72話 戦闘開始。トッシュは作戦ガン無視で単独特攻する
夕食は、またカレーだ!
大人数になったし、スパイスで味の調整をしやすいからとレインは理由を説明したが、単に彼女の料理レパートリーが少ないのと、カレールーが余っていたのと、「まあカレーならだれも文句を言わないだろう」という考えからだ。
レインがカレーを作り始めたことを察したネイとネモは、小麦粉でパンやナンを作った。
出力調整可能なロンの火炎能力がめちゃくちゃ役立った。
トッシュ達14人は林間学校気分で、庭でカレーを食べて盛り上がった。
食べ終わったら真っ暗になる前に、非戦闘員は就寝だ。ドルゴのように夜目がきくやつはさっそく見張り。
「あー。みんな、さっさと家に入れ。ステータス編集して家を強化するから出てくるなよ。ちゃんと窓を閉じろよ」
そう言い、トッシュはみんなを家に入れたあと、家の防御力を限界値まで上げた。
それから、トッシュは館に背中を向け……。
ひとりで境界エリアへ向かって走りだす。
彼には、早期決着をしなければならない切実な理由があった!
真っ暗なファンタジーエリアと違って、日本エリアは電気の灯りが街を覆い、空を照らしているため目立つ。だから夜でもトッシュが迷うことはない。
トッシュは靴を脱ぎ捨てる、そして、オーロラのように明るい空の下を目指して加速する。
「脚力特化。身体能力20倍ッ!」
新幹線より速く走ると、すぐに敵集団が見えた。
非合法が可能なファンタジーエリアで武装の準備をしているようだ。
何かがキラキラッと光った気がした。遠距離攻撃があったのかもしれないが、それらすべて、トッシュの急接近に対応できなかった。
蹴り殺すことも可能だったが、さすがに自分たちが買い物の時に通るかもしれないあたりにミンチ肉を巻き散らかすわけにもいかないので、トッシュは集団前方で休廷し。
100人くらい人影がある。なんとなく5グループに分かれているようだ。これから作戦行動のためにばらける予定だったのだろう。
戦闘指揮を執る金星親子は20時からの作戦行動開始と、22時からの攻撃開始を計画していた。
この期に及んで平和ボケかつ価値観のアップデートができていない親子は、「電気がないから日が暮れたら夜と判断する」異世界の価値観を知らなかった。
早めの作戦行動開始を提案した異世界人もいたが、純粋日本人至上主義の金星親子は助言を一切聞かなかった。『アメリカ軍だって深夜に特殊作戦を開始するだろ』というニュースか映画で見たうろおぼえの知識で作戦開始時刻を決めていた。
だから敵集団は一部の異世界人を除き、トッシュの襲撃を予期していなかった。
これにより、トッシュの先制攻撃が決まる。
「トッシュ・アレイ、参上! お前ら、全員、ぶちのめす! 戦闘の意志がないものは地面に伏せておけ!」
トッシュは拡張した声量で叫んだ。
別に正々堂々と宣戦布告をしたわけではない。
経験則で、こうしたほうがいいと判断しただけだ。
無言で奇襲を仕掛けると、敵はさらなる奇襲を警戒する。
だが、逆に戦闘開始を告げると、敵は勝手に「奇襲攻撃はない。正面からの戦闘だ」と思いこんでくれる傾向が強い……気がする。
敵が戦術を駆使し始めれば、トッシュは不利になる。トッシュは自分が馬鹿だという自覚がある。接近すれば勝ち確というスキルを活かして、ごり押しする。
トッシュの行動が早く、参上宣言から攻撃開始までの間隔が短いため、実際には奇襲になった。
反応できた敵は少ない。最初に自爆ドローンで先制攻撃しようとしていたらしく、大半の者が機材の準備をしていた。
攻撃をあとまわしにて、敵陣中央に突入したトッシュは全神経を周囲の観測に費やす。
「強い気配、あいつとあいつ。……よし! 見つけた!」
A級冒険者にして飛行能力者のドリーを発見した。館の防衛を考えた時、彼が最大の脅威だった。
トッシュはドリーに急接近。彼から近接戦闘の評判は聞かないが、さすがA級冒険者なだけあって反応は早かった。トッシュに手のひらを向け、ドライヤーを100倍にしたような突風を送ってきた。
しかし、その攻撃よりトッシュの方がはるかに速い。とっくに背後に回り込んでいたトッシュはドリーに触れ、視力をゼロにした。
