36話 朝食を買ってきて、とりあえずシルにコーラを飲ませてからかう
何はともあれ朝食だ。
とはいえトッシュは、二日前に見つけた喫茶店にまた行けばいいと思っていたので、何も食料がない。
レインやルクティは想定外の滞在なので、当然、彼女らの食料もない。
「4人でご飯を食べに行くか」
と決めては見たものの、ルクティは昨日まで数年間ゾンビだったので、服がボロボロで手で押さえておかなければ胸が零れ落ちてしまうような状態。
おまけにスカートはさらに大きく裂けて、黒いレースのひらひらなエッチ下着がほとんど見えている。というか下着も裂けつつある。
なんかの絵画みたいな姿勢で胸と股間を押さえてようやく衣服をまとっているに過ぎない。万歳、即、全裸だ。
とてもではないが、外に連れて行ける状態ではない。
トッシュの視線に気づいたレインが、さっと、ルクティの前に立つ。
トッシュはエロ視線がバレたことに気づき、気まずいから視線をそらした。
「私のことは気になさらず、ご家族水入らずで行ってきてください」
とルクティは言うが、そういうわけにもいかない。
シルがぴょこっと手をあげる。
「私がレインからもらった服があるよ!」
前日、レインがいったん家に帰った際に、妹のお下がりを何着か持ってきてくれたのだ。シルが着るにはやや大きかったので、もしかしたら、ルクティにならあうかもしれない。
ということで、メイド以外の3人はルクティを来客待合室に残し、玄関前ホールで暫く待った。
しばらくしてルクティが出てくる。
「見慣れないタイプの服なので戸惑いましたが、着替え終わりました」
そう言う彼女は、ファンタジーRPGの住人ではなく成人向けアドベンチャーゲームの登場人物ではないかと思えるくらい、そこはかとなくエロい格好だった。
服が小さいせいで、なんか、もう、いろいろとはみ出しそうでムチムチなのだ。
胸がはりだしているからシャツの裾はめくれ上がって白いおへそが露出しているし、普通サイズのはずのスカートは超ミニだ。少しでも風が吹けば、いや、歩くだけでも黒いレースのひらひらが見えてしまいそう。
しかもよく見れば、ノーブラらしく、シャツの張り出した頂点に、乳首らしき突起が浮いている。
「こ、これは、アウトです! 他のを選びましょう」
レインはルクティの手を引き、来客待合室へと入って行った。
シルも後を追う。
玄関ホールにはトッシュだけが取り残された。
ドアが閉まった来客待合室からは女子3名の賑やかな声が聞こえてくる。
「あー。この部屋ばっかり使ってるな。家具を整えて他の部屋も使えるようにしていかないとなー。あとで寝具を二階に運んでおくかー」
と、玄関ホールに放置したままの、昨日の買い物品をぼーっと眺める。
来客待合室からは、なんか楽しそうなきゃっきゃっという笑い声が聞こえてくる。かなり盛り上がっているっぽい。
「……もしかして、着替えている間に、俺がコンビニまで走って食べ物を買ってくればいいのでは……?」
徒歩で30分の距離でも、トッシュがスキルを使って走れば、5分もかからないはずだ。
実際は日本エリアに入ったら能力を解除するし商品を選ぶ時間もかかるから5分は無理かもしれないが、30分もあれば十分、行って帰ってこられそうだ。
トッシュは来客待合室のドアをノックする。
「レイン、俺、着替えの間にコンビニに行ってくる。なんか普通に、そっちの方が早い気がする」
「分かりました」
「ルクティ。なんか食べれない苦手なものある?」
「ご主人様の残したものを頂きますので、お気になさらず」
「あー。そういうの、いいから。とりあえずいろいろ買ってきて試す感じにするわー」
そう言い残し、トッシュは家を出た。
ステータスですばやさを上げれば、自動車よりも速い。
ただ、ステータスの上げ過ぎはリスクがある。レースカーがスピードを出し過ぎると空に吹っ飛んでしまうように、トッシュも足の速さだけを上昇させると、加速しすぎたときに吹っ飛んだり、転んだりする。
