67話 主だった敵の能力を確認しておく
基本的に冒険者ギルドは「能力を公表したうえで、仕事を受け付ける」ので、所属メンバーの能力は知れ渡っている。
世界が統合する前では信じられないことだが、日本的価値観により「所属する人員の能力を公表する」ことが当たり前になったのだ。
日本企業的な価値観でいうところの「**資格所持者在籍」みたいなもんだ。すごい能力を持つものがいることを宣伝する方が、仕事の依頼が多い。
メイド喫茶のキャスト一覧やプロレス団体の所属選手一覧のように、能力者の顔写真とスキルや実績がセットで公開されているところも多い。
ただ、トッシュはブラックシティの公式サイトにあるプロフィール上ではステータス編集スキルを「バフ・デバフ能力」にしている。本当の能力を詳細には公表していない。公式サイトの作成担当者から能力を聞かれた時に「弱点になるようなことは書かなくていいですよ」みたいなことを言われていたから、「触れる必要がある」ことも非公表だ。トッシュはあちこちで暴れているため、普通に同業者には知れ渡っているが、公式プロフィールでは公表していない。
同じようにネイもスキル項目に「妖刀を複数使用する」と記載されているが、それは彼女のスキルではない。
先代のギルマスが「武器に能力を付与する」スキルを持っており、その人に妖刀を作ってもらっただけだ。ネイ自身のスキルは非公表だ。ギルド創設メンバーやトッシュくらいしか彼女のスキルを知らない。
そんな感じで、敵対ギルドの能力者も真の力を隠している可能性はある。
とはいえ、公式サイトに書いてあるプロフィールはチェックしても、損はないだろう。実在の能力とかけ離れたことが書いてあれば、業務中に客とトラブルになることもあるため、そこそこ正しい情報が書かれているはずだ。
5大ギルドに所属するA級能力者は……。
ギルド『レッドリュバン』の、円城寺宗像20歳の男。スキル非公表ながら、戦闘ミッションの解決件数は業界トップレベル。いわゆる「彼の能力を見たものはみんな死ぬ」というやつなので、誰も彼の能力を知らない。
同じく『レッドリュバン』の、座間亜美21歳の女。固有スキルはないが、いわゆる『聖女』。蘇生に近いレベルの回復魔法や、支援魔法を使う。
ギルド『ブルーワイバーン』の、ドリー55歳の男。飛行能力者。おそらく風操作か何か、他の能力で飛行している。こいつだけはトッシュチームに有効な対処方法がない。ドルゴも飛べるが『頑張れば空中移動できる』程度なので、『高速飛行が可能で、機動性が高く攻撃手段もある』ドリーとは戦えない。
ギルド『グリーンジャイアント』の、ピーグ・ポー30歳男。巨大化能力。弱点がなく、力任せで来られたら非常に厄介なスキル。だが、トッシュが接近すれば確殺可能。
ギルド『ホワイトロックス』の、クロー・ザ・キルレミー25歳男。異世界最高峰のモンスターテイマー。ただし、レインのスキルと『良い意味で』非常に相性が悪い。レインのスキルが公表されている以上、クローが前線に出てくる可能性は低いし、逆に、出てきてくれた方がありがたい。
以上5人が、各ギルドの公式サイトで確認できる、A級冒険者だ。
トッシュもネイも、ドリー、ピーグ、クローのようなベテランとは面識があり、円城寺や座間のように最近頭角を現してきた者とは面識がない。
というわけで、「相手に触ったら勝ち確定のトッシュ」と「そのトッシュと近接戦闘で互角の剣士ネイ」にとって最大の天敵は、空中から一方的に攻撃できるドリーだ。彼はハイジャックされた旅客機に空中で乗り込んで事件を解決させたことで知名度が上がった男だ。つまり、少なくとも旅客機に追いつける速度で飛べる。非常に厄介だ。
要警戒は能力不明の円城寺。
残り3人はまあなんとかなる。
だから、仮に今すぐ敵が駐車場に集結して、全A級がトッシュとネイに襲い掛かってきたとしても、ほぼ確実になんとかなる。だから二人は割と余裕だ。
円城寺が近接特化で、トッシュとネイを相手にしても「戦いを長引かせられる」能力や確殺スキルを持っていた場合が、最もしんどい。
「そういえば、日人が戦闘用義体になっていた。体だけはA級能力者と戦闘可能レベルらしい。音や気配が全くなかった。近接戦闘タイプだろう。厄介な相手になるかもしれないぞ」
「うーわ。もしマジで近接戦闘特化の義体にしたなら、あからさまに俺たちを意識してて草」
「耐スライム粘液特化の義体にすれば、次から溶かされずに済むのにな」
と、珍しくネイが冗談を言った。
ネイ派社会人になってから喋り方や立ち居振る舞いに気を使っているが、もともとゴリゴリの異世界人なので、割とラフな言動もできる。
周りに他人もいないし、トッシュも普段よりちょっとだけ、ネイに対してなれなれしく話す。
「マジでそれ。ま、どんな性能の義体か知らないけど、頭が素人だから、大したことないだろ」
「それもそうだな。問題になるとしたら、リオンのように、B級以下の評価だが条件次第ではA級になる能力者だ」
「リオンなー。うっかりしてた。あいつのせいで、《《ネイ》》か俺が無効化されるのか。意外と面倒だな。つうか、あいつ来なかったの許さん。出てきたらボコってパンツ脱がして荒野に放置してやる。一緒に、スマホで撮って屈辱を与えようぜ」
「ふふっ。いいな。さて。そろそろドルゴたちは館に着いただろう。我々も行こう」
「おう」
トッシュは立ち去る前に、明らかに同業者らしき車を破壊しておきたかったが、法治国家日本なので、あきらめた。
トッシュとネイがホームセンターを出ると、いかにもな車も動きだした。
距離をあけてトロトロ速度でついてきて、道路に渋滞を作り、一般人にクラクションを鳴らされまくっている。
トッシュ達はファンタジーエリアに入った。
日本の法律が適用されず、法律の適用がずさんな異世界なので、襲撃されるかなと身構えたが、何もなかった。
車は日本エリアにとどまったままだ。
「あれ。俺が標的なら今がチャンスなのに。俺たちを分断して俺だけボコればいいのに」
「私が辞める時、金星親子に喧嘩を売っておいたからな。私も標的だよ。狙われるのはお前だけではない」
「あー……。裏切者には死を、みたいな発想、日本人にもあるんだ」
ふたりは雑談しながら屋敷に向かった。
「そういや、一階を貸す件だけど問題が……」
「む。どんな問題だ?」
「もし俺たちが薬草を育てたとして、ギルドに『薬草収集』の依頼が来たら、秒で終わるっしょ」
くだらないことだった。