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30話 ゾンビ対策計画を立てる。後輩女子レインの成長にトッシュは喜ぶ

 ヒュウウウッ……。


 ガタガタガタッ……。


 風が吹き、玄関横にある来客待合室の窓が揺れた。

 よからぬ物が外から侵入を試みているのではないかという恐怖が生まれ、シルはきゃっと悲鳴をあげた。


 シルは並んでソファに腰掛けているレインの腕にぎゅっと抱きつく。


 陽は落ちたが、ホームセンターで買ったランプを使っているので、室内は橙に染まって、薄ぼんやりと明るい。トッシュがダンジョンから持ち帰った懐中電灯は明るすぎて、狭い部屋では使いづらいから、狭い部屋ではランプを使っている。


 部屋には今、トッシュ、シル、レインの3人が居る。

 女性人二人がソファに、トッシュはボロい椅子に座ってる。


 レインはいったん帰って着替えてきたので、厚手のジャケットとジーパンという動きやすそうな軽装をしている。


「さて……」


 シルがレインの腕にしがみついたまま、無邪気さを感じさせない低い声を出した。


「ゾンビ対策のお話を始めます」


 シルにとってゾンビ対策は急務である。


 レインが二日続けて泊まることになったのは、シルが泣きついたからだ。


 レインもまた、自分が惚れている相手がエルフ幼女と同じベッドで寝ている状況は、なんかモヤモヤするから阻止したい。

 トッシュが幼女に対していかがわしいことをするはずはないと分かっているけど、レインはモヤモヤするのだ。


 だから、他の者達は日が暮れる前に帰宅したのだが、レインだけは自宅でシャワーを浴びて着替えて、手荷物を持って戻ってきた。


「えっと……。先輩、シルちゃんにはホラーハウスにゾンビが出る理由は説明しました?」


「したよ」


 トッシュは木製の椅子に逆向きになって座り背もたれに抱きつく姿勢で、テーブル上のチェスの駒を手持ち無沙汰に弄る。


「そうですか」


「レインからも説明してあげて。違う人の言葉だと、また理解のしやすさが変わってくるからね」


「分かりました。シルちゃん、おさらいです。この家は、ゾンビサバイバルアクションゲームの異世界から転移してきたと思われます」


「サバイバイアーム?」


「サバイバル、アクション、ゲーム、です。ゲームというのは異世界の神話や物語だと思ってください。この家は『ゾンビを倒す物語』の舞台です。ですので、物語が終わらない限り、ゾンビは出続けます」


「……え? じゃあ、ゾンビは居なくならないの?」


「いいえ。『ゾンビを倒す物語』を終わらせれば、ゾンビが出なくなる可能性があります。ただし、その物語の結末が『主人公が死んでゾンビが街に溢れかえる』ような類いの場合は、それが現実になります」


「どういうこと?」


「ゾンビを倒すと、もっとゾンビが増えるということです」


「やだあ……」


 3階建てで地下室もあって、パーティーホールがある豪奢な洋館が、トッシュのお給料で買えたということは、つまり、そういうことだ。超曰く付き物件なのだ。

 ゾンビと共存するしかない。


 レインが指を2つ立てる。


「対策は2つ。まずは、毎日ゾンビを倒すこと。これは、トッシュ先輩のスキルや、シルちゃんのスキルで対処可能です。ゾンビは毎日同じ場所に現れ、同じ行動を取ります。夜間の行動範囲がこことトイレの往復なら、問題ないでしょう。ゲーム世界がベースになっているなら、出現する数も位置も毎回ほぼ同じです」


「怖いのやだ……」


「次の対策は、このホラーハウスを攻略することです。ゲームイベントが発生している時間、つまり、ゾンビが出る時間帯のうちに洋館を隅々まで捜索して、ボスモンスターを倒します。ただし、それ以降、ゾンビが出なくなるか、ゾンビが大量に増えるかは分かりません」


 レインはチラッとトッシュの様子を窺う。

 トッシュが、うんと肯くのを見て、レインは頬を緩ませた。


 いまレインがしたような説明も、トッシュやレイン達の所属していた異世界転生者支援ギルドのお仕事の一つだ。だいたい、生活支援課が担当することが多い。

 そして、武力が必要になったら、トッシュたち戦闘支援課の出番だ。


 トッシュは後輩の成長姿を見れて嬉しく思った。

 レインが泊まると決まったときから、すべて任せてみることにしていた。


 クビになったトッシュがギルドに心残りがあるとしたら、自分が初めて受け持った後輩の、レインだ。


 ロンやリオンはしっかりしているから大丈夫だろうが、レインは怪しい。

 なんかすぐに「おぎゃああああっ!」と幼児退行したかのような悲鳴をあげるし、腰をくねくねさせながら「えへへー」と笑いだしたりする。


 しどろもどろになって何を言っているのか分からなくなることもあるし、すぐに体調を崩すのか顔を赤くしていることが多い。


 危なっかしいのだ。


 それはもちろん、好きな異性が近くに居るからこそみせる反応だが、朴念仁トッシュはそんなこと気付いていない。


 トッシュの目がないところではレインはまじめな分、新人時代の不真面目なトッシュよりも優秀なのだが……。


「シルちゃん。どうします。このホラーハウスを攻略するなら、私に任せてください」


 ベッドの脇にはギターケースが置いてある。日本では所持が認められていない物なので、日本在住のレインは武器を隠し持つ。


「ゾンビ、怖い……。でも、可哀相」


「……可哀相?」


「生きていたんだよね?」


「……そうですね」


「ゾンビは元に戻せないの?」


「私のスキルは破壊専門なので無理です」


「……トッシュのスキルで治せないの?」


「え? 俺? 無理だよ。ステータスを変えることは出来ても、種族は変えられない。ゾンビはもう、人間じゃなくてゾンビなんだよ」


「……そうなんだ」


「やっぱ地味に使えないスキルだなとか思ってない? そんなことないよ。超凄いんだよ?」


「え、えへへ、トッシュすごーい」


 シルが力なく笑った。


「ぐぬぬ……」


 夕方以降シルの「すごーい」を聞いていないトッシュは歯がみした。


「しょうがないですよ。モンスターだと割り切って退治して、この屋敷を攻略しましょう。ゾンビが100体現れるエンディングだったとしても、トッシュ先輩ならなんとかしますし」


「えー」


「それにマッドサイエンティストが人体実験で作りだした巨大生物兵器とかが出てこない限り、私のスキルでもなんとかなりますし」


「やめろ、フラグを立てるな。巨大生物兵器が出てきたらどうする」


「トッシュ先輩が心配しないように、私の成長した姿、お見せしますよ」


 レインが立ち上がり胸を張る。イルカの尻尾みたいに先が別れた毛先が、クビの後ろでぴょこんと跳ねた。


 こうして3人はホラーハウス攻略に乗りだすこととなる。


 しかし、すぐに予期せぬ事態になるのであった。

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