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上方びいどろ  作者: 前野羊子


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六拾七【府中宿で餅】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「えー。るりひめかえっちゃったの?あんまりあそんでもらえなかったのにぃ!」

「僕もせめてお別れのご挨拶がしたかったです」


 羽盛家の朝餉の席では二人の子供が騒いでる。

「これ、二人とも。それ以上騒ぐなら、晩御飯はいらぬのですね」

「「!」」


 食べ盛りの育ちざかりに効く一言を母親のお銀に言われて黙る。


「瑠璃姫は、大変なお役目を抱えておられるのです。

 お前たちもしっかり勉強や武芸に勤めて、立派な大人になれば、瑠璃姫と一緒に仕事が出来るやもしれませんよ」

「一緒に仕事?」

「ええ」

「瑠璃姫の仕事って何?」

「瑠璃姫は紫色の十手を老中様から預かっているのです」


「女だてらに与力なのですか?」

「与力もするって事らしいです」

「るりちゃんかっこいい!」

「そうですね。

 あの、毘沙門天の虎と言われて、江戸の道場では負けなしの、藤岡百沙衛門殿が勝てないそうですよ」

「すごーい」

「僕も、今日は道場で剣の稽古です。頑張ります」

「がんばります!」

 すっかり良い子になった二人がお膳のご飯を食べ始める。


「その意気です。まずは稽古に備えて、沢山食べなさい」

「「はい!」」


 それより早く日の出の時分、日本橋の太鼓橋を渡り切った東海道の入り口で、二人の父親の羽盛義直が見送りに出ていた。


「輿入れには、老中と大坂に行くからな。その時また会おう」

「それなら、直ぐですね」

「だと良いのですけど」

「ははは、百沙衛門、気が急くのは分かるけど、幕府としてはまだ瑠璃には頑張ってもらいたいからな」

「病み上がりですよ?」


「百沙衛門殿、拙者はこの通り、もうすっかり元気になったでござる」

 そう言うと拳骨をつくり、肘を曲げて、反対の手で二の腕を抑える。ドヤと言わんばかりのその姿は、百沙衛門の元服前に来ていた着物と袴を着こみ、男物の手甲と脚絆を着けて、男物の菅笠を後ろにぶら下げている。

