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54話 トッシュの告白と、レインの復活

 トッシュ、シル、レイン、ネイの四人は喫茶店で休憩した後、レンタカーを借りてネイの運転で当初の予定通り神社に向かった。

 トッシュを中央にして、レインとシルが後部座席の左右に並ぶ。


 ネイの運転は丁寧だったし舗装された道路のため揺れが少なく、シルは普通に乗ってくれた。最初はおびえていたが、途中から窓の外を見て楽しむくらいだ。


「窓から手を出すと、おっぱいの感触になるらしいぞ」


「本当にー?」


 自分以外全員女性なのにトッシュはシルの緊張を少しでも和らげようと、セクハラ感のある俗説を披露した。


 シルがもぞもぞと動き出したから、トッシュは腰を掴んで、万が一にも外に放り出されないようにしてあげる。


 シルは窓の外に手を出してにぎにぎ。


「分かんない」


「まあ、そうだよな」


 シルは車内に手を戻すと、トッシュの上に乗るようにして、反対側のレインに手を伸ばす。


 もみもみ。


「きゃっ。シ、シルちゃん?」


 シルもレインも、レンタルした着物を着ている。だから、シルはおっぱいを揉むために、着物の隙間に手を突っこんだ本格的な揉み方だ。


「ほんとだ! レインのおっぱいと同じくらいの柔らかさ!」


 マジで?!

 トッシュは自分も確かめたくなったが、さすがに幼女化しているとはいえ後輩の乳を揉むほどノンデリではない。


「……ネイさん、今の時速を聞いたら怒りますか?」


「うん。普通に軽蔑する」


「くっ……」


 こんな感じで車での移動は楽しい時間だった。


 神社に着いたら、七五三のお参りをした。

 その後、雑談しながら神社周辺の路地を散策する。観光客向けに整備されている路地らしく、お茶屋や団子屋のような、ちょっと時代がかった趣のある店が並ぶ。


 意外なことに、腰回りに妖刀を8本もじゃらじゃらさしているが、和服を着たネイも路地の雰囲気にピッタリ合っていた。

 でこぼこポケットのトッシュは異物感満載だ。


 まったりとした時間が過ぎていく。


 途中で、シルがアイスクリームを食べたがり、ネイが茶屋で面倒を見ることになった。


 トッシュはレインと手をつないで並んで歩く。


「来てよかった。派手さはないけど、趣? ってのがあるの? なんか楽しいな」


「うん!」


 幼女レインの無邪気な返事を聞き、トッシュは逆に、少し陰りのある笑みを浮かべる。


「……今日のレインはいつもより、なんていうか、距離感が近くて可愛いよ」


「えへへ」


「でもさ……。やっぱちょっと寂しいよ。いつものレインと一緒にこの道を歩きたかった」


「トッシュ……」


「ステータス編集で精神年齢を上げれば元に戻るのかもしれないけど、レインが自分のタイミングで帰ってきてくれると嬉しい」


「……」


 そのとき、大きなキャリーケースを持ったファミリーが正面から近づいてくるのが見えた。日本エリアでの生活が短いトッシュでも、あれが外国人だということと、道を譲らずに広がったまま突き進んでくるであろうことは分かった。

 狭い路地だからよけるスペースはない。


 トッシュはレインの腰を抱くようにして引き寄せ、壁際に寄る。

 不可抗力だが、自動車のまどから手を出したときに感じる柔らかさと同じ柔らかさのものがトッシュの胸にあたる。しかし、レインが着物を着ているため、その感触はよく分からない。


 外国人がぎゃあぎゃあと大きい声でしゃべりながら我が物顔で過ぎていく。路地の中央を夫婦らしき一組の男女が進んでいくと、その後ろを息子と娘らしき若い女が過ぎていった。


「大丈夫?」


「はい……」


「じゃ、行こっか」


「はい……」


 レインはうつむいたまま動かない。


「ん? どうした?」


「……えっと。履きなれない草履で歩き続けたので、ちょっと足が痛くなってしまいました。だ、だから、あの……。《《トッシュ先輩》》、お姫様抱っこしてください」


「……! あ、ああ。ほら。ふふっ。わがままは子供の特権だからな。いくらでも甘えてくれ」


「はい!」


 トッシュはレインをお姫様抱っこした。揺らさないように、ゆっくり歩く。


 何か劇的な出来事があったわけではない。


 しかし、レインは休日をトッシュと一緒に過ごすうちに「やっぱ、先輩のこと好き」と改めて感じ、幼児退行するのをやめたのだ。たとえトッシュ先輩がルクティとエッチなことをしているとしても、私がトッシュ先輩を好きな気持ちは変わらない、そう納得した。


「トッシュ先輩、大好き……」


 トッシュの胸に抱かれて、レインは小声でささやいた。トッシュが常に身体能力を強化していて、特に視覚や聴力などの五感を強化して突発事態に備えていることを知っている。

 だからレインは聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で言った。ほんのちょっとだけ勇気が足りなかったのだ。


 臆病な心で「トッシュ先輩が私のことを好きなら『俺も好きだよ』って言ってほしい。私のことが嫌いなら、聞こえないふりをして」と思う。


 トッシュには、しっかりと聞こえていた。


 過去に何度も同僚から「レインはお前に惚れてるぞ」と言われていたので、いよいよトッシュは「本当にそうなのか。レインは俺が好きなのか?!」という自問自答の末に、恋愛的な意味で告白されたと結論付ける。


 トッシュは誠実に答える。


「あ、あー。聞こえた。あと、俺の勘違いじゃなかった、えっと、なんていうか、先輩として好きとか尊敬しているとかではなく、そういう意味の『好き』として解釈するんだけど、いい?」


「……は、はい」


 ふたりとも心臓バックンバックンだ。もう、誤解でも思い違いでもない。大人の恋愛的な意味で、今が告白シーンだとふたりとも気づいている。


「え、えっと、なんていうか、ちょっと自分語りをさせてくれ。それが俺なりの誠実さだと思うから」


 恋愛経験のないトッシュはどもった。


「は、はは、はい」


 同じくレインもどもった。


「ご存じのように、お、俺は異世界人だから日本人と価値観が違う。まず、恋愛観というものがないと思ってくれ」


「……はい」


「人にもよるだろうけど……。異世界人にとって、異性は仕事仲間か家族だ。多分、俺の祖国や俺自身の価値観に恋人という段階がない。レインやネイさんは仕事仲間だ。非常に親しい、信頼する仲間だ。困っていたら命懸けで助ける。それでさ……。その次の段階は、もう俺にとってはお嫁さんなんだよ。ドルゴから借りたラブコメの『恋人』という関係が俺には分からない。学校帰りにファストフードを食べるとか、一緒に映画を見るとか、遊園地に行くとか、そういうのが理解できない。それは、ただの仲のいい仲間だろ、と思ってしまう」


 トッシュはいったん言葉を区切り、レインの理解が追いつくのを待ってから、続ける。

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