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55話 トッシュはレインと結婚する

「今から俺が言うことは、ひんしゅくを買うと思う。ドルゴからは『レインに言うなよ』とか『その考えはおかしい』とか『こっちの価値観をもっと学べ』とか、言われてる。でも、俺が思っている、正直なことを言う。……ぶっちゃけ俺は結婚してくれるなら誰でもいい。レインが『俺のことを恋人にしたいという意味で好き』というのにとどまらず、『結婚したい』とまで言ってくれたら、する。俺は、よく冗談だと思われるが、ネイさんに結婚してくれと言っている。結婚してくれたらラッキーくらいのつもりで、何度も結婚してくれと言ってる。もしOKしてくれたら結婚したい。それに、良縁がなかったら、シルをいい感じに育てて数年したら結婚しようとも思っている。ある程度仲がいいなら、結婚相手は誰でもいい。俺にとっての、仲間を超えた異性との関係って、そういうものなんだよ」


「はい……」


 ネイ達が待っている茶屋の近くにまで戻ってきたが、会話はまだ終わらない。


 トッシュは近くにあった、休憩用らしき大きめな椅子にレインを下ろし、隣に座る。


「俺はネイさんと結婚できたら嬉しい。あの人なら安心して背中を任せられる。レインはちょっと危なっかしいから、結婚してもしばらくは俺が『先輩』かもしれない。シルのことは娘、兼、予備みたいに思ってる。多分、シルの方も『自分が大人になるまでにいい男と会えなかったらトッシュで我慢するか』くらいのノリで、俺との結婚を望むと思う。これが、異世界人としての俺の価値観。お互いの弱点をさらして、一番弱い瞬間を共有して、最後の瞬間まで互いを思うパートナー。そういうと重いかもしれないけど、そういうのを親の紹介とかその場のノリとかで『お前に決めた』ってのが、俺達の価値観。……長くなったけど、それを分かったうえで結婚したいくらい好きになったら、そのとき、また『好き』って言ってくれ。俺は結婚するから」


「好き!」


 即答だった。真っ赤な顔でレインは叫ぶ。トッシュの肩を掴んで引き寄せ、視線を自分に固定させ、また叫ぶ。


「好きです!」


「……えっと。俺の話、聞いてた?」


 予想を超える強い返事にトッシュが軽く困惑する。


 普段のレインなら『間近で叫んだらつばが飛んで嫌われちゃうかもしれない』と思いとどまるだろうが、そんなこと気にせず大きく口を開けて叫ぶ。


「大好きです! 結婚してください!」


「え、ええ……。俺の価値観を聞いて、ドン引きすると思ってたんだけど……」


「先に返事! 先輩、今、好きって言ったら結婚するって言いました!」


 レインは顔真っ赤で湯気を噴きながら、もう自暴自棄になってんじゃないかというキマッた目で、なおも叫ぶ。はしたないが、唾がちょっと飛んでトッシュの顔にかかった。レインはそれを見た。しかし、愛の告白の方が恥ずかしいから、唾くらい気にしない。


「お、おう。結婚しよう」


「言質とった! 録音しましたからね! あとから、お金がないとか、世界が違うとか、そういうのなしですからね! 結婚したら今夜は初夜だから、赤ちゃん作るような行為をして既成事実を作るので、もう、やっぱなしとか、なしですよ! 童貞だからセッ――の仕方分からないとかなしですよ! 異世界人だからという言い訳、ダメ! 私のこと、好き好き愛しているって言いながら、何度もキスしていっぱいセッ――するんです!」


 一気に叫んだレインが、はあはあと息を荒く、肩を上下させる。

 かつてないほど目がガンギマリで、瞳がグルングルンだ。状態異常で精神がおかしくなっているんじゃないかって、程だ。


 通行人がみんな立ち止まって見てくる。離れた位置の茶屋からネイとシルも顔を出して、トッシュ達に遠くから好機の視線を送ってくる。


「先輩の価値観がズレていることくらい、ドルゴさんから聞いて知ってます! ドルゴさんから風俗店に誘われても、エッチなことはお嫁さんとするって言って断ってることも知ってます。でも、メイド喫茶には行って鼻の下を伸ばしたことも知ってます! 昔は女の子のパンツに興味がなかったけど、最近ちょっとずつパンツに興味を持っているのも知ってます! ネイさんの胸をちらちら見ていることも知ってます! 先輩のことはいっぱい知ってます! 新人の私にずっと優しかったこと、よく知ってます! 研修の冒険で、寝ずに見張りをしてくれてたの知ってます。私の初めてのダンジョンソロ攻略のときに、先輩が隠れて後ろから見守ってくれていたこと知ってます! 日人課長が私にセクハラしようとしたとき、さりげなく間に入ってくれたことも気づいてます! バレンタインで本命チョコをあげたのに気づかずに一口で食べちゃった朴念仁っぷりも知ってます!」


 間近から迫られてたじろいでいたトッシュは、なんとかここで一言言い返す。


「や、あれは、ドルゴの方がでっかいチョコだったし」


「あの人いっぱい食べるから徳用の安い奴ですよ! トッシュ先輩のことでいっぱい相談に乗ってもらってるから、義理で業スーのやっすいやつ! 先輩にあげたのは手作りです! めちゃくちゃ一生懸命作りました! 先輩のスキルは複雑なもののステータス編集が苦手だって知ってるから、チョコレートを何層にもして、そう簡単に味変できないようにして、私が作ったそのままの味を味わってもらおうと工夫しました!」


「お、おう」


「はあはあ……。以上。私の告白です。……とりあえずのノリでいいから結婚してください。私のこと好き好きにさせます」


「あ、ああ。そうだな。というか、ぶっちゃけ、年下のかわいい子が結婚してくれるなら大歓迎だ」


「はい!」


 レインはひときわ元気に笑った。そして、白目をむいて倒れる。地面に落ちる前にトッシュがさっと抱き留める。


「お、おい、いきなりどうした」


「えへっ。えへへ。結婚~」


「な、なあ、また幼児退行はしてないよな?」


「えへへ~。幸せです。がくっ……」


 レインは一世一代の正念場で、全精神力を費やして告白したのだ。とっくに精神が限界を超えていた。


 近くのマックで女子高生が拍手を始める。

 茶屋の客がスタンディングオベーションを始め、通行中の外国人がハッとすると、見たこともない楽器を取りだして打ち鳴らす。

 ハイキング中のドイツ人達が虚をつかれた顔で「キサマ、オメデトウ!」「オマエ、オメデトウデスカ!」と声をかけてきた。

 都内では85階建てのタワマン住みで年収500万以上のハバ卒医師のカズヤが、アツシからケツに埋めこまれたソルティライチを噴きながら時限爆弾の爆発で死んだ。


 辺りは急ににぎやかになって、トッシュとレインを祝福した。

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