六拾【嵐の前の】
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
怪しい長芋の大八車の後ろで、与三が瑠璃に話しかけている。
「おるりちゃんはまだ権現様をお参りしたことがながったんだ」
「はい、行きたいと思うんですけど、方向が逆でしょう」
「だけど、栗林からはそう遠くはないよ。おいらも初めて通ったけどそりゃああの門は極楽浄土の入り口かってぐらい凄くて」
「まあ…ふふふ」
千住宿に着いた。
ここでは少しお昼に休むらしくて、瑠璃も当然のように一緒に休憩する。
「るり、少し聞いても良いか?」
与三が憚りに離れた時に、弥市が話して来た。
「何でしょう」
「お前が持っている杖はどうしたんだ?普通の旅の杖とは少し違うような」
「ばれました?これ、栗林の関所で人見女のお婆さんに貰って……」
「栗林で?」
「なんでも、三年前に通った女性から預かったと。
これ少し重いですからね」
「で、なぜその重い杖をお前が持っているのだ?」
「杖なしで一人で歩いているものだから、護身用に持っていけと言われて……
人見女さんって怖いって思ってたから驚きましたが。嬉しかったです
……それが何か?」
「いや」
「この赤い房の杖の人に心当たり有るのですか?」
「……前に、それに似た杖をもった旅の女にあったことが会って、だがそれがただの女でなくて」
「ただの女じゃない?」
「盛岡の遊郭から出てきたと言ってた女だが、津軽の中川流のということで……」
「津軽……」
少し考えるふりをしてから続ける。
「は、凄い寒い所と聞いてます」
「ああ、雪深いからな」
「中川流ってなんですの?寒いお郷にお華とかお茶とか?あるのでしょうか」
「あ、いやそうじゃない。忘れろ」
津軽の中川流と言えば、忍びの一派じゃなかったかしら……
雪の中でも動けると聞いたことがあるわね。
「旅の女の持ち物まで覚えてるなんて、その方は美しい人だったのですか?」
「あ、いや、私の知り合いがたまたまそれと一緒に旅に出て。
杖を見たから思い出していただけだ」
「そうなんですね。こっちの方に旅に出ていらっしゃったなら会えるといいですね」
「……そうだな」
「お知り合いはどちらに行かれたんですか?江戸なのですか」
「紀州に行くと……」
「奥羽からですか?」
「ああ」
「それはかなり遠いですねぇ」
「紀州が何処か分かっているのか?」
「東海道の双六で遊んだことがあって、裏が地図になっていて。
……あの絵だと浪速のもっともっと南ですよね」
「そうだ」
「弥市さんは浪速や紀州には行かれないんですか?」
「……遠いからな。かなり金子を溜めなくては無理だろ」
「そうですね」
「だから、江戸についたら仕事を探すつもりさ」
行くつもりではいるのかしら。
「その女の人の名前は何ていいますの?」
「源氏名しか知らぬが…玉むしと言って……」
源氏名は変えないのね……津軽や盛岡でよっぽど有名なお家の出なのかしら。
「玉むしさんって他にもありそうな名前ですね」
「たしかにな」
休憩にと入った千住宿の茶屋の座敷で並んで盛りそばを食べていた。
まだ飲むような食べ方は出来ない。
与三と久助は交代で荷物の番。
最初は警戒していた弥市も会話を返すようになってきた。
日本橋に着く前に少しでも聞いておく。
「所で、弥市さんに聞いていいですか?」
「なんだ?」
「弥市さんも八木橋様みたいなお侍さんだったのではないですか?」
「どうしてそう思う?」
「何となくですけど、与三さんや久助さんとは雰囲気が違いますし、そんな気がしたんですよ」
「なるほどな。お前もただの田舎の娘には見えぬが」
「えーこれは、奉公先の呉服屋で仕込まれたからですよぉ」
「そうか」
びゅう
「ひゃあ、風が出てきた」
菅笠をがっちり顎の下で二重に結ぶ。
「雨が降り出す前に日本橋に着くように行くぞ」
八木橋が声をかける。
「「へい」」
大八車と四人は小走りになっていく。
「おるりちゃんもつきあってくれるのかい?」
「あたしも、雨はいやですもん。
粕壁宿の女将さんが野分が来るかもって言ってましたよ」
「そりゃ大変だ」
びゅう びゅう
街道を行く人も見な小走りだ。籠かきでさえ走っているが、あれらは上半身は服を着ていないからお客のためだ。
ピカー
「光った!」
「雨がまだだから遠いだろう」
「いそげいそげ」
びゅう びゅう
ゴロゴロゴロ
「まだ遠い」
「早く早く」
「おるりちゃん早いなぁ」
「足には自信あるんです」
千住宿から一時はかかるところを早くに日本橋の袂にたどり着いた。
太鼓橋を上がるのに瑠璃も手伝って後ろから押す。
「すまんな」
弥市が隣で声をかける。
「困ったときはお互い様ですもん」
「そうだな」
太鼓橋を渡り切ると、そのまま通りを京橋に向かって進む。
「るりの家はまだなのか?」
「はい、そろそろです。そこの茶屋の手前で曲がるので」
団子の看板を仕舞っている様子が見える。
辺りの店も閉めるために、暖簾を下ろしているところがある。
早くも閉まってる大店もあった。
「そうか、皆とまれ」
弥市の声に皆が止まる。
「嵐が来ますから、お構いなく!」
風が少し強まる。
「いや、短い道中だったが瑠璃がいてよかったよ」
八木橋が少し笑顔で言う。
「そうだよ!」
「おっさんだけの長旅の最後の花って感じで!」
「ふふふ、じゃあ、皆さんまた」
「ああ」
びゅう
ガラガラガラ……大八車が予想通りにだて屋に入っていく。
もう、捕まってしまうかもしれないのに。
別れの挨拶で笑顔が引きつってやしなかったかと思ったけれど、嵐でそれどころじゃ無くて良かった。
真っ黒な雨雲が江戸城の向こうに迫っていた。
グッドボタンお願いします♪
お星さまありがとうございます。
ブックマークして頂くと励みになります!
それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。




