74話 トッシュは全身を溶かされる
トッシュは荒れ地に戻り、戦闘を再開。
敵はB級能力者が数名で隊を組み、スキルでコンボを狙ってきた。非常に厄介だった。絶妙なところで、円城寺の鈴が聞こえてくるから、トッシュはあと少しのところで攻めきれない。
キルレミーのモンスターも他のメンツと連携して襲ってくるようになった。
圧倒的に不利な状況ではあったが、トッシュは優勢に戦い、敵をボコりまくった。だが、戦線に復帰した聖女が敵を回復させるため戦いは振り出しに戻ってしまう。
「くそっ。やっぱ、聖女対策すべきだった!」
レ*プして処*を奪えば聖女能力を消せると言われているが、レイン以外とそういうことをするわけにはいかない。
レインとエッチしたいから戦っているのに、敵とエッチしたら本末転倒だ。
「やっべえな。ネイさんが俺のことを、A級以上っておだててくれるおかげで、ちょっと調子にのっちゃったかな」
S級相当の俺なら「相手を殺さない戦い」でも楽勝だろうと、敵を軽く見ていたトッシュはちょっと反省した。
なお、A級5人、B級30人、C級60人くらいと戦っているし、それは日本の異能力者戦力のだいたい半分くらいに相当するし、ためらわずに聖女を殺していれば勝てるので、普通にトッシュはS級評価を受けてもいい強さで暴れていた。
実際、敵は大慌てだ。当初の予定では、スキル攻撃でトッシュやネイ一派を完封できるつもりだった。そういう作戦を立ててきた。
しかし、敵は、用意した作戦のすべてを破棄か変更して、新たな作戦を立てている最中だ。
それほど「触れたら勝ち確定」のトッシュのスキルは敵にとって想像以上の脅威だった。
敵の上層部にとって想定外だったように、現場の能力者にとっても想定外だった。 敵能力者にも「当てたら勝ち確定」のスキル持ちはいた。
だが、その勝ち確な石化や毒や催眠攻撃を繰り出しているのに、その効果が完全に発動しきるよりも早くトッシュが自身のステータス異常を解除している。現場は「トッシュが想像以上の化け物過ぎて手に負えないんだけど、どうしよう」と、めちゃくちゃうろたえている。
離れた位置、というか、会社のパソコンで戦闘を見ているブラックシティのギルドマスター金星は、対ネイ用に温存しているリオンらをトッシュにぶつけるか検討中だ。
トッシュはとにかく敵に接近して、頭部以外を破壊していく。
しかし、聖女が回復させてしまう。
「今更ネイさんを頼って、聖女をどうにしかしてもらうのは、ダセえよなあ。円城寺が本気を出していないっぽいのが気になるけど、聖女さえいなければなんとかなりそうだよな……? それか、もういろいろなことを諦めて、組成不可能なくらいミンチにしちゃうか?」
チリン……。
「やべ」
さらに、リンゴのような甘い匂いもする。おそらく円城寺の能力の一環だ。
トッシュは考え事を中断し、自らの視覚と聴覚と、さらに嗅覚を封じて後方に高速跳躍。
それが罠だった。
ドスッ!
「は?」
背中に何かが当たった。胸に針を刺したような違和感があったから見下ろすと、血で濡れた刃のようなものが突き出ていた。
急速に胸が熱くなってくる。
「トッシュ~! ケヒヒ! これで終わりだ」
「は? え? おおっ?」
トッシュは背後から背中を刺されて貫通した事実は認識できたが、何でそうなったのかが分からない。条件反射でステータス異常を解除する。
優れた五感で、円城寺のスキル発動の予兆さえ感じ取っていたトッシュだが、無音で接近する最高性能の戦闘用義体には気づけなかった。
皮肉なことに、日人には「生身の肉体が放つ力」や気配や匂いみたいなものがない。だから、トッシュの警戒をすべてすり抜けてしまったのだ。
ドサッ。
振り返りざまに背後に拳を振ろうと思ったが、トッシュはその場でうつ伏せに倒れた。解除しきれない毒が仕込んであったのか、体の動きが急速に悪くなる。
(なんだ、これ。くっ!)
両手に何か、粘着質な液体をかけられた。生クリームのようなそれは接着剤だ。トッシュのスキルを封じるため、日人の手には拘束用粘液ガンが仕込んであった。
「けひひっ! どうだ。地球の技術で作ったウイルスに異世界のスキルでバフをかけた。さらにその効果をAIでリアルタイム解析して、新たなウイルスを作り続けていく。おまえの能力でも解除できないだろう!」
「く、そ……」
「お前のせいで、俺は人生を狂わされた。けひひひっ。この体の恨み、晴らしてやる! てめえも、首から下をなくせ!」
逆恨みで、よくそこまで金を使って嫌がらせができるな、と文句を言おうかと思ったが、舌がしびれてうまくしゃべれない。
何かがずるずると音を立ててはい寄ってくる。
そちらへ視線を送ると、イソギンチャクのような外見をした全長4メートルくらいあるモンスターがいた。A級テイマーが使役するモンスターだろう。
ヴシャッ!
