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上方びいどろ  作者: 前野羊子


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六拾九【巻き戻り】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 瑠璃が蚊帳をめくって布団に入るときにはちゃっかりシマオも入っていたが。

 猫というのは羨ましいものである。


 すうぅすうぅ

 穏やかな寝息を衝立越しに聞きながら、数日前からのことを思い出す。


 

 柿の木の長屋に戻った百沙衛門は、瑠璃がそこを手配した時から目明しの松助に頻繁に会っていた。

 何しろ三和土の横の壁をぶち抜く必要があったからだ。

 大工が長屋の壁を開けている様子を眺めながら、二人の十手もちが話していた。

 瑠璃は長屋の縁側に近い部屋で、お染と縫物をしていた。


 それとは別にめぼしい所に探りをいれてもらっていたのだ。

 

「百に言われた通り、岡っ引きたちに聞いたところ、河沿いの木賃宿には牢人らしい人足が増えているんだと」


「牢人だと?」


「人足をするには力があるらしいが、偉そうで使いづらいともっぱらの評判だ。

 しかもそいつら同士で話していたら、何の話か分からねぇんでさ」


「わかった、聞けるやつを連れてくる」


 北町奉行所に戻った百沙衛門は、奉行の河口に、八戸藩の出身の同心を貸してもらう。 奇しくも長屋の家主を知ってる者だった。丁度ぶち抜いた壁も見てもらっていた。


「なるほど、ここの壁を取り払ったと」

「高米殿すまぬな」

「なんの、藤岡様の大坂行きに着いて行けなかった某にはこれぐらいなんてことはない。それに、家主はもう高齢でな、ここを確認しにはるばる来ることはかなわぬて」


 高米幸也(たかごめゆきなり)は八戸藩出身の北町奉行所の同心で、元は百沙衛門の父の部下であったが、大坂に着いて行っては八戸への里帰りが出来なくなると、江戸に留まって、今は河口の下でそのまま北町奉行所の同心をやっているのだ。

 もちろん、まだ北町奉行だった父のもとに見習いの与力として奉行所に出入りしていた百沙衛門ともなじみの役人である。

 なじみと言っても父と同じ世代だ。


 さて、松助を伴って、百沙衛門と高米は件の人足口入屋が複数ある河原にやってきた。

 人足口入屋は、仕事を求めてやってきた者に力仕事や汚れるような仕事などをあっせんして日当を渡す所だ。

 各地から江戸へ仕事を求めてやってくるものも、良い職につけなければ、女郎屋や人足の口入屋を訪ねなくては、生活に困るのである。


「これは高米様と…そちらは?」

 中からは、相撲取りかというようながっちりした風体の男が出てきた。

 両袖を肩までまくり上げて、肘まである刺青を見せた腕も、筋骨隆々である。


「こちらは先の北町奉行の藤岡様のご嫡男の百沙衛門様である」

「これはこれは、口入屋の一つを切り盛りしている、三福と申します。

藤岡様が江戸に戻ってこられているので?」

 一見破落戸に見えるが、上の者へのやり取りはしっかりできるようだ。逆に松助より丁寧な所作かもしれぬ。


「いや、某は大坂の公儀でこちらに来ているのだが、今は江戸の町が危険に晒されているのが分かっていて、動いているのだ」


「どういう事で?」

「奥羽あたりの改易された藩主に使えていた侍たちが、上様を逆恨みしていてな、大坂で根城にしていた呉服屋で大量の武器や弾薬を集めておって」

「なんと!」

「大坂の者達は捕らえて、物騒なものも処理したのだ。

 しかし奥羽はどちらかというと江戸より北東であろう?まだこちらに向かって武器が集まってきているという……」

「ふむ」

「しかし、武器が多くても使うやつがおらねば何ともならぬが……」

「そういえば、あちら訛りの人足が増えているのは確かです」

「その話も、この目明しから聞いていて」

 松助が頷くのに、三福も頷いている。


「そんなわけで、某は松助と付近の人足に聞いてくるよ」

「はい、頼みます」


 高米が出ていく。


「で、藤岡様はあっしになにか?」

「うむ、三福には、ことが終わるまでこれを預かってもらおうと思うてな」

 と房の無い十手を渡す。


「なんと」

「人足として集まっておっても、武士だったものが問題を起こせばなかなか大変なのではないか。お主は力がありそうではあるが」

「そうなんですよ!

 あっしのこれは、見掛け倒しってなもんでさ」

「そうか?そうは見えぬがまあ良い。

 なにか、危ないものを持ち込んでいたり、江戸の街に被害を及ぼすような動きをみたら、十手を見せてでも押さえてほしい。

 大坂の話は聞かなかったことにしてくれ」

「へい」

「ああ、これも渡しておこう」

 と呼子の笛も渡す。結構長い紐がついているので、太そうな三福の首にも掛けられるだろう。

「もちろん、他の目明しもこちらに回ってくるように言っておく。これを吹けば、援けも行くだろう」


「火付けの現場とかでも良いので?」

「もちろんだ、なにしろ、大坂で集めていたのは大量の鉄砲と弾薬だったのだ」

「それを江戸に持ち込もうと?」

「おそらくな。

 陸路なら関所を通らねばならぬが、大坂の河から船で海に出れば出来ぬことはないもしれぬしな」


「ひっ」

 三福は、相撲取りのような体を縮めて、右手で左の二の腕を擦ってる。


「まあ、何かあったら他の目明しや北町奉行所の同心に伝えてやってくれ。多少の謝礼は出るだろう。

 ……これは前金で渡しておこう」


 と、懐から小判を一枚さっと出して渡す。


 すると、三福はしゃきっと背を伸ばしてから、

「ははっ、がんばります!

