六拾弐【雨も滴る立廻り】
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ザバァッ ザバァッ ザバァッ
「うわぁ火が消えた」
天水桶から水を持ってきた同心が松明に次々と水を掛けている。
「この嵐で、そのようなものはご法度だ」
北町奉行の同心が叫ぶ様子を見て少し安心した瑠璃は、そのままえびす屋の屋根を飛び出して、だて屋の屋根に移る。
ザー雨が降り出した。
外用の足袋にいくら刺子をしていても、屋根の上は濡れると滑る。
カッカッカッカッ
「っとと」
嵐の中でこんなところから落ちたら、いくら猫でも怪我をする。
「おっと待て!」
同心の一人が叫んでいる。
うちのこと?
あ、違った。
町方がなだれ込んできた東と反対の方向、西に向かって一つの光が走っていくのが見えた。
誰かひとり逃した?
瑠璃は先回りをしようと、屋根を斜めに渡っていく。
風と共に雨が横殴りに被っている手拭いに打ち付けてきた。
結局邪魔やな
手拭いを取り去って懐に仕舞う。
冷たっ
公家の姫とは思えないほどの身軽さで、瞬く間に逃げている男の八間先へ飛び降りる。
「な、なんだ?
どけ!」
叫ばれるのも構わず、二の腕もあらわに右手をしなやかに振り抜く。
ヒュッ ドスッ
暗闇から飛んで行った苦無が坂伊利直の膝に刺さる。
「うわぁっ」
ズシャー
倒れた男の手から松明が瑠璃に向かって飛んでくる。
「おっと」
それを十手で払い落す。
「な…ガキ?目明し?にしてはその十手の房の色は何だ…?」
「うちこそ吃驚です。久しぶりですね、浪速のえびす屋の番頭はん。お侍さんやったんですね」
「は?女?
……何のことだ?」
「時々お隣のよしの屋さんで日雇いをしてた瑠璃ですよ。何度かご挨拶したやん」
「な、瑠璃ぃ?どうして江戸の目明しをしているんだ」
「目明しちゃうけど。
うちのことはどうでもいいんよ……っと与力様が追いついてきたね。
きちっと年貢を納めるんやで番頭はん」
御用だ御用だ
バタバタバタバタ
「くそっ」
「おっと。うちはあっちも見に行かな」
一人の与力と視線が合ったので頷いてから再び屋根へ跳び乗る。
再び斜めに跳んで進みながらだて屋の近くへ。
御用だ御用だ
今度は京橋の方から捕り方たちの声が近づいてきている。
嵐の音にかき消されそうになっているけど、もう近くまで来ている。
「南町奉行所である、不穏の企ての嫌疑があり検めに入る、神妙にしろ」
その声に備えるために、今度は日本橋寄りに走って行って、饅頭の茶屋の前に跳び下りる。
「瑠璃」
勘三に声をかけられる。
「はい」
「坂伊利直は?」
「捕らえられました」
「よし」
バシャバシャバシャバシャ
ガラガラガラ
もはや水たまりが増えてきた道に大八車を曳く侍がやってくる。
そこには三つに減った俵。
「とまれ!」
立ちふさがる勘三。
「何だお前は、どけ」
「止まりなさい!八木橋殿」
瑠璃も勘三の隣に並んで両手を広げる。
「退け小僧」
弥市もいる。
「どきません弥市さん、いや、福山下弥市」
弥市は人足姿のまま腰に刀を差していた。
「何だ小僧!退かぬと切るぞ」
「退きません!」
「瑠璃、これを!」
勘三が横から大刀を渡してくる。
それを腰に差す。
「瑠璃だと?」
「八木橋殿、福山下殿、あなた方は何をしようとしているのですか?」
「我々の殿、坂伊保志の無念を晴らすため徳川綱吉を弑し奉るのだ!」
「……そのためには他の民衆が、どうなっても良いというのですか」
「致し方ない」
「それは、誰の指示でされているのですか?
お二人の意志ではないでしょう!」
「殿の孫だ」
「まさか坂伊利直ですか?」
「なぜそれを」
「彼はもう捕らえられています」
「何と……」
「お二人は何故、大老の家を改易されたのかご存じないのですか?」
「殿は、幼くして将軍におなり遊ばされた家綱様を、領地も顧みずお国のために尽くし見事大老の任を務めていたと聞いておる。
なのに、綱吉はそんな殿を殺め、改易させたと……」
「坂伊利直殿は病死です」
「そんなわけはない!」
「瑠璃、そこを退け」
「この大嵐じゃ、そのすすき花火は役に立ちませんよ。
坂伊利直殿の松明を火種にするつもりだったのかも知れないけれど、皆捕まったしね」
「……このような町中で火をつけるわけはなかろう!」
「江戸城に入ってからに決まってる」
二人の男が叫ぶ。
「小僧、そこを退け」
「退かねばお前も切り捨てる」
刷り込まれたお役目からの狂気か、もはや二人は周りが見えていないかもしれない。
現に勘三が二人が手を離した大八車を、だて屋に向かって下げていっている。
「仕方が無いですね。
では私がまず、貴方達があの堅固な守りの城に入れるか見てあげましょう」
刀の柄に手をかける。
一呼吸おいて二人の男も刀に手をかける
「勝負!」
「「うぉお」」
刀を抜いて返す手で二人に向かう。
キィン ドスッ
ガキン バキッ
「うう」
「っつぅ」
ドシャ ドシャ
男たちが雨の地面に倒れていく。
二本の刀がそれぞれ水の上を別方向に回転しながらはじけていく。
わ、誰もいない?……よね、良かったぁ。
バチャバチャバチャバチャ
「瑠璃ッ」
「百様!」
「……まさか?殺ったのか?」
「峰打ちですよぉ、そんな恐ろしい」
「南町奉行所である神妙にしろ」
「おいっ立て」
「だて屋のほうのあの番頭は?」
「捕らえたよ」
「はっ二人の農夫は?」
「農夫?」
「奥羽から長芋を運んでると疑ってなかった二人だよ」
「?はて、だて屋には侍しかいなかったぞ?」
「そんな」
思わず同心に引き立てられていく八木橋の方にいく。
「福山下殿、二人の農夫は何処にやったんですか?」
「……」
瑠璃を睨むばかりで何も言わない。
「八木橋殿」
「あいつらは今頃もう……」
「そんな」
「瑠璃、どうした?もう片付いたから早く帰るんだ、牢人たちは皆捕まえたぞ」
「百沙衛門様」
「こんなに濡れて、いくら瑠璃が強くても風邪をひいてしまう」
「だけど、二人の農夫が見当たらなくて……」
「農夫?」
「あの二人か」
勘三も聞いてくる。
「よし、俺がだて屋を見て来るよ。丁度中を検めていると思うしな」
「じゃあ、うちはえびす屋の方を」
「なら俺もそちらを……」
「藤岡様!」
同心が叫んでいる。
「百様、まだお役目が終わってへんのやおへんか?」
「う……そうだけど」
「もう少しやから、おきばりやす」
「わかった、瑠璃も気を付けて」
「もちろんや」
馬の尻尾になっている髪を絞る。
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