モンスターが粘液を吐きだした。コー日に入れた角砂糖のように、トッシュの体が溶けていく。
「うわあああああああああああああっ!」
ステータス編集で強化した服自体は影響がないようだが、服の隙間から入った粘液がトッシュの体を溶かしている。
「ひゃははあああっ! ざまあっ! ざまあっ! ざまあっ!」
日人が手を叩いて、チンパンジーの玩具のように喜ぶ。実に愉快そうだ。
「あっけなかったな! じゃあな、四類のゴミカス。けひひ! おまえ、後輩の女と結婚したんだってな? そいつを連れてきておまえの前で犯してやる! 首だけになって待っていろよ。けひひひひひひっ!」
日人が下品な笑いをあげながら去っていく。周囲の者たちも去っていく。
「くそっ……。絶対に許さねえ。とどめを刺さなかったこと、後悔させて――」
トッシュは日人の背中をにらみつける。
「ば~か。騙されてやんの。トドメ指すに決まってんだろw」
日人が背中越しにあざ笑ってきた。
急に周囲の夜が深くなった。建物から漏れる灯りや街灯や、月や星の光が何かに遮られたのだ。
「マジかよ……!」
それは、人型巨大兵器のように巨大化したA級能力者ピーグだった。本人の能力か、他人とのコンボか不明だが、足の裏が金属で覆われている。
巨人の足が振り下ろされる。
(ヤバい。さすがに脳がつぶれたら死ぬ。どうする。踏みつぶされる寸前に、手の拘束が砕けるはず。肉体がつぶれる前にステータス編集で身体を柔らかくする! タイミングがわずかでもズレた死ぬけど、やるしかない!)
トッシュは最後まであきらめなかった。
そして――。
ガシャアアンッという巨大質量が激突する爆音とともに、ピーグの巨体が吹っ飛んでいった。
何が起きたか分からずに混乱しかけるが、トッシュは限界まで首をひねって状況を確認する。
ピーグとは異なる、人型巨大兵器のような巨体が新たに現れていた。そいつが助けてくれたらしい。
それは、人型巨大兵器のように巨大な人型巨大兵器だった。
「……は?」
トッシュは状況が理解できなかった。
なんか、見覚えがある。起動兵器ダンガムだ。
全体が白いボディで、胸や脚に赤や青のパーツがあり、頭部には黄色いアンテナがついている。右手にライフル、左手にシールドを装備している。
ダンガムの肩から人が飛び降りてきた。2メートルくらいある巨体なのに、ずいぶんと小さく見える。トッシュの同期ドルゴだ。
「おい、トッシュ。汚ねえな、おまえ。ドロドロじゃねえか。それで生きてんのか?」
「お、おう。痛覚を遮断しているからわからんけど、俺、けっこうやばい感じ? それ、何?」
「シルちゃんにダンガムのプラモ渡したら、こうなった」
「お、おう。マジかよ。やっぱ、ぬいぐるみ以外でもいけたか……」
パアアアッ。
急に体が暖かくなって痛みが消えた。
何事だと思うもなく、体が元に戻っていた。
幸い服は残っていたので、フルチンにはならない。
傍らに聖女がいた。
「えっと、なんで?」
「誰も怪我させないために、ここにいるって、言いました」
「あ、それ、俺も適用されるんだ」
聖女は頬を染め、さっと視線をそらした。
聖女座間の言葉は嘘だ。
彼女は孤児院をつぶすと脅されているため、粕野グループの言いなりになるしかなかった。反トッシュ連合だけ治療するよう命令されている。だから、トッシュを治療する理由はない。
しかし、トッシュが何度も乳を揉んでステータス編集を繰り返したから、最終的に聖女の抵抗力を超え、彼女はトッシュへの好感度がマックスになっていた。
粕野グループに逆らってはもう日本では生きていけない。だったら、愛するトッシュさんに面倒を見てもらおう、と座間は考えている。
こうして、日本最高レベルの回復術士である座間がトッシュ一派に加わることとなる。
残る脅威は、A級の4人と、日人だ。
「ドルゴ。ネイさんは来てる?」
「別件対応中。こっちはおまえが何とかしそうだったから、ネイさんはブラックシティのギルド会館にいる馬鹿を片付けに行った。ネモさんがリモートで会社につないで確かめたから、あいつが会社にいることはほぼ確定」
「そっか。じゃあ、お前はシルと協力して巨人を倒してくれ。シルのスキルは強いだろうけど、あいつは戦闘の素人だ。おまえの経験が絶対に必要になる。俺が残りのA級と日人を始末する」
「ああ。分かった。さっさと片付けて一緒に酒を飲もうぜ」
「ああ」
ざっけんな。これが片付いたらおまえらはさっさと帰れ。俺はレインとエッチしたいんだよ、とトッシュは言おうとした。
しかし――。
ビーッ!
ドカーン!
地面が爆発した。次々と爆発していく。高い位置からの攻撃だ。
出元を見ると、ダンガムのビームライフルだった。
シルが幼女特有の無邪気さで、ビームを撃ちまくっていた。
絶対に「殺してしまうかもしれない」とか考えてない。
爆発が楽しくて、ゲーム感覚で撃ちまくってる。
こうして、戦況は一瞬で覆った。




