伍拾七【風呂と長芋】
一話落丁しておりました、申し訳ありません!
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粕壁宿の旅籠〈春の日〉の風呂に向かう。
「お客さん今からお風呂かい?」
女将さんに声をかけられる。
「はい。ちょっと楽しみです」
「これを使いな。あたしが内職で作ってるもんなんだ」
手渡されたものは、手拭いを小さく切って造った巾着袋。ほのかに糠の香りがする。
「まあ、ぬか袋ですか?ありがとうございます」
「裏の風呂は隣の飯盛旅籠と共有しているのさ。そっちは飯盛り女が風呂を使うんだけど、その娘たちがぬか袋を買ってくれるんでね」
「これ、売ってるんですか?」
「泊り客には売ってないよ」
「帰りに買いたいです」
「そうかい、なら声かけとくれよ」
「はい!」
一階の奥の札に案内されていくと、確かに男と女に染め抜かれた暖簾が並んでかけられていて、女の方をくぐっていく。
銭湯は混浴らしいのでそこへ行く勇気がない瑠璃は使ったことがなかった。いつも長屋でお湯を使った行水ぐらいで、そのほかは百沙衛門の屋敷の内風呂を借りていた。
もちろん都のお屋敷では立派な内風呂がある。
籠が並んだ部屋で着物を脱いでさらに進むと、一面湯気で視界が悪いけれど確かにそこは風呂だった。
木で出来た湯桶が三つぐらい並んでいる。
傍らには石が積まれている竈と壁に半分めり込んだような井戸があった。その壁の向こうが男湯だから。井戸が共有なんだろう。
「これを使っとくれ」
多分湯女と思われる浴衣姿の女性に一つの大きな桶を示される。
それにはお湯が入っていて、他の桶は空っぽだった。
「いま用意したから、丁度良いと思うけど、ぬるかったらそこの焼けた石をこの鉄の鋤で運んでこの中に入れると良い。
熱かったら、こっちに井戸があるから、この水を差すんだよ」
「わかりました」
「背中流そうかい?」
「大丈夫です、自分でやれますよ」
「そうかい、一応使い方なんだけど、先に体を流してから浸かるんだよ。
お嬢さんは一番湯だから綺麗なお湯だけど、この後は飯盛女が使うから湯の中をあんまり汚さないようにしてやってくれ」
「わかりました」
「あたしゃ今から男湯の世話をしてくるから、何かあったら大声を出すんだよ」
「ふふふ、わかりました」
こんなに沢山湯があるなら、頭も崩したいけれどそこは我慢で、湯おけから手桶にお湯を掬って体に流す。
丁度よさそうね。
貰ったぬか袋をお湯を溜めた手桶に浸してから体を擦る。ぬるりとした感触が面白い。
でも、あまりゆっくりしていたらあの四人組を待たせてしまうから、ササっと切り上げてお湯に浸かって、二十数えて出た。
今度はお役目じゃなくてゆっくり旅をしたいなと思いながら。
脱いだ着物を風呂敷に包んで、部屋に戻ろうとすると、
「おるりちゃんこっち!」
久助が隣の座敷から手を振っている。
「もう飯食えるって」
与三も手を振る。
その隣には弥市と八木橋も座っている。
皆そろいの浴衣だけど、同じだからこそ弥市が武士にしか見えない。姿勢というか醸すものが違うのか。
「あら?湯女さんに背中を流してもらわなかったのですか?」
「あんなので奥羽の果てからの汚れが綺麗になるかよ」
「三助ならまだしも、力が弱そうだからな」
「まあ」
「湯女の隣で男同士で背中を流したのさ」
「そうだったのですね」
「それに、女が目的なら初めから隣の飯盛旅籠にいくさぁ」
二人の農夫は朗らかに話すが、残りの二人は無言だ、
「るりは、八木橋様の隣に座れ」
弥市が言う。
「良いのですか?」
皆より上座だけど。
