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71話 トッシュは籠城作戦をしていたらお嫁さんと新婚エッチできないことに気づく

 作戦が決まった後、トッシュはシルと遊んだ。他のあらゆる作業より優先した。

 トッシュ自身は明確な理由を認識していないが、シルを厄介ごとに巻き込んでしまった罪悪感からの罪滅ぼしかもしれない。


 何して遊んでいるのかというと、相撲だ。

 館の裏には自作の土俵まである。

 トッシュ達は娯楽がない荒れ地のど真ん中に暮らしているし、もともと体を動かすのが大好きな異世界人なので、相撲は大好きだ。


 ふたりはがっぷりよっつになった。お互いに相手の腰のあたりを掴んで、土俵中央で押しあう。力は拮抗する。


 体格差があり上から押さえつけるトッシュと、下から土俵を踏みしめて踏ん張るシル。二人の体内で全身の筋肉がみちみちと絞られていく。


「くっ。やるな、シル! また、パワーが上がったな……! ぶつかった瞬間、まるで硬い大地に初めてクワを振り下ろしたかのような衝撃だったぜ。そして、俺の腰を吊り上げようとするパワー。深く突き刺したスコップで土を掘り上げるかのような重さ!」


「トッシュこそ凄いパワー! 横に広がる根っこみたいな安定感だけじゃなく、縦に深く伸びる根っこみたいに、しっかり土を踏む芯みたいな力がある! 簡単には抜けなさそう!」


 家庭菜園ばかりしているせいで、微妙にふたりの発言が、そっちに引っ張られてる。


「それはそうと、ごめんな。変なことに巻き込んで。草花を愛でるミツバチのように楽しく暮らすつもりだったんだが……。抜いた雑草にこびりつく土のような過去が俺をさいなむんだ」


「気にしてないよ。指と爪の間に入った土は一回洗っただけじゃ取れないけど、何度もごしごし洗えば綺麗になるよ……」


 ふたりは土俵中央で押しあう。一歩も動かない。


「大地の栄養分を吸って大きく育つ前の小さな雑草を優先して抜くように、お前のことは優先して護るから」


「レインじゃなくて? ちょうちょが卵を産んでいった葉物のように、レインから目を離さず護るんじゃないの?」


「お前よりレインを優先したら、逆に俺が怒られる。卵が孵化して幼虫が葉っぱを食ったとしても、茎や根っこは生き残る……! 野菜は実る! もちろん、野菜を食べる虫には容赦しない!」


「お嫁さんを優先しないなんて、変なの。いっぱい芽が出たら間引くくらい、変だと思う」


「なー。そう思うよな。日本って、自分のお嫁さんより、他人の子供を優先して護るほうが美徳って価値観なんだぜ。除草剤が雑草は枯らすけど、他の樹木や花には影響がないくらい、意味わからん」


 シルのクマパワーはマジですごい。急激に成長しており、すでに5倍強化トッシュでぎりぎりの勝負だ。おまけに、相撲ばかり取っているせいで、つたないとはいえ技術も身につけつつある。


 トッシュは試しに力を抜いて、シルの突進力をすかそうとした。だが、うまくいかない。シルはちゃんと重心を後方に保ち、姿勢を維持した。そのうえで、トッシュの隙を突くように腕で押してくる。


「ちいっ! これもきかないか!」


「甘いよトッシュ! 液肥くらい甘い!」


「液肥を飲んじゃったの?! ダメでしょ!」


 動揺したトッシュの隙を見逃さず、シルが前に出る。トッシュは姿勢を崩し、慌てて足を動かして地面を蹴って、シルの突進の勢いを殺す。


 トッシュは『これだけパワーとテクニックがあれば、捕まっても余裕で逃げ切れるな』とちょっと安堵していた。


 トッシュは逆にシルのを体を自分の方に引っ張る。シルがバランスを崩して前のめりになる。しかし、シルは逆、あえて前進してきた。小柄な体を活かしてトッシュの下腹部に頭部を押しつけるようにして、低く、低く潜り込んでくる。

 こうなってくると、今度は逆にトッシュがシルの頭上を越えて前方に転がってしまうかもしれない。トッシュは体勢を立て直すことにした。


 水で薄めるタイプの液体肥料が、野菜にまくか草花にまくかによって薄める比率が変わるかのように、ふたりの相撲はくるくると形勢が変わっていく。


 トッシュは『シルにデバフをかけず、俺にバフをかけるだけだと、数年後、いや数か月後には負けるな……』と感心した。


 だが今はまだトッシュの方が強い。

 パワーが互角でも、体格の差は、絶対に覆せない。

 トッシュは大人げなく全身のフルパワーでシルを投げ飛ば――。


 ギチイイッ!


「ぐわああああああああああああああっ!」


 勝利を確信したはずのトッシュは、突然股間に走った激痛により、ワニのような悲鳴を上げた。


 いつものでこぼこ服の腰のあたりを持ち上げられて、股間部分の布地がち*こを挟んだのだ。


「油断したね、トッシュ!」


「ば、馬鹿なッ! その口ぶり、まさか、故意?! 狙ったのか?!」


「トッシュが夜中に裸でルクティと相撲の練習をしているとき、ルクティの膝がおちんちんをつぶすと、トッシュはいつも苦しんでた! おちんちんがトッシュの弱点! だから、今の取り組みの時、トッシュのおちんちんが中央から右に流れるように誘導した。挟める位置に来た!」


「な、なにいっ……!」


 ガシッ!


 トッシュは膝を伸ばして、なんとか股間の「挟まり」を解消しようとするが、その隙を突いて、無邪気な幼女が股間をがっしり掴む。

 もう、玉とちんをがっしり掴んでる。

 クマパワーの握力だ。トッシュは一瞬、意識が飛んだ。


「えいっ!」


 ドスンっ!


 トッシュは初めてシルに投げ飛ばされ、敗北した。


「え、あれ。待って。ええっ?!」


 意識を取り戻したトッシュは、土俵に背をつき、空を見上げていた。


「やった! 勝った! シルの勝ち!」


「おちんちん掴むのは反則だろ。ふふっ。……あははははっ!」


 負けた悔しさより、シルの成長がうれしくて、トッシュは倒れたまま笑いだす。ち*こを挟むための作戦を練っていたのかと思うと、ますます笑えてくる。


 トッシュのとなりにシルがしゃがむ。


「シル凄い?」


「ああ。凄いよ。あっという間に土を掘り返したカルチベーターくらい凄いよ」


「えへへ。やったー! トッシュのおち*ち*、虐めてごめんね」


 なでなでしてこようとしたから、トッシュはシルの手首をつかんでやめさせた。


 それからトッシュは館に戻り、気づいた。


 仲間たちがあちこち歩き回ってる。それはいい。わかる。

 夜の警戒担当者向けに夜食を作る者、武器の手入れをする者、館の間取りを確かめる者……。それはいい。


 しかし、「夜間に周囲を警戒するための位置」を選んでいるであろう者が、トッシュとレインの寝室に入っていった。


 そしてトッシュは、気づいた。


(え、あれ。待って。今夜、レインとエッチできなくね?)


 トッシュは膝から崩れ落ち、震えだす。


「うっ、うあっ! うああああっ!」


 大陸横断レースで馬と親友を失った男のように、顔を崩して涙をこぼして嗚咽する。


「うああああっ! うああああああああっ! あっ! うああああああああああああああああっ!」


 通りかかったドルゴが「うるせえぞ」と背中を蹴飛ばしてきたことにすら気づかず、トッシュは絶望に打ちひしがれ続けた。

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