伍拾伍【通すか否か】
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廊下を過ぎると、竈でご飯を炊く匂いがしてくる。
「もしや皆の飯も焚いておられるのか?」
昼にはまだもう少し時間があるが。
「羽盛殿も食べて行かれますか?」
「いやそう言う訳じゃなくてな」
「ふ……こちらです」
台所がある土間が見えてきた。竈には大きな羽釜と、小さい火が見える。それを横に見ながら廊下を過ぎて、連れていかれたところは四畳ほどの納屋に近い畳の部屋だった。
頑丈な鉄格子の入った窓がひとつ。
なるほど抜け出せないようになってはいるのだ。
「おうめ婆さん。旅人が置いて行った手甲や脚絆はありますか?」
「あるけど、お前様の体格に会うなら女ものだよ」
「それでいいですよ。ちょっと失礼しますね」
着物と袴を脱ぐ。腹のあたりに詰めていた手拭いも落ちて行く。
「お前さん女だったのか」
「そうなんですよ実は」
持っていた風呂敷を広げる。
「ちょ、ちょっと待ちな」
慌てるように部屋から出た婆さんが直ぐに戻ってきた。
手には湯気の立ち昇る桶が。
「ほれ、体をふきなさい。顔も」
目の前で手拭いを絞って渡される。
「ありがとう」
「たまげた、眉や目の周りも描いていたのかい?」
「そうなんです、背の丈だけは難しいですけど、顔はね」
「女子の姿に戻るんだろ?頭もやってやろう、簡単な島田で良いんだろ?」
「ありがとうございます」
「さっきの立派な旗本とは同じ人とは思えないねぇ」
「ふふふ、そうですか?」
「どうして女子の格好にするんじゃ?」
「いまから、怪しい荷物がここを通って江戸に向かうのですけど。後ろからつけていきたいと思って」
「ここで止めないのかい?」
「はい、江戸のどこを目指しているかを知る必要がありましてね」
「たしかに、侍の格好じゃつけるのは難しいだろうな」
「でしょう?」
「だが、お前さん一人でかい?」
「連れがいるんですよ」
「どこに?」
「さっき、土間に立ってたでしょ一人」
「ああ、昨日から来てる……まさか」
「あの人も今頃着がえているんじゃないですかね」
そう言いながら、結ってもらった島田に手持ちの櫛と簪をさして頭が出来ると、腰巻をして、足袋を履き替え、脚絆を付ける。
青と白の弁慶格子の着物はおはしよりをたくさんとって、裾がひざ下位の高さにして歩きやすくする。そして紅色の帯も老婆がやってくれた。
「よし、可愛くなりましたよ」
なぜか老婆が満足げに瑠璃を見上げる。
「あと、これも被りなさい。
あんた、色白なんだから。夏のお天道様はきついんだからね」
菅笠も渡された。
「ありがとうございます。
おうめ婆さん手間賃を」
と銀板を老婆に渡す。
「いらぬのに」
「ご公儀からのお金ですから、遠慮しないで」
「わかった。じゃあせめて、握り飯を用意するから食べていきなさい」
「ふふふ、ありがとうございます」
「それから刀はどうするんだい?流石にその恰好に大小はおかしいだろ」
「これ、竹光なんでねぇ、捨てといてもらっていいですか?」
「なんだ。じゃあ、こっちを持って行きな」
旅杖を渡される。
可愛らしい赤い組みひもが括られて房がぶら下がっている。
その見た目に似合わず、やけにずっしりしている。
「どうしてこれを?」
両手で持って力を入れると組みひものあたりで二つに外れていき、中から細身の刀身が見えたが、すべてを引きずり出す前に元に戻した。
カチリ
「三年ほど前にこの関所を通った女から取り上げたんだよ」
「女?」
「たしか玉むしとかいう女郎上がりの女らしいんだが、女郎がその杖は無いだろ?」
「そうですね」
「でも、お上の仕事をしているお前さんなら持っておいた方が良いと思う。その風呂敷には紫色の十手も入ってたしな」
隠していたつもりが見られていたのか。さすがの目利きだ。
渡した銀板ぐらいでは足りないほどの配慮を貰ってしまう。
「おうめ婆さんはどうしてそんなに……」
「あたしゃ、江戸から出る女と入ってくる鉄砲を防ぐためにいるんだよ。
まあ、それだけじゃなくてね、江戸には孫が何人かいるからさ」
「お孫さんが」
「とはいえどの子もあんたより大きいよ」
「ふふふ」
「江戸を頼むよ」
「はい」
ずっとは無理だけど、これから来る荷物の行方だけでもしっかり片を付ける。
「さ。これを持ってお行き、あの男勘三といったかね、あれの分とふたつ」
「ありがとうございます…ってこれは?」
竹皮に包まれたお弁当はもう貰ったというのに、まだ皿に乗った白い握り飯を出してくる。傍らにはたくあんも付けて。
「あんた、朝ごはんもまだなんだろう?これは今食べな」
「はい」
土間の横の廊下で食べる程よく塩味のきいた暖かい握り飯とたくあん。
板張りには番茶の入った湯呑まで置いてくれる。
瑠璃が食べている間、おうめ婆さんは江戸のことを色々と聞いてくる。それに当たり障りなく答える。
「正直、人見女って箱根の時とかすごく怖かったですけど、おうめ婆さんは全然違うんですね」
「そりゃあ、あたしだって通してはいけない女は厳しくするよ。それが仕事だからね」
「それはそうですね」
「だけど、久しぶりにこうやって世間話が出来て良かったよ」
「私もです」
「おうめ婆さん瑠璃殿は?」
先ほどおうめ婆さんを呼んでくれた男がやってきた。
「瑠璃さんはほれ、ここに」
「は?」
「私が瑠璃ですよ」
「な……」
「ははは、面白い」
老婆が楽しそうに笑うのにつられてしまう。
「ふふふ、ごめんなさいね」
「る…瑠璃殿」
「おるりと呼んで下さい」
「……おるり、例の荷物が来たようだ」
「わかりました。ではおうめ婆さん、ごちそうさまです」
「ああ、気を付けるんだよ」
「平川さま、ありがとうございました」
「うむ、例の一行はもうすぐ入ってくる」
「わかりました」
土間にいる男が一人減っていた。
朝一に入ってきた入り口から出ていく。
長棒を持った二人は入ってきた侍だとは気づかなかったようだ。
夜通し乗ってきた馬を取り換えて小さな馬が待っていた。
そのそばには護身用の脇差だけを腰にした旅人姿の叔父。
「瑠璃」
「うん、どうするの?」
「お前が後ろから来るか?」
「わかった」
弁当をひとつを馬を引いた勘三に渡して距離を取る。
目の前には大きな川が流れていて、夏だというのに爽やかな風が吹いている。
それを旅人らしく眺めながら後ろを通る気配をやり過ごしていく。
この関所までは牛で来たらしいが、関所で置いたらしい。
もしかして今は瑠璃が乗ってきた馬と同じ草を食んでいるかもしれない。
三人の人足とそれが囲む一台の大八車、それには俵が五俵。その前を歩く一人の男。さらに先に叔父の姿。
五俵って……あれ全部弓矢だったら、多すぎない?
身震いを抑えてゆっくり歩きだす。
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