仕組み
そのまま軍法裁判所へ送致されることが決定されたこの事件は、それでも公開裁判において争われることとなった。
「それだけ勝ち取れただけでも、よかったとするか」
私は、検索官室で軍法裁判所用の書類を整えていた。
「それで、軍法裁判所に行って、何か変わるんですかね」
「いいえ、基本は変わらないわ」
部下の質問に答える。
「第2次大戦前はそうじゃなかったらしいんだけれどね。特別裁判所だったから。でも、今じゃ違う。最高裁判所と言う一つのピラミッドの頂点から底辺部に位置する簡易裁判所まで。さまざまな裁判所が特定裁判所として憲法に明記されているわ。日本皇国憲法第89条ね。それによって、地方裁判所と同程度として行政、憲法、軍法、知的財産の各裁判所が、それぞれの専門に特化した形でおかれることになったの」
「そして、軍法裁判所は、戒厳令が出されると同時に司法権を掌握したということですね」
「ま、そう言うことね。だから、戒厳令が終わってしまえば、最終弁論まで行っていないものに関しては、それぞれ元の裁判所へ再送致が行われることになるっていうわけ」
「なるほど…」
私は書類を全て整えたことを確認し、部下に聞いた。
「この内容、全部、司法修習生の時に習ったと思うけど?」
「一応合っているかが気になりまして」
「そりゃあってるわよ。私もそこの教授してたんだからね」
私はそれを部下に言うと、一旦部屋から出た。