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おまけ前編. 闇にうごめく頭部人間

◆ まえがき

 悪人達のその後が見たいという感想をいただいたので書いてみました。

 前編後編の全2話です


◆ 本文


 本妻のネイのお腹に新たな命が宿り、正妻のレインが「私も早く妊娠したいです」とやや切なくも対抗心を燃やし、シルが「やったあ! 私、お姉ちゃんになる!」とわくわくしているころ、ろくでもないやつが性懲りもなく暗躍していた。


 日本のとある山奥。人里から隔離されたところに、フェンスで囲まれた広い土地があり、その中に分厚いコンクリート壁に覆われた建物があった。


 国立異能力被害研究所だ。

 病院では治療できないような、異能力によって発生した病気や怪我などを研究するための施設だ。


 そこに、かつてトッシュが所属していたギルドの(おさ)金星(かねほし)や、彼の部下が収容されている。

 彼らはネイの妖刀によって首が切り落とされている。しかし命に別状はなく、そういう状態で生きている。

 頭部のみの頭部人間だ。


 彼らの胴体は、かつての戦場跡から何者かによって回収された。対立するギルドが持ち帰ったのかもしれないし、どこかの変質的な倒錯者が首なしドールとして性的な意味で使用するために拾ったのかもしれない。


 彼らはいつ死ぬか分からない恐怖に怯えながら、頭部のみで存在している。


 国立異能力被害研究所は、治療のために研究しているという体裁をとってはいるものの、実際は金星たちを研究材料として扱っていた。

 首だけで生きている生物を研究すれば、病気や怪我で体を失った人の延命が可能になるかもしれないし、食事がなくても生きていける手段を確立できるかも知れない。

 頭部人間は、かっこうの研究材料だった。


 ある日、厳重に護られたその研究所に侵入する者がいた。

 まるで映画のように、研究所に出入りする車両の下部に貼りついてゲートをくぐり、そいつは侵入する。


 そいつの姿もまた、頭部人間。ただし、首の断面に位置する部分から、指のような10本の足が生えている。


 金星の息子にして、かつてトッシュが所属していた課の課長、金星(かねほし)日人(ひびと)だ。

 日人はトッシュの『現実改変』スキルによって、指足の生えた頭部人間に変化させられていた。さらに不老不死にされているため、世界が滅びるまで頭部のみで生きていく運命を背負っている。


 かつてスライムに全身を溶かされて頭がイかれた日人だったが、トッシュによって「最大限苦しむように」精神が正常に戻されているため、皮肉なことにその冷静な思考によって、今回の作戦を立案し、決行したのだ。


 日人の現状は自業自得なのに、ずっとトッシュを恨み続けていた。そして、恨みと復讐心により、日人は新たなスキルに覚醒していた。


 もしかしたら、どこかで悪のスキル使いに力を与えられたのかもしれないし、邪神的な存在に「力がほしいか……」されたのかもしれない。


 あの戦いから半年以上も、頭部だけの彼がどこでどうやって生きていたのかは誰も知らない……。


 だが、日人はたしかに『感染』スキルを覚えていた。


 国立異能力被害研究所の敷地内に侵入した日人は日中(にっちゅう)(※)をゴミ箱の中で隠れて過ごし、日が沈んだあと行動を開始する。


 ※:日人は『日中(にっちゅう)』にルビを振らなければならない迷惑な名前だ……。


 カサカサカササ……。


 国立異能力被害研究所は国立とはいえ軍事施設ではないし、流出したら危険な病原菌を扱っているわけではないので、意外と警備は緩い。


 夜警が見回っているわけでもないので、日人が移動していても見つかることはない。


 日人は数日間かけて、施設内の排気ダクトやゴミ箱や観葉植物の陰などに隠れながら情報収集をして、目的地を探した。


 こっそり盗んでおいた、来場者用セキュリティカードを使い、3階の部屋に入る。


 さっぷうけいな部屋には棚の他にテーブルがあるのみ。椅子すらない。


 テーブルの上に籠が置いてある。中にクッションが敷かれていて、そこに金星が、置いてある。


 金星はドアロックが解除された電子音には気づかなかったが、ドアが閉まる音で目を覚ました。


「誰だ。こんな時間に」


「俺だ。親父。迎えに来たぜ」


「日人? その声は日人か!」


「ああ。そうだ」


 日人は10本の指足でテーブルの脚をのぼった。


「揺らすが声を出さないでくれ」


「わ、分かった」


 日人は籠を蹴って倒した。中から金星が転がり出る。


「う、うう」


「身動きが取れないのは大変だな」


「日人、お前、その姿は……!」


「へへっ。俺には足があるんだよ」


「くっ……。親子揃ってこのような惨めな姿に……」


「安心しろよ。親父。元に戻す手段がある」


「え?」


「トッシュだよ。あいつのスキルなら俺たちを元に戻せる」


「だ、だが、どうやってトッシュにスキルを使わせる」


「先ずは奴のところに行く。見ろ。親父。これが、俺の新たな力だ!」


 ドスッ!


 日人は指足の1本を金星の首の断面部分に突き刺した。男の頭部2つが首を中心にして密着した、非常に気持ち悪い光景だ。


 ボコボコボコ……。


 金星の首の断面が泡立ち、小さな肉の芽が生えてくる。


「うっ。日人、これはいったい」


「動けないのはつらいだろ。俺と同じになったんだ」


 ボコボコボコ……。


 肉の芽は伸びていき、やがて日人とそっくりの指足が10本生えた。


「これで自由に歩き回れる。さあ、行くぞ。トッシュへの復讐だ!」


「ああ!」


「俺に策がある。移動しながら説明する……。くくくっ」


 日人はにちゃあっと笑った。

 他人が見れば不快な笑みだが、父親の金星から見れば、実に頼もしく好感度のもてる微笑みだ。

 金星もつられて、にちゃあ、と同じように笑った。


 ふたりは夜の内に国立異能力被害研究所を出ると、2週間かけて、粕谷(かすや)グループの本社ビルへ向かった。公共交通機関を使えないため、ふたりの移動速度は極めて遅い。金星は娼館通いが原因で離婚しているので頼れる家族はいないし、日人に、こういうとき助けてくれるような知人はいない。

 いや、ひとりだけいる。


 それがまさに目的地にいる、粕谷(かすや)(ろう)だ。


 粕谷はかつてファンタジーエリアが無法地帯なのをいいことに、車で爆走し、異世界人をボーガンで撃って殺傷して遊んでいたカス野郎だ。

 親が粕谷グループという世界最大規模の企業体の会長なので、好き放題やっている。


 そして、調子に乗っていつものように異世界人を襲撃したところ、それがトッシュで、あっさり返り討ちに遭った。

 その後、粕谷と日人は出会い、意気投合し、アンチトッシュの友人となっていた。


 日人は自分の手足体となる戦闘用サイボーグを粕谷からもらうつもりだ。


 体さえ手に入れば、なんとかなる……!

 惨めな頭部人間としての生活もこれまでだ!


 そう考えているので、普通のサイボーグを手に入れて平穏に暮らすという発想はまったく出てこない。


 わんちゃん、平穏に生きる可能性もあったのだが……。

 復讐心を捨てきれないため、彼らはさらなる破滅への道をまっすぐ突き進むこととなる。

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