 なにしろ、江戸の町がめちゃくちゃになったら、あっしも困りやすんで」

 と小判を掲げ持ちながら言う。


「さっさと仕舞え」

「へいっ」


「前の大火の時は仕事が多かったんじゃないのか?」

「あんなもなぁ、殆ど只働きですよ」

「そうか。三福が引き受けてくれたことは、北町の河口奉行にも伝えておくよ」

「へい。宜しくお願いしやす」

「こっちこそ、たのんだよ」


 口入屋を出て辺りを見渡すと、太鼓橋の欄干の下に高米と松助がすこし腰をかがめて立っていた。

 橋の上には、ほっかむりをしたやたら姿勢の良い人足が米俵を二つ両肩にかついで歩いている。その傍らには同じような荷物を持った人足。こちらは諸肌脱いで、刺青が見えている。

 刺青のある武士はなかなか少ないので、あれは町人かもしれないな。


 二人の人足の向こう側にもう一人背の高い男がいる。

ざんばら髪を無造作に首の後ろで括っていて、髭が伸びている。見てくれは人足のようだが、それも姿勢が良い。


 ほっかむりの男と背の高い男が話しているようだ。


 橋の袂で、同心が聞き耳を立てているとも知らずに。


 夏の日差しは強くて、余計に欄干の影が黒い。墨染の絽の羽織の同心をうまく隠している。

 高米の足下にしゃがみ込んでいる松助。

 もともと、二人で動くことも多いらしい。


 人足達の調べを二人に任せて、百沙衛門は長屋に戻る。


「おや、お帰りなさいませ」

 しかし、縁側にいたのはお染だけだった。

 お染の膝には、今朝から瑠璃が着ていた着物があって、畳もうとしている所だった。


「瑠璃は?」

「なにやら呼び出されたようですよ」

 と、竹垣の向こうのえびす屋ではなく、斜めの空を見上げる。


「そうか、入れ違いか」

「そのようですね」


「奉行所に行ってくる。お染はどうするのだ?呉服屋に帰るか?」

「あちらに帰ってもすることは無いですしね、瑠璃様の縫いものの続きをして待ってますよ」

「そうか」


 確かに、畳には瑠璃と一緒に買った布が切り取られて広げられていた。

 いつも暇さえあれば小遣いにもならぬのに、百沙衛門や瑠璃に着物を仕立てているぐらい、縫物の好きなお染にはそれが落ち着けるのだろう。

 

 北町奉行所にたどり着くと、同心に引き継ぐように別の与力が出てきて裏の座敷まで案内される。

 ここには、与力以上の者しか出入りしない。同心が入るときは急を要するか許された時だけだ


 そこに座る河口奉行から告げられた。


「は?瑠璃殿を奥羽街道へ?一人で?」

 思わず取り乱して叫んでしまう。こうして置いてきぼりをくらわされるたびに、驚いてしまう。

 初めてではないというのに。


「うむ、一応勘三殿を先に出立させておる」

 河口宗和が済まなさそうな顔で伝えてくる。

「老中からの直接の通告じゃったのだ」


 瑠璃は、老中直属の忍びだからそれはありえるが、剣の腕は立っても、小さい女子(おなご)の体だ。ヒョイと抱えられて連れ去られそうである。


「その間に、我ら、町奉行としては、だて屋とえびす屋をさらに注視し、取り締まるときは北も南も力を合わせて取り掛かるようにと言われている。

 何しろ、前の大老が残した遺恨だからな。

 改易させたとは言え、町人の動きとは違うだろう」


「はい、大坂での動きも相当でした」

 呉服屋の土蔵で見た光景を思い出して、思わず膝に置いた両こぶしを握りこむ。

「うむ」

「ただし、早まってはいかぬ、奥羽からの侍が到着して集まったところで捕らえるのだ」

「はい」

「伊賀者からの知らせによると、他からも牢人が集まってきているという話だ」

「そうなのですね。人足口入屋もそんなことを言っておりました」

「で?その口入屋には」

「はい、三福という男なんですが、松助が行ってた通りなかなか使えそうなので、お奉行に言われたように十手を預けてきました」

「うむ」


 そのまま目をつぶって思案する河口を黙って見守っていると、


「旦那様、高米さんが戻られました」

 河口の嫁のお香が告げると、

「ここまで通してくれ」

「かしこまりました」


 前北町奉行のころからの古株同心は、初めてではないだろう奥の部屋に緊張の面持ちで入ってきた。


 高米は、廊下でもある広縁に座ると、告げる。


「日本橋の人足の中には確かに武士らしいものがおりまして、奥羽の言葉で話しておりました」

「完全にあちらの言葉で話されたら江戸の者には理解しにくいからの。

 して内容は」

「奥州街道からの荷物の到着と共にえびす屋とだて屋に集まるようにと」

「やはり」


「それはいつ江戸に着くのだ?」

「百沙衛門、その怪しげな荷物がこちらに向かっているからと連絡があったので、勘三と瑠璃姫に向かってもらっているのだ」

「では、瑠璃はその奥羽の者達と接触する可能性が?」

「うむ。二人はその荷物の内容を調べる事、本当にえびす屋とだて屋に向かってるのかを確認することになっている」


「はい、了解いたしました」


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