70話 レインのチートスキルを主軸にして迎撃作戦をたてる
想定される敵の作戦は、こうだ。
先ず大前提として、敵は夜に攻撃してくる。
闇に乗じての襲撃はセオリーだし、トッシュの館は電気がないから夜になれば敵が有利になる。
影に移動可能な妖刀を使うネイの戦力をそぐためだけでも、夜を選ぶ意味がある。
さらに敵は遠距離攻撃を主体にするはずだ。
触れれば確殺のトッシュと、それに匹敵する近接戦闘特化のネイがいるのだから、敵は間違いなく接近を嫌う。
トッシュは石を投擲すれば中距離も遠距離も戦えるが、敵は日本エリアを背後にして戦うかもしれない。もしトッシュが誤射して日本人を殺せば自衛隊や警察が動く。
日本は、異世界の異能力者による横暴を防ぐため、異能力犯罪に対しては断固たる措置をとる意思を示し続けている。政治的問題を解決したうえで、ファンタジーエリアに進軍する可能性はある。
それにそもそもトッシュ自身が、無関係な日本に被害を与えるつもりはないので、石を投げまくる作戦は使えない。
トッシュ陣営で最も強い遠距離攻撃スキルは、ロンの火炎放射。しかし、遠距離とは言っても、射程はせいぜい20メートルだ。それくらいなら、トッシュやネイが超高速で踏み込んで攻撃する方が、遠くへ攻撃が可能だ。
だから敵は遠距離と空から攻撃してくるはずだ。
最終的に包囲して、兵糧攻めにするだろう。館には14人が一週間暮らす食糧しかない。敵は日本エリアからいくらでも補給可能だ。
トッシュのスキルで空腹を消すことは可能だが、あくまでもそれはおなかが減らないだけで、肉体は普通に疲弊していき、いずれ餓死する。
これに対する、トッシュ陣営の作戦は、こう。
鍵になるのはレインのスキルだ。
レインのスキル『連続殺傷ボーナス』は、銃で敵を連続して倒せばボーナス攻撃が得られるというものだ。
例えば、3連続で敵を倒せば無人偵察機を召喚して飛ばせるようになり、5連続キルで上空から細密誘導爆弾を落とすことができる。
他にも武器弾薬や戦車を出現させたり、巡航ミサイルを撃ち込んだりもできる。
今回の戦闘で必須ともいえるのが、レインのスキルで呼びだす航空戦力だ。
近代兵器は敵の飛行能力者よりも遥か上空に行けるし、偵察系のスキルより遙かに広範囲の詳細な情報を収集できるので、一気に有利になる。
さすがに、五大ギルドでも自衛隊や在日米軍の航空兵器を持ち出せるはずがない。レインのスキルには1分間という制約はあるが、ガンシップを召喚して上空から105mm榴弾砲を撃ちまくれば、勝利確定だ。
だが、ここで問題になるが、その使用条件となる連続殺傷だ。
レインは日本生まれ日本育ちの純粋な日本人だから、敵とはいえ人間を殺すことはできない。技能ではなく、性格や良心や価値観により他人の命を奪うことが不可能だ。
だからレインは、モンスターを倒したときにしかスキルを使えない。
また、仮にスキル使用条件を満たしても、レインは人間を撃ち殺せない。それでも、上空から敵の位置を把握したり威嚇射撃したりするだけで、十分な脅威になるはずだ。
今回、異能力者の人間が敵に回ったため、レインはスキルを使えない。だが、相手にはA級冒険者のモンスターテイマーがいる。
そのため、トッシュやネイがモンスターにダメージを負わせて移動不能にして、レインが館の屋根からスナイパーライフルで狙撃してとどめを刺して、連続殺傷ボーナスを稼ぐ戦術を使いたい。
仮にモンスターテイマーが出てこないのなら、レインのスキルによる航空支援は期待できなくなるが、代わりに敵陣営のA級冒険者を一人無効化することになる。
敵に『ブラックシティ』がいる以上、当然、敵陣営はレインのスキルを知っている。さすがに馬鹿の金星親子でも、地球で最強クラスの対地攻撃能力を誇る航空戦力との戦いは避けるはずだ。
レインの使いどころはかけひきだ。臨機応援に戦うしかない。
敵が人的被害を抑えるためにモンスターを出してくるか、レインを警戒して人間だけで攻めてくるか、どちらかの状況に合わせて対処する。
トッシュ陣営は、レインのスキルを活かすために、大きく次のようにチームに分かれて行動する。
トッシュ、ネイ:遊撃隊。自由に行動し、接近してくる敵を撃退する。敵が境界エリアで、ファンタジーエリアに出たり入ったりして遠距離攻撃を繰り返すと想定されるから、それを妨害する。飛行能力者と遠距離攻撃能力者を優先して倒す。
レイン:館の屋根から敵を狙撃する。相手がモンスターなら殺し、(可能なら)人間なら脚などを攻撃して足止めしたり、けん制したりする。
ドルゴ、ロン:レインの護衛。一緒に屋根の上に出て、敵の遠距離攻撃からレインや館を護る。
ルクティ、ネモ、シュウヤ、栗山姫子、ケイト:戦闘力はないため待機。基本的に三階の窓から周囲を目視確認して、敵の接近を警戒する。他に、食事の用意や、けが人が出た時の手当てや、館が壊れた時の修理などを担当する。
シル、斉藤一、堂本健蔵、サンダラ:戦闘経験豊富なサンダラが指揮する。全員、敵スキル使いと1対1ならそう簡単には負けない強さがあるが、敵の方が圧倒的に数が多いので、無理せず予備戦力として後方に待機し、館の周囲を警戒する。
敵が館に侵入する場合は、近接戦闘を担当する。シルは子供だけど「子供は安全な場所にいろ」という日本的な価値観より、「身の危険がせまったら、子供も戦え」という異世界的な価値観により、非常時の戦闘要員としてカウントされる。
もちろん、非常事態を超えて「もう駄目だ。終わりだ」って状況になったら、全員でシルとルクティだけは逃がす。
こんな感じでチーム分けされて、作戦が共有された。
幸いなことに、どのチームにも一人は夜目がきくものがいるため、夜間の対応も可能だ。スキルで視力を強化できるトッシュ、堂本はもちろんのこと、夜間のゾンビ経験が長いルクティを筆頭に、異世界人はもともと日本人より夜目がきく。
さらに、ドルゴはドラゴン化時に「熱」を認識できるから、夜中の荒野を歩く人間は、夜空の星のように目立って見える。




