うちの猫、人間になっちゃったみたいです。
白い髪の美少女というのは100%作者の趣味です。
これは夢なのだろうか。
「……こんにちは。あの、はじめまして。井上、恵君ですか?」
ありのまま起こったことを話そうと思う。
今、学校から部屋に帰ると、部屋には綺麗な白くて長い髪を持った俺好みの超絶美少女がいた。
頭に着けたレース付きの赤いリボンが白い髪にとてもよく映えている。
ちなみに格好まで俺好みで白いワイシャツに(至極残念だが下着は透けていない)赤チェックのプリーツスカートだ。どこかの制服のような格好でもある。
そして、そんな俺得美少女が初対面のはずの俺の名前を何故か知っていて、しかも尋ねている。
言っていいだろうか言ってもいいよな言わせてくれお願いだ。
…………これ、何てエロゲ?
「えと、違うんです! 私、その、変な人とかじゃなくてっ……うぅん、私、多分変な人ですよね……。あのー、私のことわかりませんか……?」
少女があたふたと手を振り、困ったように苦笑して俺に問いかける。
その仕草や表情、一つ一つが直視できない程に可憐で可愛らしい。
「え……っと、ごめん。俺は井上恵だけど、君とどこかで会ったことあったかな?」
曖昧な物言いで訊ねてみるが、会ったことはない……と思う。
こんな絶世の美少女、覚えていない訳がないのだから。
「あ、ちょっと傷つきました。ごしゅ……じゃなくて、あなたにはよく懐いてたんですけど」
「……懐く?」
少しむくれた顔で言う少女の、『懐く』という言葉が少し引っかかる。
それに、今何かを言いかけたような……?
何かを思い出すような感じがする。覚えはないが、会ったことはあるような気がしないでもない。
「んー、そうです! その調子です! じゃあヒント行きますね。ヒントその1、私はあなたに撫でられるのが大好きです」
「撫でられる……?」
何かが喉まで出かけるのだが、その先が出てこない。
撫でられる、懐く、白い……。
「ヒント、その2。鈴のついたグレーのふさふさ、大好きです」
「鈴のついたグレー……って、え!? まさか……」
信じられないという目で少女を見る俺に、顔を輝かせて少女は満開の笑みを浮かべた。
「わかってくれましたか!? 私です、白雪ですよ!」
手をばたばたさせながら自己を主張する少女、『白雪』。
「嘘だろ……」
「うぅん、嘘じゃありませんよ? ……ご主人様」
何故信じられないのか。
それは、はにかんでいる彼女が言う『白雪』とは、俺の飼い猫だからだ。
撫でられるのが好きで、鈴のついたグレーのふさふさのオモチャが大好きで、白くて綺麗な毛並みを持った猫。名前は――――――――、『白雪』。
「夢だ、絶対に夢だ」
言い切って頭を振るが、一向に夢が醒める気配はない。
「……私はっ! ご主人様にどうしても人間の姿で会いたかったんです! だから会いにきました。会えました。だから、これが夢だって何だっていいんです!」
綺麗な凛とした声で白雪は強く言い切る。
だが、その表情は途端に悲しげな表情に変わる。
「ご主人様は……それじゃ、ダメですか。私に会いたくはなかったですか? これが夢なら早く醒めれば
いいって、思いますか……?」
涙が少し溜まる瞳を、白雪が俺に向ける。
なんか、女の子を泣かせてるという罪悪感がヤバイ。しかも超絶美少女。(※ココ重要)
「あー……ごめん。俺も、お前が本当に白雪だっていうなら会えて嬉しい。ちょっと驚いたんだ、ごめんな。うん……なんつーか、そうだよな。夢だって構わない、よな。会えたのは本当だし」
途中から自分は何か物凄く恥ずかしいことを喋っているのではないかと自覚して、照れながらも何とか言い切る。
白雪をちらりと見ると、ぽーっと俺を見つめていた。
「……やっぱりご主人様大好きっ!」
「おおうっ!?」
そして、俺に満面の笑みで抱きついた。
「ぐふ……ちょ、おい……わあッ!?」
「きゃあああっ!?」
二つの悲鳴が綺麗に重なる。
俺は情けないことに体力がない。科学部の幽霊部員なのが関係しているかもしれない。
「あ、……そうだった、私、人間になったんだった……」
失敗した、と笑うこいつが猫であることを認めざるを得ないかもしれない。
多分、いつもの調子で何のためらいもなく思いっきり体重をかけられ飛びつかれた。
ということは、猫であるあの時はともかく今の人間の姿だとどうなるか。
「どけっ……どいてくれ頼む息が出来ねぇっ……!!」
つまりはこういうことになる。
白雪は俺の上に乗っていて何だかとってもエロいような気がしないでもないのだが論点はそこじゃない。息が出来ないんだ。
「はあーい、今退けますね」
のんびりと返事をして、白雪が俺の上から退ける。
ああ、何かこんな感じだよなぁ、白雪って……、と一人勝手に納得する。
そもそも、こんな美少女と関わりあえるならドッキリだって夢だって何だっていい。白雪のいうとおりでもある。
「……白雪」
ため息をつく代わりに、白雪の名を呼んだ。
問題は山積みだ。
俺は天井を凝視するのをやめ、目を閉じた。
あーあ、何か始まる。