41話 元の職場は悲惨なことになっていた。崩壊寸前ざまぁ
トッシュ達が新居で楽しい生活を送っていた頃、かつての古巣冒険者組合『ブラックシティ』は、割と悲惨なことになっていた。
月曜日の朝に戦闘支援課課長の日人が出社しないことは、だれも何とも思わなかった。彼が重役出勤するのはよくあることだし、どうせ出社してもスマホでゲームするだけだから、いなくても誰も困らない。
しかし、昼休憩前の11時半ごろに一気に事態が動きだす。
群馬のダンジョンで彼の遺体が発見された。首だけ残して胴体がスライムに吸収されるという間抜けな状態だ。
スライムは、推奨討伐レベル1と言われており、近所の高校の部活生でも討伐できるくらいの最弱だ。もちろん、部活なら教師が引率するが、仮に生徒だけだったとしても、新入部員は無理でも二年目の冒険者クラブ生徒ならスライムくらい倒せる。
それなのに、専門家の中の専門家であるはずの、冒険者組合のしかも戦闘支援課の課長が敗北していた。とんでもなく、情けない失態だ。
ダンジョン管理人が毎週月曜日に、治安維持のために冒険者を雇って探索させているのだが、その冒険者たちが日人の遺体を発見した。
財布に身分証明書でも入っていたのか駐車場に放置された彼の車両から特定したのか、警察からブラックシティに連絡が着て彼の死が発覚した。
社長の金星は息子の蘇生を即決。業務中の死亡だから会社が費用を負担すべきという発想で、「遺体回収1億円」と「蘇生魔法2億円」を即決で払った。もちろん、会社の金だ。
職務中の事故死に対して会社が蘇生費用を払うこと自体は、社員の誰も文句を言わなかった。ただ、全員『なんでスライムに……』と疑問には思った。
それが月曜日のことだ。3億円くらいなら、痛い出費ではあるが、会社が出せる金額だ。
しかし火曜日になると、蘇生を担当する教会から「肉体の細胞が必要。胴体を捕食したスライムを持ってこい」と連絡が来る。
広いダンジョンからどこにいるか分からない「日人を捕食したスライム」を見つけるのは至難の業だ。
しかも、スライムが肉体を完全に消化するまで数日しかないので、事態は急を要する。
金星はギルドの戦闘支援課の社員全員に、「現在の仕事を停止して、日人を捕食したスライムを探せ!」と命令した。
仕事の都合でどうしても捜索に加われないと言うものがいれば金星は「クビにするぞ!」と脅し「客との契約上の問題が起きたとしても、日人の捜索を優先しろ! お前ら冒険者は、仲間を助けるのが最優先に決まっているだろう! 仲間を見捨てるのか!」と切れ散らかした。
さらに戦闘支援課以外からも、ダンジョン一階層を探索できる程度の能力がある者が派遣された。
事務員のネモさんも、一応研修でLv3くらいのモンスターを討伐した経験があるので、日人捜索に参加させられた。もちろん、会社に事務員がいなければいろいろな作業が止まる。
こうして、ギルドブラックシティは火曜日の業務をほぼ完全に停止してダンジョンを捜索した。
当然、本来の業務の依頼主たちはクレームをつけてくるし、社員の不満はたまるし、救助費用はじわじわと会社の負担となってくる。
もちろん、日人が担当するはずだったダンジョン探索ツアーは、ギルド都合による停止だから賠償金を払う必要も出てくる。
しかも、スライムに溶かされていた日人は、苦しんでいたからしょうがないのかもしれないが、社員の連絡先を探すために会社のパソコンにリモート接続した際に、「連絡先ではないファイル」を削除していた。
目的のファイルを探すために、邪魔なものを消していたのだ。そのせいで会社の重要な書類までサーバーから紛失していた。
そして、ブラックシティは日本の普通の企業と異なり、もともとが異世界の冒険者ギルドだからIT部門なんてないし、会社のサーバーのファイルをバックアップしていない。
さらに、「戦闘支援課の課長がスライムに敗北した」という話題は、急速に広まった。ブラックシティの失墜を望む同業者が噂の拡散をしたのかもしれない。
進行中だった案件の客からは不信感を買い、新たな依頼は減っていくため、日人の死を切っ掛けに、ブラックシティの業績が急激に悪化し始める。
それはそうとして、日人の蘇生は成功はしたが、元通りにはならなかった。スライムに結構消化されていたためだ。
脳は深刻なダメージを負ったし、再生できたのは胸の上側までだ。残りは『人形遣い』能力者が作る義体で補った。……会社の金で。
救助と蘇生までは会社が費用を負担することに、社員のだれも不満を抱かなかった。だが、不必要なまでに高級で高性能な義体を買ったことに対しては、社員は不満を抱いた。
しかし金星は「日人はもともとA級冒険者相当の能力を持っていたのだから、義体も相応の物にすべきだろう!」と主張して、多額の借金をしてまで、最高品質の義体を購入した。
ギルド崩壊の日は近い……。




