分の悪すぎる賭け
五分立ってしまった。
もう勝ち目はないだろう。だがしかし、ここで諦めてしまったらほんの少しだけ残っているかもしれない勝利を自ら手放すことになる。
そんなことだけはしたくなかったので、もはや何度目かわからないがを発動させて諦目を劣化させる。
よし。まだ負けたわけじゃない。策を考えよう。
まずはこの五分間の中で手に入れたもの。武藤さんの戦い方の情報をまとめよう。これらはただの推測だから違うかもしれない。それでも使わなければさっきまでの焼き直しになるだろう。
拳よりも蹴り主体の戦い方だけど、どこかぎこちない所があるのと、足が届かない位置にいても蹴りを放とうとしてくるときがあることから、普段の間合いは足よりも長いのだろう。そして武器は使わないといっていたので普段は武器を使っていて十中八九剣だろう。
しかし間合いの外であろうとも高い身体能力を使って飛び蹴りのようなことをしてくるのであまり意味じゃないだろう。
次に『停止の魔眼』は焦点を合わせたものならすぐにでも停止させることができると思われる。
これは戦う前に小手とすね当てを作ってもらった時に分った。
現状焦点を絞らせないことや視界に映らないようにするといったこと以外対処方は無いが、視界に映らないほどの速度で動くことはまず不可能で、さらにここはコロッセオのような場所なので障害物もないから盾になる物は何もない。
そして最後に一つだけ悪くない推測。
これはおそらく勝負を決めるもので、なおかつ今までは使い道がなく、運が良ければといった程度しか使えない。
しかし、本当にできるのならばその効果は計り知れないものになる。
「それで? 闘技場は別に死んでも生き返るようになってるだけで、死ぬんだぜ? これ以上痛い目見ないうちに降参したほうがいいんじゃないか?」
武藤さんは脱力したように、構えを解く。今の一瞬で飛び込めば一撃入れられるかもしれなかったが、そんなことはどうせ予想済みだろう。
だったら少しでも体力を回復させたほうがいい。
すでに『繊月海月』で疲労という感情は劣化しているが、底を尽きかけている体力が湧き出てくるわけではない。
そして武藤さんの質問に対しては返事はほとんど決まっている。
「……いえ。痛みならこらえますし、たとえ死んでも一撃をいれるつもりで行きます。そうでもしないと何もできないままになってしまいますから」
少しでも長い間話して体力を回復させたかったが、僕の回答を聞いた後すぐに武藤さんはため息を吐いてから構えをとる。
「……とりあえずもうそろそろお終いにしてやるからすぐにでも医務室にでも連れてってやるよ」
「お願いします。もう立ってるのもやっとなので」
「ああ、ばっちり運んでやるよ。そんじゃあ二回戦と行くぞ」
「はい。お願いします」
武藤さんが目に意識を集中するのがわかる。僕は体力が回復しきれていない体に鞭を打って視界から外れようと試みる。
しかし僕が右に動こうとした瞬間には体が動かなくなっていた。
「自由を奪え――『停止の魔眼』」