「空いてるから」
「じゃあ、八木橋様、お隣失礼します」
「うむ」
「皆さん揃った?ではお膳持ってきますねぇ」
給仕の中居が二人でお膳を運んでくる。
塩焼きにされた鱒と青菜のお浸し、そして短冊に切られた長芋と、お椀。
ご飯には麦が混ざっていた。
「頂いた長芋をそのまま切ったのと、すり流しにしました。どうぞ」
「「「「いただきます」」」」
しゃくしゃく
黒いお醤油がよく合う。
ずるずる…
すり流しおいし。
長芋を堪能していると、再び前に来た中居が急須のような銚子と盃が積み重ねて置かれた盆をもってきて、お膳に盃を配っていく。
「お嬢さんも飲まれますか?」
「あたしはお茶が良いのですけど」
「わかりました」
そう言って引っ込んだので、
「八木橋様、あたしがお注ぎしてもよいですか?」
「…うむ」
そう言って差し出した盃に手に取った銚子から酒を注ぐ。
「わ、八木橋のだんな、いいなぁ!」
「おるりちゃんみたいな良い子に継いでもらってぇ」
そう言う二人はもう飲み始めている。
八木橋は隣に座ってるけれど他の三人は少し開いて向いだ。
「行きましょうか?」
って言うと
「いや、おいらが行く」
「おいらも」
と二人が立ち上がってきて、瑠璃のお膳の前で並んだので順番に酒を注ぐ。
「どうぞ」
「うまい」
「おるりちゃんに入れてもらった酒はうまいなぁ」
「何をおっしゃるんですか、さっき二人が飲んでいたのと同じものですよ」
「気分の問題だよ」
「それが旨いんだよ、なあ八木橋のだんな!」
「うむ」
「そうなんですか?よかったです」
「これこれ、お客さん、お嬢さんはそんな女子じゃないでしょう?」
中居が二人の間に割り込んでくれて、お膳に番茶を置いてくれる。
「中居さんありがとう、でもこれぐらいなら大丈夫ですよ」
「でも、大事に育てられた娘さんじゃないの?あたしゃ色々なお客を見てきたからわかるのよ」
「ふふふ、こう見えても暴れん坊でしたよ」
「そうなの?良い人はもういるんでしょ?」
「一応許嫁は居ますけどね」
「えー、おるりちゃん婚約してるんだ」
「がーん」
「お前ら二人は里に嫁も子供もいただろ」
「おいらは独り身だ!」
「おいらの嫁はこわくて」
「ふふふ、あ、仲居さん、あの方、弥市さんにお酌を」
「ほんとだ、ごめんねぇお客さん」
「構わぬ」
「その間にお二人にもう一杯ずつお注ぎしますね」
にっこり。
「「うん」」
「八木橋様も」
「うむ」
そうして自分は番茶を飲みながら四人に飲ませ続けていた。
「あらら、皆酔っぱらっちゃったね」
仲居が瑠璃に話しかける。
ここの仲居は隣の飯盛茶屋でも働いているのだろう。
襟のあたりもくつろげていて、白粉ののった首筋から胸元までが見えいて艶っぽい。
普通の姫なら知らないことだが、瑠璃は分かっている。
「はい、歩き通しでしたからお疲れなんでしょう。お風呂に入ってお腹が膨れたから」
「丁度よかった。お嬢さんだけこれを」
と、塗りの椀に入れられたものを渡される。
「まあこれは!」
「隣の女の子にお客様から貰った甜瓜なんだけどね、結構おいしいから」
「いただきます」
「それ食べたら、旦那達は置いておいて部屋にお行き。こっちは後で起こして連れて行くから」
「お願いします」
少し種が残ってて、でもそれ用に新しく付けてくれた箸で頂く。
種のあたりがトロトロしていて、それごと口に入れる。
ほのかな甘味と鼻に抜ける瓜の香りを堪能する。
仕事でこんなに美味しい思いをして良いのかしら。
頬が緩む瑠璃だった。
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