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7話 ロリエルフが「はい、あーん……。なんちゃって。ぱくっ」を繰りだす

 トッシュとシルは出会った翌日の昼には、うちとけあっていた。

 ぶっちゃけ、精神年齢が近いから仲良しになるのは早い。


 シルは居候の身だから最初は色々と遠慮していたのだが、トッシュがあまりにもからかってくるので、遠慮していたら拙いと早々に悟ったのだろう。


 言われるがままコンビニのトイレでウォシュレットを使ってしまったのが決定打だ。

 シルはもう、トッシュのことを、体が大きな悪がきくらいに思っている。


 ふたりはアパートに戻ってきて、キッチンのテーブルに買い物袋を置く。


「ささ、この部屋の椅子は水が噴き出さないので安心してお座りください」


「……トッシュは大人げないと思う。していい悪戯と、したらいけない悪戯があると思うの」


 シルがぷんと頬を膨らますから、トッシュは深々と頭を下げる。


「ごめんなさい……」


「別に怒ってない……。ただ、エルフの村に居た男の子と似たノリなのは、どうかと思う」


「申し訳ない……。お詫びの印に、この、甘い氷の塊を献上致します」


 トッシュは頭を下げたまま、両手で恭しくコンビニスイーツを差しだす。


「……? これなあに? さっきコンビニで買ったやつ?」


「さようでございます。フローズンデザート呼ばれる、冷たい飲み物でございます」


「飲み物? 冷たいし、固いし、飲めないよ?」


「レンチンをするのでございます」


「レンチン?」


「この箱の中に入れて、マイクロウェーブを照射することにより、分子の振動で物体を温めるのでございます」


「……? ……精霊魔術?」


「精霊ではございません。科学の力により、火を使わずに物を温めるのです」


「……また、シルをからかおうとしている?」


「滅相もございません! 反省しておりますからこそ、ちょっとお高めのコンビニスイーツを購入したのでございます」


 トッシュはもう、シルのスカートに頭を突っこむ気かってくらい、頭を低くした。

 シルはじと目でトッシュの後頭部を見つめる。

 

「……怪しい」


「怪しくありません。ささ、どうぞ、フローズンデザートをこの箱の中に入れてください。ここを引っ張ると開きます」


「こう?」


「そうでございます! 素晴らしい! さすがシル様! 早くも日本の文明になれてきました! 見事なお手前!」


「え、えへへ……。わたし、凄い?」


「凄い! シルちゃん、凄い! 次に、このスイッチを押してください」


「こ、こう? ピッっていったよ?」


「素晴らしい! パーフェクトな押し方です! よっ! 天才幼女! 早くも地球文明に適応し始めている!」


「えへへえ」


「ささ、次は、こちらのダイアルを回して、1分30秒にセットしてください」


「む、むずかしい。日本の文字が分からないよお……」


「もう少しです。これは1分、こちらが、10秒、20秒……。もう少しです!」


「え、えいっ!」


「素晴らしい! そう、そこが1分30秒です! さあ、スタートボタンを押してください」


「なんかトッシュの喋り方、ずっと変だよ? やっぱりシルを騙そうとしてる?」


「騙していません! 信じてください! すぐに美味しいデザートになります! ささっ、スタートを!」


「えいっ! あっ! なんか、ブーンって言いだした! 凄い! なにこれ。なんかブーンって言ってる!」


「これが電子レンジの機能です。電子レンジ(でんしレンジ、英: microwave oven)とは、電磁波(電波)により、水分を含んだ食品などを発熱させる調理機器である」


 トッシュはスマホでWikipediaを表示し、電子レンジのページを読んだ。


「かっこ?! かっこってなに?! ねえ、トッシュ、何を見てるの?!」


「えっと、とにかく凄いから、 このカウントダウンが終わったら凄いから!」


「文字、わかんない……」


「おいおい教えていくから、残り10秒」


 アッシュはシルの眼前で指を折りながら、カウントダウンをする。


「……3、2、1、0」


 ピーッ!


「わ、変な音した。大丈夫なの?」


「中からさっきのフローズンデザートをとりだしてみて」


「う、うん。あれ。冷たいままだけど、まんなかが溶けてる?」


「ささ、こちらの、コンビニで貰ったプラスチックのスプーンでお召し上がりください」


「う、うん……。わあっ! 甘い! 美味しい!」


「気に入って頂けたようで何より。赤い部分がいちごで、白い部分がバニラ。同時にすくってみてください! ああっ、なんとお上手なスプーンさばき! 凄い! 素晴らしい! 温め方も完璧です! 初めてレンチンしたとは思えないレンチンさばき!」


「えー。えへへ……。褒めすぎだよ……。トッシュにもひとくち上げる」


「ありがたき幸せ!」


「はい、あーん……。なんちゃって。ぱくっ」


「なっ?! 初めてスプーンを使ったのにあーんフェイントを使いこなすなんて!」


「スプーンはお家にあったよ」


「あ、はい。そうですか」


 すん……とトッシュは一気に普段のテンションに戻った。


 まあ、トッシュ達のいたナーロッパは中世ファンタジーというより近世ファンタジーっぽい世界だから、ナイフもフォークも存在していた。


 それからトッシュはシルがフローズンデザートを食べ終えるのを待った。


 そして、ロリエルフの満面の笑みを見ながら唐突に切りだす。


「よし。家を買おう」

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