伍拾肆【ちょっと早掛け】
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少しでも早く動けるようにと櫛や簪を外して、鬢付油を付けてない島田の髷を元結を解いて結い直し、馬の尾のように垂らした。
そうして素早く、男物の着物と袴に着替える。
「はい、足袋」
「お、お染さん」
「急いでるんでしょ」
「そうだけど」
座ることなくお染に足袋を履かせてもらって、紐も括ってもらう。
「おおきに」
「百様も呼び出し?」
「うちだけや。老中様の所に行ってきます」
大小刀を差し、懐の十手を確認し、最小限の荷物を持って、玄関を飛び出す。
幸い、木戸番も自身番も表に見えるところでは人気が無い。
きっと三人で証文を探しているのだろう。
苦無に結ばれていた紙には老中安部唯規の花押が入っていたので、それを使って、桔梗門にすんなり入れてもらい、溜之間を通って老中の控えに行こうとすると。
「やや、其方はお小姓の瑠璃殿ではござらぬか」
「これは河口奉行。貴方様も呼ばれてですか?」
「いや、お主を呼んでもらったのは私だ、たまたま此処にいたのでな」
「なるほど、では急ぎましょうか」
「うむ」
「老中、河口殿と瑠璃殿が到着いたしました」
「通せ」
「急に呼び立ててすまんな」
「いえ、そのために江戸にいるのですから」
「うむ。まずは儂から」
「はい」
「一昨日の昼に奥羽から日光に牛で荷物を運んでた一行がおっての、積み荷は猟師のための弓矢を日本橋の店に運んでるという事だった」
「弓矢ですか」
「だが、雨が降っておってな。荷物は俵だったので、宿で留まって雨が止んでからこちらに向かうという事じゃ」
「そんな、長距離で雨対策をしてないのですね」
「雨で弓の膠が緩んだり矢じりが錆びたりするのかもしれないですな」
「どのみち、江戸に入る怪しげな荷物をみたら連絡できるよう、伊賀者を各宿場町に配備していたのだ。そこから早馬で知らせてきたのだ」
「ただ、猟師の道具ぐらいでは止めることが出来なくてな」
「しかし、量が多いと脅威でしょうし、どの店が仕入れたかも問題でしょう」
「……それが、どうやらだて屋に向かっているらしい」
百沙衛門や瑠璃からの報告が届いている。
「本当にだて屋なら、武器を扱う免状は無いから、検めの理由にはなる」
「うむ、引き続き町方では、だて屋周辺を警戒しておくから」
「わかりました、では、このまま私も逆流しまして、栗橋関から様子を見ようと存じます」
「うむ、馬は準備させている」
「はっ」
「……頼んでおいてなんだが、無茶をするなよ」
「はい、わかりました」
「たぶん勘三が栗橋関に留まってくれているかもしれぬ」
「はっ」
◆◇◇◆
パカラッ パカラッ
久しぶりに馬で駆けることができて、不謹慎にもすこし楽しい瑠璃だ。
しかも、東海道で乗った馬よりすこし背が高くて足が長い南部馬と呼ばれるそれこそ奥羽のほうから献上された馬だそうだ。
「我らなら、途中で疲れるやもしれぬが、其方のように小柄な女子なら一日走れるじゃろう」
城の馬場から連れてきた馬の轡を弾きながら河口が言っていた。
なるほど、陽が暮れてから夜通し歩いても疲れを知らぬ。
しかも、夜道を迷うことなく街道を進んでいく。
陽が落ちる寸前、途中の村で一度馬を止めて、飼葉と井戸水を貰う。
夏とは言え夜露が気になって、瑠璃自身は羽織を着て、江戸城でもらった握り飯とお染が持たせてくれたこしあんの酒饅頭を食べる。
「お染さんのカンが的中やな」
瑠璃が着替えている間に風呂敷に水の入った竹筒と、羽織、着替えの着物一式、筥迫、そして饅頭を入れて包んでくれていた。
準備するに越したことはないからと。
河口は北町奉行から、お染と百沙衛門に瑠璃の出立を知らせてくれると言っていた。
そう遠い場所ではないし、大丈夫だろう。勘三と落ち合えるみたいだし。
「さあ、もう少し頑張っておくれ」
ブルルッ
夜通し頑張ってくれた馬のおかげで、明け方には栗橋関が見えてきたのだった。
「ご苦労」
低い声を意識して通ろうとすると、長棒を持った二人の役人に止められた。
「御改めをお願いしております」
「うむ」
「こちらへ」
いきなり関所の一番奥に通された。
「伴頭、お連れしました」
「どうぞお入りください」
土間半分座敷半分の部屋に通される。
土間にはもう一人長棒を持った足軽風の男、傍らには槍や刺股が幾つか立てかけられている。
座敷には横を向いてものを書いている男、そして奥に一番貫禄のある男が座っていた。
「私はこの栗橋の関所の伴頭の任を賜ってます平川惣兵衛と申します。
これは……失礼ですが、本当に老中様からの使者でいらっしゃいますか?」
「うむ、何か?」
「あ、いえ。もっと何といいますか逞しい方が来るのかと」
「確かに、外見だけで侮られることはよくある。だが、こう見えて小野派一刀流や関口新心流に荒木流など複数の流派の免許皆伝を持っている」
「それは武士としては中々素晴らしいですな。
さて一応、通行手形はお持ちですか」
「うむ、これを」
老中に手渡された書状を包まれた奉書ごと渡す。
武士の体で来ているので、江戸の羽盛家の瑠璃として記されている。
そして、老中の花押と印。
「確かに確認いたしました、どうぞお通り下さい」
「うむ、で頼みごとが一つあるのだが……」
「何でしょう」
「人見女が控えている部屋は無いか?」
「人見女ですか?」
「ちと着がえたいのだが、馬とは言えかなり走ってきたのでな。女の手が必要で」
「かなりの婆ですけれど?」
「女ならよい」
「少々お待ちください」
平川の横で書き物をしていた男が立ち上がって横手に下がると、ほどなくして一人の老婆がやってきた。
腰も少し曲がった小さなその人は眼光だけは鋭かった。
「何用ですか?平川様」
「この、旗本の羽盛殿が着替えたいそうで、手伝ってやってくれぬか?」
「旗本様とは言えよっぽどのお坊ちゃんですか?
一人で着替えられないとは」
「これ、おうめ婆」
「すまんな、ちと手を貸してくれぬか」
「……こちらへ」
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