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便所の怪異

作者: 鱒味

短いです。気休めにどうぞ。


本を読むのが好きだった。部屋でも寝所でも便所でも、所構わず本を読む。

便所へ行こうという間際。ふと思い当たって分厚い書籍へと手を伸ばした。

便座に座り、ほんの一段落を読み終えたときだった。

カン、カン、カン、と金物を叩く音が聞こえる。

冬の便所は寒い。足下からせり上がって来る冷えに、思わず背筋を震わせながら首を傾げる。

これは何の音であろうか。カン、カン、カン、気付けば換気扇の音が大きく大きくなっていく。

まるで何か途方のないものを、便所に取り込んでいるようで、急に恐ろしくなった。

呼んでいた本を忙しなくたたみ、震える手で水を流す。

便所から血相を変えて出てきたことを不審に思ったか、妻が奇妙な顔をしているのを見て、思わず問いかけた。

「いまなにか金物を叩くような音が聞こえなかったか」

「いいえなにも」

それを聞いて焦った。

なにせカン、カン、カンという音は妻がいるほうから聞こえてきたのだ。

椅子に座ってお茶を飲んでいる妻の身の回りに金物など見当たらない。

周囲の家からの音であったとして、妻に聞こえぬものが便所に届くだろうか。

寒さからではない震えがきて、便所のほうを顧みる。

あれは一体なんだったのであろうか。

なにか得体の知れないものを便所に呼び込んだように感じて、ゾオッとする心を抑えられなかった。

手に持った分厚い書籍を、便所に持ち込むことはできなくなった。

本を便所で読むこともできない。

それから便所へ行っても、もう二度とその音を聞くことはなかった。


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