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34話 ゾンビメイドの再生に成功

 使用人室に戻ったトッシュ達は、メイドゾンビと筆談を始めた。


 腕が伸びきったまま硬直しているメイドゾンビは、苦労したようだが、スケッチブックが大きいため辛うじて文章を書くことに成功。


『もう少しかしこさを上げてくれたら、私のステータス異常を解除しても問題がないか判断できそうです』


「なるほど。じゃあ、かしこさを150にしてみるか」


 要求に従ってかしこさを上げてみた。


『ありがとうございます。……だいぶ自分の体について分かってきました。人間に戻れるようです』


「まじで?」


「やったあ!」


「良かったですね、先輩。ゾンビさん」


『ただ、慎重にステータスを解除して頂く必要があります。まずは血流から回復させていくため、私の胸に触れて、心臓を先に人間に戻してください』


「分かった」


「駄目ですよ! なに言っているんですか。『分かった』じゃないですよ! 女の子の胸に触れるなんて駄目に決まっています」


 ……昼間、治療のためとはいえ女子大生の生乳を触ったことは黙っておこう、とトッシュはひっそり思った。

 その時、ちょっとニヤニヤしたのを、シルだけは気づいて『トッシュなんか変な顔してる』と思った。


『こんな姿の私を女の子扱いしてくれて嬉しい』


「というかメイドゾンビさん、貴方、何歳ですか?!」


『14歳です』


「アウトオォォッ! 未成年者がメイドをするのは異世界ファンタジーならありうることだからヨシとしても、その胸を触るのは絶対に駄目です! ――14歳が黒のレースのひらひらぁ?!」


「レイン、うるさい……」


 遅れてツッコミをするレインに、シルが呆れて眉をひそめる。


『早く人間に戻してください。体がこれ以上腐ると、14歳とは思えないほどに発達した豊満な胸の柔肉が崩れ落ちてしまいます。ちらっ』


「なんで擬音の『ちらっ』を文字に書いてまで、私の胸を見るんですか?! ええ。ないですよ。私にはゾンビが羨むような肉はないですよ」


『硬直した肉体では、勝ち誇った笑みを浮かべられないのが残念です』


「ぐ、ぐぬぬっ……!」


 メイドゾンビは賢いから、既にトッシュ達の人間関係を把握し、レインをからかっている。


「仲良くしているところ悪いんだけど、で、けっきょく、どうすればいいの?」


『普通に頭に触れてステータス異常ゾンビを解除してください』


「よし、分かった。ステータスオープン。状態異常の値を『ゾンビ』から『なし』に変更ッ!」


 シュワッ!


 トッシュがスキルを発動すると、パーティーホールの方から赤い霧が漂ってきてメイドゾンビを包む。赤い霧はゆっくりと体へと吸収されていく。


 腐敗して黒ずんでいた皮膚は次第に白くなり、それからすぐに血色を取り戻していく。


 どうやら血肉が戻り、再生しているようだ。


「あっ……んっ……」


 喉が再生したらしく、ゾンビが声を漏らした。


「ちょっとゾンビさん、変な喘ぎ声を出すの、やめてください!」


 レインはさっとトッシュの耳を塞いだ。


「仕方ないじゃないですか。体が再生して……全身が気持ちよくて……。あんっ……んっ。ああっ……んっ!」


 一際大きな声を漏らしたあと、メイドゾンビは全身から力が抜けたかのように、崩れ落ちそうになった。


「危ない!」


 咄嗟にトッシュが支える。


「……」


「ねえ、トッシュ。ゾンビさんどうしたの? 動かなくなっちゃったの?」


「分からん。眠った? 意識を失った? 何はともあれ、人間に戻ったみたいだな」


「ちょっと先輩、なにをもってして、人間に戻ったと確信したんですか!」


「全身が柔らかいし、暖かい」


「なんか、おっぱい触ってません?!」


「不可抗力だろ。崩れ落ちて真下に倒れる子を両腕で支えてあげたら、必然的に触れてしまう」


「むう。なんか釈然としませんが、よしとします。とりあえずいつまでも抱きしめているのはアウトです。このソファに寝かせてあげてください」


「おう」


「では、私とシルちゃんが反対側の部屋のソファを使うとして……」


「なら俺はここで元ゾンビと――」


「駄目です。大谷さんもびっくりするくらいの鈍感スリーアウトチェンジですよ、先輩」


 レインが被せ気味に言い、人差し指をトッシュの口元に持っていき発言を遮る。

 ここで意外と賢いレインは気づく。

 指先が憧れの先輩の唇に触れちゃって「きゃっ、ど、どうしよう、先輩の唇、触っちゃった」どきどき~からの隠れてちゅっ「わ、わたし、変態だ。ふぇぇ」みたいな少女マンガイベントを起こしてお互いに意識しあえばよいのでは、と。


 しゅっ!


「うわっ。あぶなっ。なんでいきなり突いてきた」


「な、なんで避けるんですか!」


「いきなり攻撃されたら避けるだろ!」


 いちゃつくふたりの横でシルが小さくあくびをする。


「眠い」


「そうだな。でも、寝床の割り当てをどうするか」


「ソファをもっと大きくしたら?」


 さっと解決策に気付くあたり、本当にシルの方がトッシュよりもかしこさが上かもしれない。いや、上だろう……。


 こうして使用人室のソファはサイズを大きくして女性3人が使用することになった。彼らは、せっかく昼間に寝具一式を買ってきたのだから、さっさと二階の寝室を掃除して整えておけばよかったのに、しなかった……。


「まあ、3人は寝てて。俺はとりあえず一階だけでも他のゾンビを探して治してくる」


「私も……」


 手伝うとは、レインは言えなかった。意識を失ったように眠る元ゾンビとシルをふたりだけ部屋に残すのは、少し不安だった。

 元ゾンビに害意があるとは思えないが、目を離すわけにはいかない。


「いいって、本当はもうちょっと、レインがひとりでこの家を攻略できるか見てみたかったけど、さっきの様子を見ただけでも、十分合格点だし。あとは俺が片付ける」


 そう先輩らしく言い残してトッシュは部屋を出た。


 しかし、メイドゾンビを再生させたからステージクリアしたらしく、次のイベントが発生することはなかった。


 次のゾンビが発生しないので、トッシュは地下以外の屋敷内を一通り巡ってから、部屋に戻って寝た。


 翌朝、人間に戻ったメイドゾンビはいったいどうなっているのだろうか……。

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