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31話 ゾンビメイドのスカートが裂けてて下着が見えている

 とりあえずトッシュ達は玄関横の来客待合室でゾンビ犬を待つことにした。

 

(ゾンビアクションゲームの最初のイベントとして、使用人室の窓をぶち破ってゾンビ犬が現れるはずだ。……そろそろか?)


 もっとも、窓ガラスを割られるわけにもいかないので、窓は開放してある。


 荒れ地にぽつんとある洋館は、周囲に遮る物が何もないため風は強く、少し、砂混じりであった。


(寒い……)


 また、砂地では陽が落ちると気温が一気に下がるためちょっと寒い。


 クマの着ぐるみを着たシルは暖かそうだし、それを背後から抱きしめているレインも暖かそうだ。


 トッシュはふたりの間に割って入りたかったけど、日本の感覚では、それは許されないらしい。

 ファンタジー世界では寒いときは体を寄せ合っていたのだが、日本の常識では10歳くらいから男女は体を重ね合わせてはいけないことになっているようだ。


(前、出張中に洞窟で寝ることになって寒かったからレインを抱きしめたんだけど、なんか真っ赤のくにゃくにゃになって使いものにならなくなったんだよなあ。なんでだ?)


 それ以来、トッシュはたとえ寒くても異性に抱きつかないようにしている。


(ファンタジー世界的には、寒い日に身を寄せ合って温め合うのが常識なんだけどなあ。今もレインに抱きついたら怒られるかな)


 なんてことをぼんやりと考えている。


 強引にぎゅっと抱きしめてしまえば抵抗はなくなっていいかんじの暖になってくれるのだが、トッシュは鈍いのでそんなことには気付かない。

 ちなみに、レインやシルになら余裕で抱き着けるが、ネイのような巨乳の年上異性には緊張して下心で頭がおかしくなるから抱き着けない。


 それにしても――。


「遅いな……。時計を見ていなかったとはいえ、そろそろゾンビ犬が出てもいいんだけど」


「先輩、どうします? 先に屋内のゾンビを見てきます?」


「あれ? そういえば、うーうー聞こえない。シル、あの時はドアに張りついたゾンビがうーうー言ってたよな?」


「うん……」


 ゾンビアクションゲームなら、毎回同じ場所に同じゾンビが出現するはずだ。

 ゲーム終盤ならともかく、どう考えても玄関の横にある小さな部屋はチュートリアル的な位置づけだから、ゾンビの出現位置が変わるというのも、考えにくい。


「ストーリー再現系の異変なら、ここで最初のゾンビと遭遇しそうだが……」


「私が居るから協力プレイみたいな状態になって、イベントが分岐したのかな? 昨日も大勢いたからか、ゾンビはパーティーホールに出現した3体で打ち止めでしたよね」


「たしかに人数の違いでイベントパターンが変わった可能性はあるな。もう少しだけ待ってみよう」


 それから暫くして、シルが小さく身じろぎして、レインに耳打ちする。


「おトイレ……」


「分かりました。先輩、いつまでもここに居たらイベントが発生しないかもしれません。まずは、私とシルちゃんでトイレにゾンビが居るか確認してきます」


「ん? 危ないからシルは置いていったら?」


 トッシュはデリカシーがないので、ひっそりとトイレに行きたいシルや、それに対するレインの配慮に、思い至らない。


「いえ、先輩はゾンビ犬の襲撃に備えてください。万が一の時は大声を出すので助けに来てください」


「分かった」


 レインは立ち上がり、楽器ケースに手を伸ばしかけるが、停止。


「両手を塞ぎたくないし、武器は置いていきますね」


「分かった。素手でも問題無いと思うけど、危なかったら呼べよ」


「はい」


 レインは右手に洋灯を持ち、左手でシルの手を握って部屋を出て行った。


 トッシュはひとり取り残される。


「暗い……」


 唯一の光源を持って行かれたため、部屋は暗くなった。

 外から差しこむ街灯はないし、星や月は雲に隠れているらしく、部屋は墨汁の海に沈んだかのように真っ暗だ。


 トッシュは手持ち無沙汰で窓の外を覗いてみる。


「月明かりは全然ないか。まあ、視力強化しているから、そこそこ見えるからいいんだけど。……うーん。ゾンビ犬はいないな。どうなってるんだ……。寒いから閉めるか」


 トッシュは窓を閉め、ガラスのステータスを編集して強度を上げた。


 太もものポケットからタッパーを出し、冷えたピザを食べ始める。

 焼き上がりから時間の経ったピザを焼きたてに再生する方法をネイに聞こう、そう、尊敬する上司を想ったとき、ひらめくことがあった。


「あ」


 バアアンッ!


