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63話 ドルゴは離反者の顔ぶれを見てちょっと嬉しくなる

 ドルゴがギルド会館を出ると、仲間たちが待っていた。

 10人そこそこ。

 これから五大ギルドとやりあうにはいかにも心もとない。

 半数が「スキルなし」で戦闘力としては期待できないが、頼もしく思えた。


 むしろ逆に、「戦う力がないのに」行動を共にしてくれることが嬉しい。


 ドルゴはそんな、非戦闘員でありながら一緒に来てくれる同期の男に向かって、照れくさいが「ありがとう」と言おうと思った。


 しかし、その同期の男は、普段と変わらぬ軽い口調で言う。


「ほら、ドルゴ、早く変身しろ。お前のデカい背中は、こういう時にあるんだろ」


 他課の同期シュウヤだ。大卒でギルドに入った25歳の生活支援課だ。社内勤務なのでスーツを着ているが髪を金髪に染めており、あまり社会人感はない。

 他課だし、トッシュ17、ドルゴ20、シュウヤ25でやや歳は離れているが、ほぼ同時期の社員が少ないときに入社したので仲良くなった。トッシュやドルゴにとって日本文化の師匠だ。

 ギルド間抗争の戦闘では何の役にも立たないであろうスキルは「触れた物から不純物を取り除く」だ。泥水や毒すら綺麗な水にできるため、日本エリアの外で冒険を支援する業務では地味に役立つ。


 シュウヤに続き、綺麗にスーツを着こなした眼鏡の、ザ・サラリーマンという感じの男が、小さく手を打ち鳴らし、周囲の意識を自身に集める。


「はいはい、女性陣のみなさん。お見苦しいものを披露するので背を向けてください。ついでに、みなさんの体で壁を作って、通行人に汚いものを見せないようにしましょう」


 戦闘支援課田山グループの斉藤一(さい・とういち)37歳だ。「さいとう・はじめ」ではなく、「さい・とういち」だ。生粋の日本人だから田山グループとして扱われることが多いが、外見と異なりトッシュやドルゴのノリに近い不真面目君だ。「がとちゅ、えろすたいる! あーっ!」と叫びながら棒状の物体で攻撃した相手を脱がすという、糞みたいなスキルを使う。

 甲冑を無力化できるので、騎士と戦う時には活躍する。

 トッシュやドルゴからは「エロ眼鏡先輩」と呼ばれている。ふたりにとってアニメの師匠にあたり、ダンガムのブルーレイボックスで布教してくる。

 入社時期の荒くれものだったトッシュやドルゴをサブカル知識で汚染して丸くした功労者でもある。

 彼曰く「手に負えない宇宙人や異世界人には、アニメを見せて、『こいつらを滅ぼすわけにはいかない』と思わせればいいんですよ」だ。


 男たちが指示をし、女性陣が背を向ける。半分の円陣を組むようにして、通行人からドルゴの下半身が見えなくなるような壁を作る。


 最後に、武器防具アイテム課の堂本どうもと健蔵(けんぞう)43歳ぎっくり腰もちが「なんで俺が、あんな馬鹿のために職を失わないといけないんだ」とブツブツと文句を言いながら、ゆっくり歩いて壁に加わり、最後に「おまけに、今度はこっちの馬鹿のために壁役か。まったく、クソガキどもが迷惑かけやぐって」と愚痴った。

 堂本は、任務に出向く前のトッシュやドルゴが装備を整えるために、なんども関わった相手だ。


会話例

 トッシュ「堂本さん。火炎耐性ポーション10個くれ!」

 堂本「直接来るな。窓口に行け」

 トッシュ「急ぎなんだよ。作ってくれよ」

 堂本「いつまでだ?」

 トッシュ「いますぐ」

 堂本「あるわけねえだろ! 最低でも三日前に言え! ぶち殺すぞ!」

 ドルゴ「トッシュざまあw 堂本さん、もちろん三日後でいいんで、俺の変身後の体で使える風のマント作ってください。矢を完全に防げるやつで」

 堂本「防具は一か月前に言え! 社内報で何度も通知してんだろ! ぶち殺すぞ!」


 だいたいこんな感じでトッシュやドルゴ達が無茶振りして堂本が切れ散らかす。


 ギルドの前に集まった、いつもと変わらぬメンツを見て、ドルゴはニヤリと笑う。


「まったく、お前ら、俺をあてにしやがって」


 ドルゴは呆れたようなことを言いながら服を脱ぐ。ドラゴンに変身すると破れるから、先に全裸になる必要があるのだ。


「あ、あの。服、持ちます」


 目を閉じたまま小声を発した小柄な女性は、栗山(くりやま)姫子(ひめこ)。28歳。生活支援課で、ドルゴより一期下の後輩に相当する。前髪で目元を隠すようなボブカットで、ぼそぼそしゃべる大人しい子だ。

 実はドルゴのことが好き。

 内気な子にしか見えないが、実は覚醒レインが足元にも及ばないほどはるかに格上のド変態。変態評価があれば余裕でA級に行くであろう猛者で、『スキルで変身したドルゴさんに、(性的な意味で)めちゃくちゃにされたい』とか思っているヤバイ人だ。もちろん社会人なので、そういうドロドロした感情は隠している。


「おう。助かるぜ」


 ドルゴは彼女の好意に気づいていない。誰にでも優しい子なのだろうという認識だ。脱いだ服をぽいぽいとほかって、姫子の頭からかぶせていく。

 上着もシャツもズボンもパンツもだ。


「がああああ!」


 ドルゴが唸ると、一瞬で四肢が太くなり、ぼこぼことうろこに覆われていき、ほどなくして全長2メートルくらいのドラゴンに変身した。

 胴体部分のみが2メートルで、四つん這いになって首と尻尾を伸ばすと4メートルほどになる。

 デッカイ馬2頭を横に並べたくらいの背中スペースがあるので、仲間たちが鞄を載せていく。


 その傍らで、姫子が畳んだドルゴの衣類を大事に抱えて(ドルゴさんの匂い……。好き)と頬を染めていた。立ち位置を微調整し、膝や腰を不自然にならない程度に曲げて、全裸ドラゴンドルゴの股間にぶら下がっている大きなものを誰にも気づかれずジーっと見つめている。(あ、あんなのが私に挿入ったら、前も後ろも壊れちゃっておむつ生活だよぉ。げへへ。ドルゴさん、私のおむつ替えてくだたいぃ。げへへ)と心の中でニヤける真正ガチのド変態だ。


 そんな姫子のド変態ぶりを知らない周囲の者たちは、彼女がドルゴの服を受け取る様子を見て、(なんでお前たち、それで付きあってないの? 早く結婚しろよ)と思っていた。

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