プロローグ
注意
怪我描写
それは月が空の一番高いとこを通り過ぎた頃
「火事だー!!」
「水を持ってこい!」
帝国の端っこのとある村で一つの家が炎に包まれていた。
炎の勢いは思ったより強く、家の前ではその家の家主と思われる母親がいた。
腕にはちいさな子供が抱かれている。
「おぃあんた!旦那は!」
「…中に…あの子を救いに…」
木製の家がまるで砂で作った山のように崩れつつあった。
◆
男は木と炎の中を探り歩いている。
「アル…アル!」
黒い煙が肺を締め付ける。
落ちる火の粉が肌で赤くなる。
(……熱い…)
早くあの子を探さなくては。
──モゾッ
「!」
今にも崩れそうな柱のそばに影が動く。
「アル!」
縮こまって震える赤毛の子供がそこにいた。
その顔は怖い気持ちにいっぱいだった。
その怖い気持ちは果たして何を思っているのだろう。
火事の火だろうか
孤独だろうか
あるいは──
「アル、もう大丈夫だ。父さんが来たからな」
男は赤毛の子供を抱きかかえて外を目指す。
◆
「………たぞ!」
「出てきたぞ!」
すでに半壊した炎の家から子供を抱えた男が出てきた。
抱えられた子供はまるで何も知らぬような優しい顔で眠っていた。
「アル…良かった…」
母親は涙を浮かべた。男…父親も家族全員の無事を安堵する。
自分の怪我すらも気にならないほどの安心感を得たのだろう。
父親の片目は皮膚の色が代わり、血を流していた。
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まもなくして火は消し止められ、そこには家があったのだろう跡のみが残っていた。
───あの炎は、偶然ではない。
それは、
まだ名も与えられていない力が世界に触れた
“最初の痕跡”
だった。
月は何も語らず、
夜は静かに明けていった。