バランスよくステータスを編集する必要があるのだ。
トッシュは慎重に、控えめな能力値を設定することが多い。
脚力を10倍にすると、勝手に足の太さパラメータも上がるのだが、トッシュは初めて日本の服を着た状態で脚力を上げたら、いわゆるちんポジが悪くて、玉が締め付けられて痛い思いをした。
股間に激痛が走り、うずくまっていたら、藤堂ネイに『怪我をしたのか。見せろ』とひん剥かれてちんこを見られた。
全裸を見られても平気な異世界人でも、さすがに年上の巨乳異性に間近からガン見されたら恥ずかしいものだ。
それ以来トッシュは脚力10倍は使ってない。
トッシュはちんこがつぶれない5倍脚力の速度で地を駆け、日本エリアに到達。
とりあえず大抵の異世界人が好むパンを数種類チョイス。日本のパンは美味いから、異世界人はほぼ確実に喜ぶ。トッシュが知る限り例外はない。同様にパスタもうけがいい。基本的に小麦が好かれるっぽい。
さらに、おにぎりや弁当や飲料を購入し、家へ戻る。
時計で計ったわけではないが、20分かかっていないような気がした。
トッシュが玄関ドアを上げたとき、右手にある来客待合室からはまだ女子達のきゃいきゃいとした声が聞こえてくる。
「パンとおにぎりと牛乳と、シルをからかうためのコーラを買ってきたぞー」
後半を聞き取れていなかったのか、シルだけが「わーい」と、とことこ出てきた。
残るふたりは出てこないので、トッシュとシルは開いているほう、玄関向かって左側の来客待合室で朝食を取ることにした。
かすかにきゃいきゃいという元気な声が聞こえてくる。女の子的に着替えは楽しいものらしい。
「だ、駄目です。これも、む、むむむ、胸が強調されます! な、ななな、生意気おっぱい! 本当に14なんですか?!」
「ああっ、申し訳ありません。お嬢様。けしてお嬢様を不快にさせるようなつもりはなく」
「お嬢様?! 私が?!」
「はい」
「え、待ってください。朝、私のこと奥様って言いませんでした?! もしかしてずっと、シルちゃんに話しかけてた?!」
「はい。シル様が奥様です」
「なんでぇ?!」
「違ったのですか? シル様はエルフなので外見はお若く見えますが既に成人されていて、トッシュ様の母であるとご本人が仰っていました……」
「違いますよ。それ、シルちゃんのおままごとですよ?! 正確にはトッシュ先輩が旦那様で、私が奥様で、シルちゃんが娘です。あ、いえ、これは将来的な話なんですけど、い、いつか、お嫁さんになりたいなーって。きゃーっ!」
さすがに別室の会話だから、後半はよく聞こえなかった。悲鳴の「きゃーっ!」だけはよく聞き取れた。
「あの、お嬢様、もとい、レイン様。今朝から何度もしていらっしゃる、その腰を左右に振る踊りはいったいなんなのでしょうか。えっと、こうですか、なかなか、難しいですね。腰がくにゃくにゃしません」
玄関をはさんだ隣の部屋では17歳と14歳が、腰を左右にくねくねさせていた。かたやワカメの如くくにゃくにゃで、かたや風に揺れる木の如くぎこちない。
元後輩と住み込みメイド。
果たしてふたりは恋のライバルになるのだろうか。
それはそうと。
「ほら、シル。これを飲んで。コーラって言うんだ」
「なんか、黒い……」
「いいから、ほら、ほら。昨日、ドルゴが飲んでたでしょ。大丈夫だよ」
「……先にトッシュが飲んで」
「分かった。ほら。見てて。ごくごく。かーっ! うめえ!」
「……本当に美味しい?」
「かーっ! マジで! 美味しいから!」
「かーっ! ってなに?」
「これを飲むと、出ちゃうんだよ! かーっ!」
「じゃ、じゃあ、一口だけ……。こくっ……。ひゃっ、ひゃわあああああっ! なにこれ! 口の中が爆発したけど、美味しい! 毒ガエル食べた時みたいに口がピリピリする!」
「爆発はしとらんだろ……。って、毒ガエル食べたことあるの?!」
シルはどうやらコーラを気に入ってくれたようだ。
「ひゃーっ!」
幼女だから「かーっ!」が可愛かった。