 頭も総髪を後ろで馬の尾のように結んだ若侍姿だ。

 腰には柄袋に覆われた大小の刀。

 脇差の方は刀に見えて小銭が入っているのだが。

 持ち上げている腕が袖に隠れてても細いのが分かる。


 橋の袂の自身番では、北町奉行と、二頭の馬の手綱を引いている手下の同心もいる。


「では、大坂の街を頼みますぞ」

「「はい」」


 二人がひらりと馬に乗る。


「では御免」

「達者でな」


 ニャア


 当然のように瑠璃の懐で鳴くシマオ。


 ◆◇◇◆


 紫の十手と老中の手による道中手形で、女の身ではありえないほどあっさりと箱根の関所を抜けた瑠璃と、百沙衛門。


「ここまで来ると富士の山が大きいですな。来るときも思いましたが」

「そうだな」

「江戸からも見ましたが、よくあるような雪が積もったお姿ではないのが残念です」

「夏はさすがに雪はまれだぞ。まあ父上が江戸にもどるときは見れるだろう」

 一緒に戻るときは、もう夫婦になった後だ。

「そ、そう言えばそうかもしれませんな」


 時折、他の旅人とすれ違うことはあるが、馬上なんだし、若侍の口調を無理にしなくては?と思う百沙衛門だが、多少楽しんでる節もあるのでそのままにしている。


 関所で馬を取り換えて再び駆け始める。


 パカラッパカラッパカラッパカラッ


 三日前には熱を出して寝込んでいたとは思えない休まずに馬を駆る瑠璃に舌を巻く。


 馬を休ませるために歩かせながら東海道を行く。


「瑠璃、江戸から大坂に向かうには東海道以外にも街道があるよな。

 中山道は老中から御庭番が配備されたらしいが、甲州街道ってものあるだろう?」


「藤盛の叔父が言うには、甲州街道には勘三叔父の妹の翡翠叔母さんが潜んでるらしいから」

「翡翠?」

「私の忍びの師匠でもあるのだ。先日も奥州街道で飯盛り女に混ざっていたから久しぶりに会えた」

「ふうん瑠璃の武術は普通の道場で学んだと聞いたが」

「そうだな、こうやって侍の格好をするなら、普通の剣術や体術を身に着けておかねば様にならぬだろう?」

「なるほどそれで?」

「忍びならではの私の得意な苦無や手裏剣の扱いを稽古したりは、また別だからな」

「……俺も、苦無や手裏剣をやってみたいなぁ」

「やめておけ」

「何故」

「武士は剣を使ってこそじゃないか」

「まあ、そうだが、実際は剣より十手の方が使うだろ?」

「それはご公儀のお役目のためだろ」

「それに、俺はあんなきれいに竹垣に穴を開けられる自信はないよ」

「唯の居合だが」


「色々片付いたら、もっとまじめに道場に行くかな」

「そうだな。私も少し寝込んでいたので、鈍った気がするのだ」

「瑠璃も道場に行くのか?」

「機会があれば」


 まさか、嫁に来ても剣を握るつもり…なんだろうな。


 青々と茂る田んぼに挟まれた街道を馬で行く。


〈府中宿〉が近づいてきたのか、建物が少し増えてきた。


「安倍川餅!」

 さっそく瑠璃への誘惑の幟を見つける。


「買っていくか?」

「いいな、泊まる宿にはないかもしれぬからな。普通の旅籠ならあると思うが」

「脇本陣でいいのか?本陣でなく」

 府中宿には本陣だけでも二つあるので一つは空いているはずなのだ。


「もちろんだ、木賃宿でもいいのだが」

「それは俺が嫌だ」

「しょうがないな」


 どうやら宿場町の門が見えてきたので、二人は馬を降り、門の者に問屋場を聞いて目指す。

 

「馬を預かってくれ、朝、取り換えてくれてもいいのだが」

 問屋場で百沙衛門が伝馬朱印状を見せている。

「はい承っております。今夜は脇本陣にお泊りだとか」

「うむ」

「では、こちらの図の脇本陣を手配させて頂いておりますので、この前の道の其方になります」

「あい分かった」


 瑠璃は塗りの菅笠をかぶったまま、一言も話さない。

 

 問屋場を離れたが、瑠璃の方が勝手知ったる様子で、一つの茶屋を目指している。


「おいおい、どこに行くのだ」

「安倍川餅を食さねばならぬからな」

「ならぬって……」

「明日の朝では開いておらぬのだ」

「どうして知ってる」

「来るときにそうだったから」

「なるほど、で、食べたいと」

「うむ」


 この後、脇本陣に泊まるというのに、とんだ食い気だ。あちらでも数々の料理が並ぶはずなのだが。


 お目当ての茶屋で頬を緩めて一つ目の安倍川餅を食べる瑠璃を微笑ましく見る。

 瑠璃の袴の膝では、シマオが干した小魚を食んでいる。


「瑠璃…もう少し大きな口を開けて食さねば男らしくないぞ」

「へ?は?いや誠か」

「この位…」

 あーんと瑠璃に見られながら大きな口で小ぶりな餅を食べる百沙衛門。

 すこし驚くような目でみる。

「気が付かなかった」

 瑠璃の前でものを食べるなんて今更だというのに。


「ほら、小さな口で食べるものだから、頬にきな粉がついているぞ」

 畳んだ手拭いを袂から出して口の周りを拭いてやる。

「あ、かたじけない」


 耳が赤くなるのが愛おしい。

 侍の格好をしているから、どの程度擦れがいいのか余計に分からぬな。

 はたからすれば贅沢な悩みの百沙衛門である。

 


「百様は、東次郎殿の兄上だから面倒見がよいですね」

「あいつとは三つしか変わらぬし、二人で出かける時は母上か、爺やや婆やがいたからな、俺が世話を焼くことはないぞ?」

「そうなのですか?」

「もしや、瑠璃は珊瑚姫に世話を焼かれていたのか?」

 羽森家では末子だと聞いている。

「そうですね、姉上は何かと私の世話をして下さいました」

「……祝言に間に合わなくて申し訳なかったな」

「元はと言えば、私が色々うろうろしたからですし」

 困った方な顔を宥めるように背中を軽く叩く。


「うむ。でもそれで江戸の街が救われたのだからな」

「そう思ってくれたなら、良いですけど」


 番茶を飲み干して、脇本陣に行く。


「あそこに泊まるのは初めてではないのです。だから私のことを知ってくれてます」

「そうなのか?」

「はい」


 確かに迷わずに歩いていく。


 隣の本陣よりは幾分小ぶりではあるが、立派な門をくぐると亭主が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ羽森様、藤岡様」


「うむ」

「世話になる」

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