伍拾【三匹が守る】
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「瑠璃は?」
「お休みになるようです」
勘三は、岡っ引きのような身軽で暗い色の着物という出で立ちだ。
「どっちの部屋で?」
「はい、柿の木のある方です」
「……それでは寝ないのではないか?」
「暖かい麦湯を飲ませましたんで寝るでしょう」
「そうか」
二人のやり取りを静かに見守っていたこの自身番の男を見やる。
「松助この人は、勘三さん、瑠璃の叔父筋にあたる人なんだが、基本はあの子の随身で時には影のような存在だ」
「随身……」
「はい、まああの子の父親も心配性ですからな、だが末娘ですからやりたいようにさせてやりたいと思ってもいるのです」
「先日、都での挨拶で初めてお会いしたが一見柔和そうで、しかし侮れない雰囲気は醸してらしたな」
「おや、百沙衛門さんはなかなか良い目をしてますね」
勘助は懐から暗い色の手拭いを出しててっかに被りながら続けて話す。
「百沙衛門さん、私は羽盛の殿様からこの後奥羽に行くように言われておりまして」
「昼間の地図か?」
「へえ、北のお奉行様から廻って来たらしいです。
ですから瑠璃をお頼みいたします」
「もちろんだ」
「そうだ。あと瑠璃には伝えたんですがね」
自身番を出ようとする勘三が思い出したように百沙衛門に振り返る。
「何だ?」
「あの子の姉の珊瑚からの伝言で、祝言の祝いの席は来なくてよいから、きちんとお勤めしてから顔を見せるようにと」
「ああ、まだ帰れそうにないからな。有難い」
「では、お先」
そう言って勘三は気配ごと一瞬で消える。
◆◇◇◆
「……随身って……羽盛の殿様って言ってたな」
松助は煙草盆で煙管に火をつける。
「ああ、羽盛様の京の都の方の親戚筋を知ってるか?」
「確かあちらは公家の……」
「そうだ。瑠璃はその三女だ」
「つまり姫って事なのか?」
「まあな」
「だから俺は無茶をしがちなあれを守りたいのだ。たとえ俺より剣の腕が上でもな」
「随身の勘三ではなく?」
「あれはあれで守っているのだ」
「離れることが守ることになるのか?」
「勘三が行かなければ、瑠璃が行くと言い出しかねぬからな」
困った顔で笑う。
「なるほど、とんだじゃじゃ馬姫なんだな」
「そう言うことになるな。
今日もさっそく疑わしい所に目星をつけて、この長屋を借りる段取りを整えて。
あっという間に探していた人相書きの男に近付いたようだ」
「は?あの?」
「ああ」
「ここだけの話。
さっきの勘三と瑠璃が、浪速の呉服屋の女将の死体を拾ったところから始まっているんだ」
「呉服屋だと?」
「うむ。その呉服屋の名前はえびす屋というのだ」
「えびす屋?なんだか聞いたことあるような」
「こちらでは呉服屋をやっているかどうか分からないが、丁度あの柿の木の裏の家に古くから〈えびす屋〉と書いた板切れが貼ってあったらしいと、お染が瑠璃に教えたらしくて」
「ああ!それで!」
「俺が先に聞いておけばこんなことにならなかったのに。
さっさと切り上げて大坂に帰りたかったのだがな」
少しお染に裏切られた気分だよ。
「もしかして、この件が片付かなければ祝言があげられないのか?」
「まだ、何時にするかは決めていないからな」
「わかった。
ならそのえびす屋の家を気にすればいいのか?」
「それと、その向こうの表通りにある〈だて屋〉」
「だて屋?呉服屋の?
そう言えば二日ほど閉めると言っていたな。明日は開くのじゃないか?」
「そうか、明日は前から見に行くかな」
「百、お前も無茶するなよ。所帯を持つんだろ」
「ああ、わかっている」
「そういや、百の弟の東次郎様は?江戸で留守番かと思っていたらいつの間にか居なくなっていたし」
「あいつは、与力の孫娘に婿入りしていて、表向きは藤岡と名乗っているが今は他の家の家長になっている」
「次男だからか。
お前も気を付けなければ藤岡家がやばくなるぜ。慎重に動くこったな」
「わかってるさ。だが、これは一つの武士の家どころの騒ぎじゃないんだ」
「浪速の件はやばかったのか?」
「……おそらく本命は江戸だ」
「な……」
「だから、今は北町奉行の河口殿ひいては老中からの指図もあって動いている」
「もしかしておるりも?」
「あいつは上様のコマだ」
「……それなら無理をしてしまうのも分らんでもないのか?
ただの目明しの俺にはわかることは無いがな」
「まあ、深くは考えず、最悪の災いを防ぐために動くんだ」
「わかっているさ」
松助がゆっくり吐き出した煙に百沙衛門が目を細める。
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