51話 頼れる女上司ネイが助けに来てくれた
レインがトッシュの体を操ってコンビニを目指すころ、手前の路上ではシルがスマホでネイとお喋りしていた。
シルはネイが好きだ。トッシュの送別会の時に、いっぱいお話を聞いてくれたし、ニコニコしながら相づちをうってくれたし、聞き上手なのだ。
レインみたいに途中で「おぎゃああああっ」と叫んだりしない。
ネイは「それで」「なるほど」「面白いね」と、短くはあっても、しっかりとシルの話を聞いて返事をしてくれる。
だからシルは、ネイが大好きだ。
だから、盛る。
ネイを楽しませたくて、盛る。
レインに聞かせたら好評だった、トッシュとルクティの夜の行為を教えるしかない!
「トッシュが、ルクティと夜に裸でペロペロしあっているの」
『……おや? ルクティというのは誰かな?』
「黒いえっちなパンツを穿いたメイドさん」
『なるほど。メイドを雇うようなお金はないと思うけど、どうしたんだい?』
「えっとね。ゾンビのかしこさを上げたらメイドになったの!」
『そう。それはすごいね』
「それでね。レインが子供みたいになっちゃったの。それでね、今3人でセック\ピー/するために日本に来たの!」
幼女特有の説明不足ではあるが、大人のネイは慌てず、穏やかに話す。
『シルちゃん。誤解ではないのかな。トッシュがレインと性交渉をするのは、どうゆう流れがあったのかは知らないが、いずれそうなることのような気もするから問題はない。ただ、シルちゃんを相手にすることは、ないと思う』
「でも、トッシュは、はあはあ言いながら、レインだけじゃなくて、私ともセック\ピー/するって言ってたよ」
トッシュがはあはあ言っていたのは、日本エリアまでダッシュして着物をレンタルしてきたからだ。
『今、日本エリアに居るんだろう? あまりセック\ピー/という言葉を口にしてはいけないよ。それに、その言葉は他の言葉の聞き間違いではないかな』
「そうかなあ。シルが七歳で、レインが五歳みたいになっちゃったから、セッ\ピー/したいって言ったよ?」
『その時、トッシュは他に何か言ってなかったかな』
「えっと……。レインにシャワーを浴びてこいって。あと、裸のレインを見て、ニヤニヤしながら、私にも服を脱げって言った」
バスタオルを巻いていたのだが、シルは「裸」と表現してしまった。説明が杜撰なのは幼女なので仕方がない。
『なるほど。あの朴念仁がさっさとレインの気持ちに気付けば、こんなことにはならないというのに。誤解だとは思うが、いずれにせよ、レインが幼女化したというのは気になる。様子を見に行くか。シルちゃん、通話を終えるね』
「うん。またお喋りしてね!」
『ああ。またあとでお喋りしようね。ところで、トッシュは今どうしてる?』
「コンビニから出てくるよ」
『トッシュの影を誰か踏んでいるか、そこから見える?』
「誰も踏んでないよ!」
『そうか。ありがとう』
通話が切れた。
――次の瞬間、コンビニの自動ドアを潜るトッシュの背後に、ネイが出現した。それは彼女の妖刀が有する能力の一つ『影渡り』だ。
切ったことのある影に瞬間移動することが可能だ。効果は一度でリセットされる。再使用するためには再び影を切る必要がある。対象は太陽光が作った影に限定される。
なお、ネイは他にも「前回と同じ攻撃を繰り返す」能力で疑似的にワープすることが可能だ。前回はそれでトッシュの近くに移動した。しかし、今回は、仕事でモンスターを攻撃しているため、トッシュへの攻撃を再現できなかった。そのため、『影渡り』を使った。
このようにネイは、本来は別の能力を似たような能力と思わせたり一つの能力と思わせたりして、敵との戦闘を有利に運ぶ。
「うわっ。ネイさん! あ。あれ。俺、いつのまにコンビニに」
「……なるほど。『節句をする』の誤解か」
ネイはレインの姿を一目見て、とりあえずの誤解については納得した。
そして、一瞬だけ「くくくくっ」と小さく声を漏らし、普段誰にも見せないような笑みを浮かべる。しかし、すぐに表情を引き締める。
「トッシュ、動くなよ。またリトライするために攻撃しておく」
「はい」
ネイは妖刀を振り、トッシュの影を切った。これで再びトッシュの影に瞬間移動が可能だ。さらに、再攻撃用の妖刀も振った。これにより他の物を攻撃しない限り、ネイは2種類の能力でトッシュの元へワープできる。
「さて、レインの幼女化とはいったいどういうことだ?」
ネイが見つめる先で、レインは悪戯が見つかった子供のようにびくりと震えた。
かしこさ150のレインでも、ネイに幼女のフリがどこまで通用するのか、読めなかった。
何せネイは未婚なのに、妙に幼女の扱いが上手い。初対面のシルが一瞬で心を許して親しくなっていたことからもそれは明らかだ。
多分、大きな胸から母性があふれている。
実際、幼女シルはネイを見て、妙な安らぎと胸への憧れを抱き始めている。