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ひよりは半ば強制的に直哉を彼の席に座らせ、自分も席に着く。
教室の個人机には一人ひとりの机の横に小さなPCリンク装置が据え付けられており、生徒は常時装着が義務付けられている腕時計型の生徒証明兼リンク用コードとその装置を合体させることによって、いわばPC世界に飛び込むような体験が出来るのだ。
ちなみにその生徒証明には端末コードが設定されていて、初期の名称からコードを変更できる。これはどうやら先生方の「愛着持って欲しい的」な志向によるらしい。現に自分の幼馴染ーーーー直哉のことだがーーーーは、某バーチャル乙ゲーのキャラクター名にしていたはずだ。…まぁ、それは置いといて。
ひよりはそれを慣れた手つきでセットし、鼻歌混じりに「ダイヴ」とつぶやく。
その瞬間、ひよりの意識がインターネットと融合する。
少しの眩暈の後、青白い光が身体を包むと真っ白な空間に放り出される。
その空間の中に縦横無尽に駆け巡っているアプリ群の中に黒い城の形を探す。
そのアイコンは、目立たない奥深くにひっそりと存在していた。
『Black Castle Online』。
仮想の黒い城に手を触れた瞬間、間を縫うようにすべるアプリ群も白い空間も全て消えうせーーー
圧倒的な黒が、全てを塗りつぶした。
* * *
目の前が暗くなったあと、急激に視界が開けた。あまりの眩しさにデータの瞳孔がぎりぎりと悲鳴を上げる。それでもやっと目が開けるほどに身体(意識?)が慣れてきた頃、ひとつの小さなダイアログが姿を現した。薄いエメラルドグリーンのそれは、どうやら身長を入力するための窓らしかった。
「ふーむ」
ひよりはしばし迷う仕草を見せた後、リアルの自分の身長ーーーよりも、10センチほど上積みした値を書いた。
すると数秒ほど経ってすぐ、『BCOにようこそ!! 楽しんでいってくださいね♪』というメッセージが表示される。
…あれ? 武器とかの選択とか無いんだ。
そう思ったのもつかの間、あたしの身体は白い光に包まれた。