 ガラス窓が激しく揺れた。一瞬だけ、小さな黒い影が映った。


「何も居なかったのに、何かが外から窓に体当たりした? 多分、ゾンビ犬。間違いない。不動産情報でホラーハウスって書いてあったから、俺、ずっと、勘違いしてた。これ、ゾンビサバイバルアクションじゃないかも」


 窓の外を見れば、ゾンビ犬が再び体当たりしてきた。

 しかも2匹。

 トッシュ達が初めて遭遇したときは1匹だったのに。


「数が違う。やっぱり、そうだ。これ、ゾンビサバイバルアクションじゃなくて、別ゲーの世界だ。この洋館の出元、ファンタジーRPGの世界かもしれない」


 トッシュは窓を開けて外に出ると、ゾンビ犬を捕まえて、全力で遠くへぶん投げた。残った一頭もぶん投げた。


 すぐに窓から室内に戻ると、推測を検証するために、室内を行ったり来たりする。

 するとドアの外から「うー」と聞こえてきた。


「やっぱりそうだ。移動距離に応じてモンスターとエンカウントするんだ。これ、ファンタジーRPGだ。あれか。初日は、寝返りかなんかの移動距離でモンスターが出現。今はレイン達が移動したし、俺が室内でうろついたから、エンカウントしたんだ」


 ドアを開ければ、間違いなくゾンビが居た。


 トッシュはゾンビの押しのけ、右手を見る。


 トイレを背にして立っているレインが見えた。ドアを開けた音が聞こえたらしく、レインが手にした洋灯を向けてきた。


「あれ? トッシュ先輩、そのゾンビ、急に出てきました?」


「勘違いしてた。この洋館、ファンタジーRPGの世界から転移してきてたかもしれない。新人の頃、先入観に囚われるなってネイさんにいつも怒られていたのに、すっかり油断してた」


 大事はないはずだが、トッシュは軽く駆け足をしてレインと合流。


「うー」


 ゾンビが呻りながらゆっくりと近づいてくる。


「モンスターは見ていないところで湧く。俺達の移動距離に応じてランダム発生ってところかな。推測通りなら倒せばお金になりそうだし、倒したいんだけど……人間の形をしているから気がひけるなあ」


 近寄ってくるゾンビは、髪の毛が抜け落ちているし皮膚も爛れてて性別は不明だ。


 だが、


「あちこちが裂けているとはいえメイド服を着ているから、女性の可能性が高いなあ。ただでさえ、元人間を倒すのは気がひけるんだけど」


「先輩、この場合は、女性と断言してもいいのでは」


「先入観はダメだよ。メイド服好きの男かもしれない」


「雑魚モンスターのくせに、キャラ設定濃すぎません?」


「うー」


「とりあえず、移動力をゼロにするか」


「駄目ですよ!」


「なんで?! 動きが遅いけど、そのうちここに来るよ」


「女の子ですよ?! 脚を触るなんて駄目です!」


「でもゾンビだよ?!」


「うー」


「そ、それはそうですけど」


「うー」


「とりあえず動きを止める!」


 トッシュは前に出ようとする。


 しかし、背後から何者か――といっても状況的にレインしかありえないのだが――がトッシュの目を塞いだ。


「おい、レイン、何をする」


「み、見ちゃ駄目です!」


「何が?!」


「このゾンビさん、スカートが裂けてて、下着が見えてます!」


「いま気にすること?! それに暗いからよく見えないから問題ないだろ!」


「先輩、夜目が利くじゃないですか」


「うー……うー……」


「ねえ、見えないけど、すごい近くでうーうー言ってるよ。レイン、放せ、おい、レイン!」


「駄目です! パンツ見えちゃいます! パンツ見えちゃいます!」


「パンツくらい見たっていいだろ!」


「なに言ってるんですか! 駄目ですよ! 黒だしレースでフリフリだし、かなりエッチなパンツですよ! 絶対に見たら駄目です!」


「お前はしっかり見てるじゃないか! なんで俺は見たら駄目なんだよ!」


「男は見たら駄目なんです! いい加減に覚えてくださいよ!」


 トッシュが乱暴にならない程度に身を左右に振ってレインの目隠しをはずそうとするが、レインは一歩前に出て必死に追いすがるので、結果的に、まったく膨らんでなくて平坦だとはいえレインの胸が何度もトッシュの背中に当たっている。


 ふたりがいちゃいちゃ、ではなく、言い争っているうちに、ゾンビは手を伸ばせば届きそうな位置まで接近していた。

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