基本的にトッシュの能力は、放置しておくと24時間くらいで効力が切れる。複数のステータスを変えたり、相手が何かしらの抵抗力を持っていると、早めに効力が切れる。
だから、奪うのは視力に限定した。相手が何かしらの能力でステータスを戻そうとしても、すぐには回復しないはずだ。
運のいいことに、先ほどの突風で、敵が何人か巻き込まれて吹っ飛んでいった。
さらにドリーが自衛のために全方位に向けて風を起こした。おかげで、ドリーを助けようとする敵すら、接近できなくなる。
トッシュはドリーの背後に立ったまま、突風をしのぐ。相手が聴覚や嗅覚で周囲を認識して飛行可能な可能性を考慮し、腕を背後にねじり上げて肩やひじを破壊。
ドリーを中心にした突風が消えた。
しかし油断しない。蹴りで両膝の骨を砕く。容赦はしない。
敵にはA級認定された回復能力者がいるのだから、まだ足りない。これくらいだと余裕で復活してくる。背中を殴りつけた。心臓や肺は破裂し背骨は砕けただろう。ドリーの体から力が抜け、泥人形のように地面に垂直に落ちようとする。
その首を両腕で掴んでひねって骨を折る。
最後に腰を蹴り飛ばし、接近しつつあった敵にぶつけた。数人まき添えにして戦闘不能にできただろう。
これだけやれば優秀な回復術士がいても、すぐに復活することはできない。
さらに、回復術士の能力限界を早めるために重傷者を増やしていけば完璧だ。
トッシュは周囲を観察。
逃げていく敵を標的に定める。逃げる奴は、遠距離攻撃か支援か回復担当だ。3~5メートルの距離を保とうとするやつが「自分の能力に自信がある近接戦闘タイプ」だ。そいつらはいったん放置。まずは面倒な奴から始末する。
チリン……。
小さな鈴の音が聞こえた。
その瞬間、トッシュは思考せず反射で、自分の聴覚を消した。音を条件にした何かしらの能力だ。
前触れもなく目の前に和装の男が現れた。超高速ではない。瞬間移動か、トッシュの認識をずらした。
男は雨が降っていないのに傘をさしている。左手に短い紐を持ち、その先に鈴がぶら下がっている。
嫌な予感しかしない。
傘が邪魔して相手の顔は見えないが、トッシュは、そいつが戦闘ミッションの解決件数業界トップレベルのA級冒険者の円城寺だと想定した。断定した。
自ら視覚も閉じ、先ほどのドリーの突風攻撃で巻き起こっていた土煙の中に向かって、全力で跳躍した。
経験からくる直観で、回避を選択したのだ。
鈴の音を聞くこと、傘を見ること、そして、相手から見られること、この3つが相手のスキル効果を引きだすトリガーに違いない。
きっと日本の科学技術で研究すれば、スキル発動時の前触れとして、原子か分子か電子か素粒子か、何かがスキルの使い手から放たれている。
それが何かは分からないが、スキルで五感を強化していたトッシュはそれを無自覚のまま感じ取り、いったん姿を隠して回避するしかないと判断した。
砂煙の中で荒れ地を滑って地面に溝を掘り、態勢を立て直してから視覚を復活させる。
砂煙の向こうで何か巨大な影が動いた。
巨人だ。A級冒険者ピーグの能力だ。
「狙いどおり! お前ら、日本に慣れすぎて、お行儀のいい戦いしかしてこなかっただろ!」
トッシュは歓喜で叫んだ。
高速移動で砂煙から出て巨人の足元に移動。巨大なかかとに腕を突き刺して体重を1キロに変えて持ち上げ、相手のスキルを使用不可にしてサイズを固定。
ドローンを用意していた集団目がけて振り下ろす。
巨体が地面に落ちる直前に腕を引き抜く。
巨体が荒れ地に大きな人形のあとを作った。すべてのドローンを破壊し、ついでに敵対能力者も数十人は巻き添えにしたはずだ。
体重1キロのままだったから、死者は出ていないだろうし、ミンチ肉も飛び散っていないはずだ。
この巨人攻撃の間、ライフルで撃たれたし、火炎や雷が飛んできたが、防御力マックスの服が防ぎ、野球ボールをぶつけられた程度までダメージを減衰していた。
「奇襲成功! 3割は削った! おら、日人、どこだ! てめえの逆恨みだろ! 戦闘用義体の性能を見せに来いよ!」
トッシュは敵を挑発した。
返事の代わりに、遠距離攻撃が雨あられと降ってきた。




