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65話 いつものホムセンに食糧を買いに行く

 ルクティとシルが庭で家庭菜園の世話をしていたので、トッシュは二人に声をかける。


「今からホムセンに行くけど、どうする? 急だけど、しばらく10人がここで暮らすことになったから、食糧を大量に買いこむことになった」


「行く! 行く! 行く~ッ! 一緒に行きたい~ッ! トッシュ! トッシュ!」


 シルが元気に返事をした。夜中にレインが発した大声の物まねだが、幸い、トッシュもルクティも気づかなかった。


「トッシュ様。私も行きます。準備をするので少々、お待ちください」


 ルクティが井戸水で手を洗うと、お財布の準備のために館に戻る。


 シルは館の横に置いてある荷車を玄関前に移動させた。

 この荷車は少し前に中古で買った。これをトッシュがひくことにより、自動車よりも速く移動可能で荷物を大量に運べるようになっている。揺れがひどいし雨が降ったらどうにもならないという欠点があるが、意外となんとかなってる。


 ルクティの準備を待つ間、トッシュは気になっていることを確かめることにした。


 右手を頭上に掲げ、人差し指を立てる。


「ねえ、シルを護っている精霊っている? これからちょっと大規模な戦闘になるかもしれないんだけど」


「なんのことー?」


 シルが返事をするが、トッシュが話しかけた相手は違う。

 彼が認識できていない『何者か』だ。 


「人間の言葉を理解できるくらいの上位精霊がいるでしょ? 親馬鹿ルードが来てるか見てる? ねえ、いたら返事ちょうだい。万が一の時に、シルの護衛を頼みたい。ついでに、シルの世話をするメイドのルクティも護って」


 トッシュは指先に、ちょっとした圧力を感じた。ちくわに指を突っ込んだかのような圧だ。間違いなく、そこに何かがいる。


「ん、ありがと。なんかの精霊か。俺の方で解決するつもりだけど、万が一の時は頼むから」


「どういたしまして?」


 シルはよくわかっていないから「また、トッシュがおかしくなった」と思った。

 もう、シル的に『自分がいちばんの常識人で、トッシュもレインもルクティもたまに頭がおかしくなる』という認識だ。


「シルの安全を確保できたし、まあ、完全包囲されなければ、どうとでもなりそうだな」


 シルの安全という最大の懸念事項は解決した。


 事態の深刻さを理解していないトッシュは、まだ余裕だった。

 人生最大の危機がすでに始まっている自覚はまったくなかった。


 その時、生暖かい風が吹いた。

 なんとなく風上の方を見ると、南の空に黒い雲が出ていた。


「そういやネイさんが、天気が崩れそうって言っていたな。荷車には屋根がないから、雨になったら大変だな」


 トッシュはシルに「シルのカッパ、持ってきて」と声をかけた。


 自分は濡れてもいいし、ルクティが濡れたらエロいから濡れてもいいしスキルで乾かしてあげればいい。


 でも、シルを雨にさらすのはかわいそうだ。


 それからトッシュは荷車にルクティとシルを載せていつものホムセン併設スーパーに向かった。手っ取り早く米と小麦を大量に買う。異世界の館らしくパン焼き釜があるからパンを焼くつもりだ。


 小麦を買い占めたとき、トッシュとルクティは不気味に笑った。


「ふへへへ。こんなに上質な白い粉を大量に買えるなんて、興奮するな」


「あはははっ。は、はい。私、イケない気分です。はあはあ」


「ふたりともどうしたのー?」


 シルは知らないが、ファンタジーエリアでは「小麦やパンの買い占め」は重罪だ。死刑にもなる。

 日本と違って冷蔵庫はないし食糧そのものが少ない。だから、一日に必要な量以上の小麦を買うことは、重罪だ。

 トッシュとルクティは、日本では合法だが異世界では違法なことをしてちょっとテンションが上がった。


 ルクティはパンの焼き方を知らないため、トッシュがググって、レシピをダウンロードした。


 それから、やはり手っ取り早いし日持ちしそうなものということで、カップ麺や餅も買う。フリーズドライの野菜も買う。シルの反応が楽しみだ。


「フフフ。この袋を持ってごらん?」


「なーに、これー。がさがさしてる。おかし?」


「フフフ……。お湯を入れるとこれが野菜になるんだよ」


「……からかってる?」


「フフフ……」


「その笑い方、やーっ!」


「フフフ……」


 これでレッドドラゴン討伐の賞金は完全に尽きた。もともと貯金もたいして残っていないから、騒動が落ち着いたら働く必要がある。

 居候する予定の者から家賃や食費を取るつもりはなった(彼らが食事をとっている場面に遭遇すれば、当然の権利として一緒に飯を食うつもりではいる)。


 金がなくても危機感はない。またどこか適当なダンジョンに入ってモンスターを狩ればいいや、くらいに思っている。

 なお、トッシュはブラックシティを追放されてから日数が経過して強制無給休暇も終わり、書類上で完全に退職しているので、ダンジョンに入るときはダンジョン管理者(だいたい自治体)にお金を払う必要がある。実はダンジョンに入るには、お金が必要で、それは経費としてギルドが払っていた。

 現代日本の駐車場みたいに、ダンジョン入り口ではトッシュの顔が記録されてAIで画像解析されて、ブラックシティに請求が行く仕組みになっている。さすがに、スマホでゲームをするトッシュでも、このあたりの仕組みは理解できていない。

 だから、ダンジョンに入るとときにお金が要ること自体を知らない。


 トッシュはダンジョンに入るための金がないから、モンスターで稼ぐ手段は使えないのだが、そのことは失念している。


 ファンタジーエリアでモンスターを狩ってもいいが、交換レートが低いという問題がある。仕方のないことだが、日本の方が物価が遥かに高い。

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