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上方びいどろ  作者: 前野羊子


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六拾壱【屋根伝い】

ep.67 落丁しておりました、よろしければちょこっと戻ってお読みくださいませ!

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 斜め向かいの軒先には雨宿り風の勘三が立っている。

 もうすでに旅装は着がえて、只の町人だ。


 大八車がだて屋に入ったのを確認した瑠璃は、勘三の目配せに踵を返して長屋に向かう。


「ただいま。およね婆さん」

 木戸番では老婆が不安そうに扉の隙間から外をのぞいていた。


「おるりちゃん良かった、嵐が来るよ、早く家に入りな」

「はい!」

「おう、お瑠璃お帰り」

 目明しの松助が長屋の方からやってきた。

「ただいま」

「福禄屋の大女将がいるよ」

「へ?嵐が来るって皆言ってるのに」

「お前が帰ってくるって分かってるからか、さっきから井戸水組んで、湯を沸かしてたぜ」

「まあ大変」


 歩き通しだった疲れも忘れて駆けていく。


 長屋に行くと相変わらず柿の木の方の家には閂がかかっている。


 その隣を開ける。


 ガラリ


「ただいまお染さん」

「まあまあお帰りなさい」


 ぐいっ


「わわわっ」

 三和土の隣に引き込まれていく。

 

「ちょ、百様!」

「……ご苦労だった」

「付いて来ただけですえ」

「うん」

「もう、一日とはいえ旅で汚れてるんやから!」

 構わずにぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。


「ちょっとだけ」

「もう、お染さんがそこにいるのに!」


「そうですよ旦那様、しつこいと嫌われてしまいますよ」

「う、そうだな」


 開いたままの扉の方を締めながら、お染が上がり框の前に置いた桶を示す。

「足を洗いましょうね、瑠璃さん」

「お染さん自分でするから」

「いいからいいから、急ぐんでしょ」

「そうだけど」


 観念して板張りに座ると、お染が前でしゃがんで、草鞋や足甲の紐を外していってくれる。

 確かに、ずっと小走りだった足に少し食い込んだ紐は外れにくくなっている。


「はい、脱げましたよ、縁側の方にお湯を用意してるから」

「おおきに。流石や」

 タイミングばっちり!

 足は自分で洗う。座っている横にはすでに手拭いも置いてくれている。


 その間に今度は百沙衛門が大小刀を腰に差し、紫の十手も見えるように一緒に差して、いた。


「百様その恰好……」

「ああ、今は北町の与力ってことでね」

「なるほど」

「瑠璃、大坂のえびす屋の例の台所や土蔵から出てきた書類から、この裏の家を建てた時の証文と図面が出てきたと東次郎から知らせが来た」

「まあ、やっぱりそうなのね」

 お染がつぶやく。


「そして、これが合い鍵」

「合鍵まで大坂にあったんや」

「ああ」

「取り換えられていなければこれで」


 いよいよやな。


「先に出る」

「気を付けて」


 瑠璃も縁側に出て、着物を脱ぎ、お染が用意してくれた湯で一度身体を清めてから、股引きと外歩き用の足袋を履き、晒をしっかり胴に巻いてから、用意しておいた薄墨の襦袢と藍染の男物の江戸小紋を着て角帯を締める。

 そしてキリリとたすき掛け。

 腰帯に紫の房の十手。


 にゃあ

「トラオ、いい子に待っててな」

 顔の周りをなでてやるとゴロゴロいう。

 空の雷様に比べればなんと可愛らしい事か。


「瑠璃さんも出るの?」

 頭を総髪にして馬の尻尾に結い整えてくれながらお染が心配そうに言う。

「たぶん…」


 ばたばたばた……

「やっと来たか」

「やるぞ!」


 えびす屋が騒がしくなっている。

 瑠璃はこれも藍染の手拭いを頭に被って顎で結び、着たばかりの着物の裾を襦袢ごと絡げて尻で引っ掛ける。


 その後ろでカチカチと火打石の音がする。

「ありがとお染さん」

「気を付けるのよ!」


 そのまま縁側から飛び出していく。


 外はまだ小雨だけど、もしかして江戸城の向こう側は降り始めているかもしれないな。


 まだ夕方だけど、雨で薄暗い。

 瑠璃はそのままえびす屋の屋根に上って、玄関の方に行くと明るい光がみえる。


「ようやく奥羽から待ってたものが来た。さあ早速行くぞ!」


 えびす屋の前には十人ぐらいの侍がいた。その中心には侍の姿の坂伊利直。

 浪速の呉服屋で見かけた人と同じには見えないけれど、左眉の傷は上から確認できた。何しろ松明で照らされていたのだから。そして薄暗い屋根の上の瑠璃に気が付いていない。

 左眉の傷、あれはおよね婆さんがいってた、疱瘡の跡だったのだろう。


 松明を持つ侍はあと二人。


「細い路地に松明三つはないわ」


 思わず上から天水桶の場所を確認する。


 びゅう


 風は相変わらず強い。相変わらず松明の炎が異様に激しく揺れているが消える様子はない。


 ギリ……再びえびす屋から何かが出てきたと思ったら、小さめの大八車に蓋の空いた長持が括りつけられていて、そこには夥しい槍が入れられていた。


 中からさらに人が出てきて槍を手に取っていく。


「槍を持つ人があんなにいるっての?」


 御用だ御用だ

 御用だ御用だ


 北町奉行所の方から、捕り方の声がしている。

 あれはだて屋を抑えるためで、きっと百沙衛門もそちらに回っているはずだ、だが…


 屋根の上から瑠璃が呼子の笛を吹く。


 ピィー ピィー


「な!なんだ?」

「利直様、屋根の上に!」

「なに!忍びか?」

「何やつ!」


 二人の侍が同時に瑠璃に向かって槍を投げてきた。


 カカン コン

 それを十手でいなしているうちに、呼子に気が付いた捕り方が一部、路地に流れ込んできた。


 御用だ御用だ

 御用だ御用だ


「くそ、なんだ!おい」

「捕り方だと!」


 複数の提灯の明かりが見えてほっとする。


「北町奉行所である、お達しによりこの家も調べに参ったが……その大量の槍は何だ。

 その上この嵐の中に松明とは!火付けのつもりか!」


 江戸北町奉行所や河口の屋敷に出入りしていた与力と同心たちがやってきた。

 その数三十人ほど、狭いえびす屋の前の路地は槍を持った人と町方で溢れている。


 あれ?百様はこっちじゃないの?


 本来嵐に備えていたからか、路地には他には外に出る人はいなかった。


「嵐でよかったのかもしれないね」


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