。
キレると直ぐに手が出てたし、未だに怖い人のイメージが強いんだよねぇ・・・1回下手すると危ないところ殴られたことあるし。
3人のパーティーでゆみちゃんとしゅうやくんは剣、もう一人は杖持ってるし魔法職か。
ってあれ、こいつ・・・
「うっげ、なおくんじゃん。」
あ、やべ。心の声が。
ってしゅうやくんとなおくんとか・・・どっちも私の天敵だわー。
なおくんは集団で突っかかってくる面倒なタイプだった。
時には中の良い1こ下の子達を焚き付けて皆でからかってくるのだ。
いくら年下とはいえ、小学生の1つ2つ違いは大した差ではない。
集団で来られればこちらは圧倒的に不利だった。
「ねぇ深七ちゃん、狩りをするなら一緒にやらない?」
あ、止めてゆみちゃん。私こいつらホントに苦手なの。
数年たっても嫌悪は消えてないんだよ。
何?ねちっこい?んなこととっくに知ってるわ。
これでも昔よかマシになってるんだよ。
まぁそれが小学生のころのボッチの原因だったのは自覚してるけどさ。
あの頃の自分に会えるなら殴り飛ばしてやりたくなるぐらいだったし。
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主人公大分ひねくれてるかもしれない・・・